年末年始は「書く力」を伸ばす好機。ポイントは「相手に合わせて書く」「書いたものへのリアクション」【子どもの国語力を考える】

子どもの「国語力」「読解力」について考えるシリーズ記事。今回は家庭での「書く力」の伸ばし方について解説します。
執筆/伊藤氏貴(明治大学教授/文芸評論家)

英語教育でいう4技能、つまり「読む」「書く」「聞く」「話す」という4つの力が、ここのところ国語でも重視されるようになってきました。国語の中心は広い意味での読解力にあると言ってかまいませんが、かつての「読む」というインプット一辺倒から、「話す」などのアウトプットにも注目が集まってきたのはよいことだと思います。

「聞く」と「話す」とは車の両輪のようなもので、人の話をよく「聞く」ことで「話す」ことも上達しますし、逆に昔から「話し上手は聞き上手」とも言います。

同様に、「読む」と「書く」も切り離すことのできない関係にあるのですが、学校ではどうしても「読む」に偏りがちです。それは、同じ一つのテキストを一斉に「読む」授業に比べて、「書く」の場合は、子どもたちがそれぞれ異なるアウトプットをしますので、個別に対応しなければならないからです。教師の過労が問題になっている昨今、作文指導を熱心にしてくださる先生に出会えるとしたら、大変な幸運だと言わねばなりません。

では家庭で、ということになっても、なかなかどうしていいかわからないかもしれません。読解の問題集はたくさんあれど、作文のためのよい教材というのはなかなか見当たりません。あったとしても、結局のところ、誰かが子どもの書いたものを見てきちんと評価してあげなければなりません。自己採点は不可能です。

でも、この時期、年末年始はお子さんの「書く」力を伸ばす、またとない好機です。その簡単な方法をご紹介します。字さえ書ければ、いくつからでもはじめられます。

「書きたい気持ち」がなにより大切

もったいぶるわけではありませんが、具体的な方法に入る前に、「書く」力を伸ばそうとするときに注意しなければならない点を2つ、先に述べておきます。

まず、「書く」のは4技能の中でも特に主体的な活動だという点があります。簡単に言うと、「書く」力は本人がやる気にならなければ絶対に伸びない〉ものだということです。

たとえば、内容にあまり興味が持てない文章でも、読めば理解はできるということはあるでしょう。しかし、興味のない、気乗りのしないことについていくら書いても、書く力はまったく伸びません。

ですから、全員一律に同じものを読ませて書かせる読書感想文にはあまり効果がないのでは、と思います。「読む」力は多少つくかもしれませんが、「書く」ことはむしろ嫌いになってしまうのではないでしょうか。

書きたいものを書かせる〉というのが、「書く」力を伸ばす上で最も大事なことです。

書いたものにはリアクションが必要

次に、「書く」ものには宛先が必要だという点があります。これが同じアウトプットでも、「話す」と異なる点であり、ついなおざりにされがちなところです。つまり、「話す」の場合は、必ずそこに相手がいて、返事や表情などのリアクションがありますが、「書く」の場合は、そもそも誰を相手に書いているのか想定していないことも多く、また実際書きっぱなしできちんと読んでもらえない、ということが往々にして生じます。これでは力はつきません。

大事なことは、できるだけ具体的に相手を想定するということです。たとえば私は今、この文章を、小学生のお子さんをお持ちの親の方々を想定して書いています。いや、実は、昔の教え子で、現在小学生二人の親となっていて、今でもときどき子育ての相談をしてくる特定の個人を念頭に置いて書いています。

これは昔、私自身がある編集者から口酸っぱく言われたことです。「誰にでもわかるようにというのは、一番曖昧でわかりにくいんです。友だちでも誰でもいいので、これを伝えたい知り合いを一人頭に思い浮かべながら書いてください」と。なるほどと膝を打ちました。それ以来、このことばを深く胸に刻んでいます。

他の誰にも見せたくない日記もあるかもしれません。でもアンネ・フランクも、その日記をキティという想像上の友だち宛ての手紙として書いていました。キティがいなければ、『アンネの日記』はこれほど広く長く読み継がれるものとはならなかったでしょう。特定の相手がいることで、文章は俄然生き生きとしてくるのです。

さらには、一方通行にすぎない想像上の宛先よりは、実際に誰かが読んでくれてリアクションをしてくれるほうが、書き手にとってはよほど励みになります。また書きたいと思うようになります。学校の宿題の作文やレポートが、出しっぱなしで先生から何のリアクションも返ってこないとすれば、やる気になれないのも仕方ありません。〈書いたものには必ずリアクションを返す〉ことが大切です。

年末は書きたくなるチャンス

さて、ではいよいよどうやって上の2つの点を踏まえつつ子どもに文章を書かせるか、という具体的な方法についてですが、年末にはそのためのよい機会がたくさんある、ということにお気づきの方もいらっしゃるでしょう。

クリスマスにはクリスマスカード、年末には年賀状を書くご家庭も多いでしょう。もしそうなら、それをたんにこなさなければならない行事ではなく、ぜひお子さんが「書く」力を伸ばす機会にしてあげてください。

宿題の感想文とは異なり、きれいなカードを選んだり自分で作ったりするなかで、自然とやる気も湧いてくるでしょう。そのカードにできるだけたくさん文章を書くように促してください。

相手は友だちでしょうか、家族でしょうか、あるいはサンタさんでしょうか。大事なのは、同じ文言のカードを量産するのでなく、〈相手にあわせて内容を、さらには文体を変えること〉です。もしサンタさんにプレゼントをお願いするなら、ただ「○○ください」ではなく、プレゼントを運ぶサンタさんへ、どんなねぎらいや感謝のことばを伝えることができるでしょうか。

年賀状も、できるだけ相手ごとに書く内容を変えるようにしてください。手書きの文言が一切入らず、裏も表も全部印刷、という年賀状は、そもそももらってもあまり嬉しくもないのではないでしょうか。一人ひとり内容を変えるとなると、大勢には出せないかもしれませんが、相手がそれを読んだときのリアクションを予想しながら書くことで力がつきます。

クリスマスや年賀状よりもお薦めなのは、家族の間で、年末や年始に一年を振り返り、互いへの思いを伝える長めの手紙を書きあうことです。離れて暮らしているおじいちゃんおばあちゃんへの手紙もいいでしょう。

返事を書くことで生まれるサイクル

さてこうした、具体的な相手を想定した文章であれば、おそらく自らすすんで「書く」ことができるでしょう。基本的に相手を喜ばせたいという思いに根差した文章は良い文章です。そういう良い文章を書こうと自ら工夫することで、「書く」力が身に着きますが、主体性とは別にもう一つ大事な点がありました。それは、書いたものにはリアクションが必要だ、ということです。

心のこもったカードや手紙をお子さんからもらったら、さぞかし嬉しいことでしょう。ではその嬉しさをどのように表現するでしょうか。

その場で「ありがとう!」といって抱きしめるのもいいですし、ついつい財布の紐が緩んでお小遣いやプレゼントというかたちで現れることもあるかもしれません。

でも、そのどれも「返事」にはかないません。相手からの、同じくらい心のこもったリアクションに勝るものはないのです。サンタさんはプレゼントだけでなく、手紙の返事もくれるでしょうか。

その返事を読むときに、お子さんの「読む」力も育ち、こうして「聞く」←→「話す」のときと同様の「読む」←→「書く」の好循環が生まれます。そして、「また書きたい」というさらなるやる気をも引き出すことができます。

ここからさらに、手紙を書くということを別の機会にも広げていけるようになれば、「書く」ことの基本的な力は無理なくつけることができるでしょう。SNSなどが発達し、手紙を書くことが少なくなりつつある今だからこそ逆に、相手のことをゆっくり考えながらことばを紡ぐ訓練が必要です。

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記事執筆

伊藤氏貴(いとううじたか)|明治大学文学部教授・文芸評論家
昭和43年生まれ。都内私立中・高一貫校の英語教師、大手予備校の現代文講師などを経て、現在に至る。中学、高校の国語教科書の編集委員を務める。著書に『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』『国語読解力「奇跡のドリル」小学校1・2年』『教育論の新常識 格差・学力・政策・未来』(共著)などがある。

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