ニュースで耳にする「経済安全保障」って何?
最近、テレビや新聞では「経済安全保障」という言葉が頻繁に聞かれます。中東ではイスラエル情勢が激化し、多くの日本船舶も航行するスエズ運河〜紅海の海上ルートの安全が脅かされています。また、米中の間では台湾を巡る軍事的緊張が続いており、この「経済安全保障」は日本にとって、とても重要なものになっています。では、「経済安全保障と」はどのような意味なのでしょうか。
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「経済安全保障」とは食糧や資源、エネルギーなど必需品の安定供給を守ること
理解するためには、まず「安全保障」という言葉を理解することが重要です。「安全保障」という言葉もテレビや新聞でよく耳にしますが、これは簡単に説明すれば、「他の国からの軍事的な脅威から、自分の国の領土や領海、領空を守る」ことを意味します。言い換えれば「国家の安全保障」を意味し、防衛と似たような意味です。たとえば自衛隊は日本の安全保障のために、陸と海、空から活動をしています。「安全保障」本来の意味は非常に軍事的なもので、皆さんが世界史、日本史などで学ぶ太平洋戦争時の日本は、正に国家の安全保障をいかに守るかといった状況でした。
一方、「経済安全保障」は軍事的なものではありません。簡単に説明すれば「国の経済の繁栄、国の経済水準、または国民の経済生活などを維持するため、食糧や資源、エネルギーなど必需品の安定的な供給を維持する」ことを意味します。安全保障は国家、経済安全保障は企業が主要なアクターとなります。
中国が日本産の水産物輸入をストップ
今日、政府と企業が協力する形で、経済安全保障への取り組みを強化しています。分かりやすい例の1つに、中国の事例があります。昨年8月、中国は突然日本産の水産物の輸入を全面的にストップしました。突然の発表に、ホタテ貝やカニなどを中国に輸出してきた水産業者たちからは、「売り上げの半分以上を中国への輸出に依存してきたので、このままでは大きな損害となる」など悲鳴の声が上がりました。今日でも中国は輸入を再開しておらず、今後も長期的に続く可能性があります。
これは明らかに日本の「経済安全保障」にとって大きな問題です。政府や水産業界はこれに対応するため、日本国内での消費を強化するよう策を練り、インドやASEANなど他の国々への輸出を強化。中国だけに依存する現状を変えようとしています。これはリスク回避策となりますが、日本の水産業者を守るためにも大切な行動と言えるでしょう。
海外企業と共同で経済安全保障策を行う例も
また、熊本県や北海道に半導体の製造工場を作るニュースが頻繁に流れていますが、これも経済安全保障の一環です。台湾は世界の半導体業界をリードする存在ですが、台湾の大手半導体企業TSMCは2月、熊本県に2つ目の製造工場を建設することを発表しました。近年、台湾を巡っては有事の可能性が指摘され、中国と台湾の間では軍事的な緊張が続いています。仮に戦争が勃発することになれば、台湾での半導体製造は事実上難しくなりますが、TSMCはその可能性も視野に他国で製造を継続できるように努めています。それが日本国内での工場建設です。
日本の製造業の多くは、最先端の台湾産半導体に依存しており、有事になればその半導体が入ってこなくなるリスクがあります。そのリスクを回避するため、日本は台湾と共同で熊本県や北海道での工場建設を急ピッチで進めているのです。これも日本の経済を守るという経済安全保障の一環です。
この記事のPOINT
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①「経済安全保障」とは食糧や資源、エネルギーなど、必需品の安定供給を守ること
②戦争など、今後起こりうるリスクに備え、国や企業が対策を行っている
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。