上への移動を表す「あがる」と「のぼる」。どう違うの?
「あがる」と「のぼる」は、どちらも上への移動を表すという点で共通する類義語です。ではその違いは何かと聞かれたら、すぐに答えられますか?
結論から先に言いますと、この2語の意味の違いは、どこに焦点があるかの違いです。
「あがる」は到達点に焦点があって、そこに達することを表すのに対して、「のぼる」は経過・過程・経路に焦点があるのです。
少し細かな話になりますが、具体例で見てみましょう。
「あがる」は到達点、「のぼる」は経過を表す
「坂道を上がる(登る)」「階段を上がる(登る)」「煙が上がる(昇る)」などでは、どちらの語も使えます。ただ、これらの場合も、「あがる」は到達点(坂道の上・階段の上・空の上)に焦点があり、「のぼる」は途中の状態に焦点があります。従って、「はしごを登って、屋根に上がる」とか、「山道を登って、展望台に上がる」という使い分けができるわけです。
ただ、おもしろいのは、同じ「煙」でも、合図や警報などのために使う「狼煙(のろし)」は、「あがる」とは言いますが、「のぼる」とは言いません。「狼煙」は上に移動する途中の状態には意味がなく、上に達した状態に意味があるからなのでしょう。
「舞台に上がる」「座敷に上がる」「プールから上がる」「席次が上がる」なども「登る」は使いません。これも途中の経過を考える必要がなく、到達することに意味があるからです。
「あがる」「のぼる」の違いは、細かな点を見ていくとさらにありますが、「あがる」=到達点、「のぼる」=経過だと理解していれば、おおかたの説明はできます。
「あがる」「のぼる」の漢字表記について
なお以下は蛇足です。ただ少し大事な話なので、おぼえておいても損はないでしょう。「あがる」「のぼる」の漢字表記についてです。
ふつう「あがる」は「上がる」「挙がる」「揚がる」と書き、「のぼる」は「上る」「登る」「昇る」と書きます。
これらの漢字の使い分けはどう考えたらいいのでしょうか。
これについては、2014年に発表された文化審議会国語分科会による「『異字同訓』の漢字の使い分け例(報告)」がわかりやすいと思います。それによりますと、「あがる(あげる)」の漢字の使い分けは以下のように説明されています。
【上がる・上げる】位置・程度などが高い方に動く。与える。声や音を出す。終わる。
【揚がる・揚げる】空中に浮かぶ。場所を移す。油で調理する。
【挙がる・挙げる】はっきりと示す。結果を残す。執り行う。こぞってする。捕らえる。
「登る」は確実に上がっていく様子、「昇る」は一気に上がっていく様子を表すときに使う
「あがる」の使い分けは比較的容易かもしれません。
「のぼる」の使い分けに関しては、以下のような注記があります。
「上る」は広く一般に用いるが,「登る」は急坂や山道などを一歩一歩確実に上がっていく様子,「昇る」は一気に上がっていく様子を表すのに用いることが多い。
「のぼる」は、上の方向に移動するその移動の仕方や速度によって語を使い分けるということなのです。