PISA(学習到達度調査)とは? 調査内容、近年の日本の動向、教育政策への影響を解説【日本の子どもの学力を考える】

「PISA(学習到達度調査)」について聞いたことがあっても、どのようなものなのかよく知らない人もいるかもしれません。PISAの目的や調査方法、内容を紹介します。日本の現状や教育政策への影響も知り、子どもの教育に生かしていきましょう。

PISAとは?

「PISA」とは、どのような調査なのでしょうか。目的や調査方法など、PISAの詳細を確認し理解を深めましょう。

OECDが実施する国際調査

PISAは「ピザ」と呼ばれており、英語の「Programme for International Student Assessment」を略したものです。「OECD(経済協力開発機構)」が実施している国際調査の一つで、学習到達度調査を指します。

PISAは2000年から始まり、以降はほぼ3年ごとに継続されています。15歳の生徒を対象に、生活における実践的な問題で、義務教育で習った知識・技術をどのくらい応用できるか調べるのが目的です。

また調査結果から、自国の教育制度の長所・短所と課題を把握することで、教育の政策や実践の改善につなげられます。

出典:PISA

PISAの調査方法

PISAでは3年ごとに、数学・科学・読解の3分野における知識や能力が調査されます。ただし、各回で一つの分野を決めて重点的に調査しており、最近実施された2022年では、数学的リテラシーに重点が置かれました。なお2022年の調査には、81の国や地域から約69万人、日本からは約6,000人が参加しています。

2015年には調査方法が、筆記型からコンピューター使用型に変わりました。また、2022年の数学と読解では、受験者の回答に応じて出題レベルを変える「多段階適応型テスト(Multi Stage Adaptive Testing : MSAT)」が導入されています。MSATの導入により、測定結果の精度が上がりました。

PISAの調査内容

各分野では、具体的にどのようなことを調査するのでしょうか? それぞれの分野の調査内容や、定義について詳しく紹介します。

出典:生徒の学習到達度調査

数学的リテラシー

数学的リテラシーは、さまざまな文脈を数学的に解釈する能力を指します。単に、問題を公式に当てはめて解く計算力ではありません。実生活における数学的思考や、根拠に基づく判断・意思決定に必要な能力という意味です。

この能力には物事を数学的に推論することや、数学的な概念・事実・ツールなどを用いて出た結論を記述・説明・予測することが含まれています。例えば、表計算ソフトを用い、データを並べ替えて問題に答える、グラフを読み解いて問題に答えることなどが挙げられます。

科学的リテラシー

科学的リテラシーは、科学に関連するあらゆる問題に携われる能力のことです。科学的リテラシーを有する人になるには、「物事を科学的に説明する力」「科学的な探求を評価・計画する力」「データや証拠を科学的に理解する力」が必要です。

このような能力があると、科学やテクノロジーに関連するさまざまな議論に、率先して関わることに役立ちます。調査には、シミュレーションを行って得たデータから答えを導き出す問題や、現象・データ・証拠を科学的に解釈する問題が出されています。

読解リテラシー

読解リテラシーは、テキストを理解・利用・評価・熟考する能力を指します。自分の目標を達成することや、知識と可能性を高めるために必要な能力です。社会に参加するためにも重要と考えられています。

ブログ・書評・Webサイトなど、多様な形式のテキストを用いて、必要な情報を探し出す問題や、テキストが事実か意見かを評価・熟考する問題が出されます。

2018年には、定義に「評価」という言葉が加えられました。SNSなどで誰もが簡単に発信できる世の中になったことで、情報の信頼性を見極める能力が必要とされています。

質問調査

学力とその背景の関連性を見るために、生徒・学校それぞれに対して質問調査も行われています。生徒向けの質問は、自身や家族・家庭の状況、授業の雰囲気や教師の支援といった学習環境に関するものです。また学校内外で、パソコンやスマホをどの程度利用しているかというICT調査もあります。

学校に対しての質問は、校長またはその指名を受けた人間が回答するものです。学校の管理・運営の体制、成績評価や多様な生徒への対応方法まで、幅広い質問で学校の実情が調査されます。

PISAの日本の順位

日本は世界的に見て教育水準が高いといわれていますが、PISAにおける日本の順位はどうでしょうか?  近年の変化や課題、海外からの評価についても紹介します。

3分野すべてで平均得点が上昇

PISAは2018年に実施された後、3年後の2021年調査が新型コロナウィルスの影響で延期され、2022年に実施されています。この調査では、すべての学力分野で日本の平均点が上昇する結果になりました。

数学的リテラシーは6位から5位と、大きな変化はありません。しかし、科学的リテラシーでは5位から2位、読解リテラシーでは15位から3位と大幅に上昇したのです。

他の参加国や地域と比べて、日本はコロナ禍によって休校した期間が短く、学習機会を確保できたことが要因の一つといわれています。学校における授業の改善や、ICTの整備が進んだ影響も考えられます。

レジリエントな国と評価される

日本は、韓国・台湾・リトアニアとともに「レジリエントな国」と評価されています。レジリエントは「柔軟性・回復力がある」という意味の英語「resilient」からきています。

コロナ禍に対する国や地域の対処状況を知るため、学校への所属感や教育の公平性、数学の成績の三要素が、コロナ禍前の2018年と比較・分析されました。

日本はすべてにおいて安定・向上していることから、困難な状況でも学習環境を保つ力の強い、レジリエントな国と評価されたのです。

一方で、自律的に学習する自信がなく、幸福感が低い生徒の割合が多いという結果が出ており、改善すべき課題もあります。

出典:PISA2022のポイント|文部科学省・国立教育政策研究所

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PISAの教育政策への影響

PISAの結果は各国の教育政策に生かされています。日本での影響や、教育現場での今後の取り組みについて見ていきましょう。

各国で教育の方向性に影響を及ぼす

各国ではPISAの得点順位を上げるために、さまざまな取り組みを行っています。日本は2000年に8位だった読解リテラシーの順位が、2003年に14位と大幅に下がりました。「PISAショック」と呼ばれ話題になったので、知っている人もいるでしょう。

PISAショックを受けて、2005年から読解力向上のためのプログラムが導入されます。読解分野で自由記述問題の回答率が低かったため、テキストを理解したり熟考したりする能力を育むことが目標となりました。

また、PISAは学習指導要領にも影響を及ぼしています。PISAに対応するため、2008年には思考力・判断力・表現力の育成が、2020年には主体的な知識の活用など、アクティブ・ラーニングの視点が盛り込まれました。

今後に向けた教育現場の取り組み

日本においては、国語以外の授業でも、音読や文章にまとめる機会を増やすなど、読解リテラシーの向上に対する取り組みが引き続き行われています。

コロナ禍による学力低下を懸念して、放課後に算数を教える時間を設けるなど、基礎学力の向上に取り組む学校もあります。

また、文部科学省では、2022年の調査結果を受けて、次回の2025年調査に向けた取り組みも発表済みです。例えば、日常生活や社会における課題を、数学を用いて解決する能力の向上や、プログラミング教育を始めとした情報教育の充実などです。

日本の子どもの学力を把握できるPISA

PISAは国際的な学力調査の一つです。各国の15歳の学生を対象に、実生活において必要な数学・科学・読解力が、義務教育でどの程度身に付いているかを調査します。2022年の調査では、数学・化学・読解の分野すべてで日本の平均得点が上昇しました。

PISAの結果は、教育政策や教育現場での取り組みに大きく影響します。家庭でも、読解力を伸ばすために読書習慣をつけるなど、取り組めることがあります。PISAの結果から、日本の教育課題を把握し、子どもの教育方針に生かすのもよいでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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