【虫歯と経済格差】子どもの虫歯は「家庭の経済事情」も反映? 虫歯には地域性がある? データから見えてくる社会格差を歯科医が指摘

「子どもが虫歯になったけど、治療費が気になって…」「歯が痛いけど、近くに歯医者さんがないので、どうしよう?」さまざまな理由が、歯科医院の受診を妨げる要素になります。今回は、虫歯に関する社会的な問題について論じます。
執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

子どもの虫歯は減少している

厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、虫歯を持つ子どもの割合は急激に減少しています。例えば6歳児の虫歯になる率(永久歯・乳歯)が平成51993)年に88.4%だったのに対して、令和42022)年には30.8%になりました。

つまり、およそ30年の間に半数以下の虫歯率に大幅に減少したことになります。その理由として、いくつか挙げられます。

まず国民の多くが予防医学に注目し、歯科医院に行く目的も虫歯などの「治療」でなく、「予防」のためという方向にシフト変更していることがあります。

自治体での小児医療費助成制度の拡充により医療費負担が軽減されたことや、妊娠中から産婦人科等で赤ちゃんの口腔ケアに関する講習会が開かれるなど、保護者の意識や行動が変化してきたことも関係すると言われます。

また、歯ブラシや歯磨剤などの口腔ケア用品市場の拡大で、商品ラインナップがより充実してきたことも挙げられるでしょう。

しかし、すべての子どもの虫歯が平等に減少しているのではなく、依然として虫歯率が高い子どもたちが少なからずいるという現実的な問題があります。

では、そのような健康格差が生まれる要因には何があるのでしょうか?

経済的に余裕のない家庭の子どもは、虫歯になりやすい傾向がある

現在の日本において社会問題になっているのが、経済的な事情で十分な医療を受けることができない家庭が少なくない点です。当然ながら、その中に歯科も含まれています。

1のように、家計状況で貧困層(世帯年収300万円未満などの条件に該当する層)において虫歯の罹患率が高くなるという統計があります。

図1. 生活困難世帯の子どもの虫歯の状況

虫歯予防などの口の健康に対する知識や意識(デンタルIQ)の低さも貧困層には認められ、子どもだけでなく親も虫歯が多い傾向があると言われています。

経済的に余裕のない家庭では安価な菓子類で子どもの空腹を紛らわせたりするため、おやつや間食の「だらだら食べ」が常態化し、口腔内が酸性環境になる時間が長くなります。その結果、酸によって歯が溶かされる虫歯が増加するリスクが上がってしまいます。(関連記事はこちら≪

中には歯ブラシや歯磨剤すら与えられない子どももおり、経済的な背景が虫歯罹患率に影響するのは明らかなのです。

一方、2007年に総務省が示した家計調査によると、貧困層ほど病院・歯科医院に行かない傾向があることも明らかにされました。しかも、特に歯科で顕著な差異が認められることから、歯科の治療費が家計に及ぼす影響は少なくないことが分かりました(図2)。

図2. 収入別、1世帯あたりの年間医療費の家計支出

ところで、乳歯が健全な形を保つことで永久歯が正しく生えやすくなりますが、虫歯等で早期に乳歯を失うと噛み合わせや歯並びが悪化し、歯磨きに悪影響が及びます。その結果、将来的にさらに虫歯や歯周病になりやすくなるという悪循環に陥ります。

歯や歯ぐきの不健康は食生活によくない影響を与えますから、大人になってから高血圧症や糖尿病などの生活習慣病になるリスクが上がる可能性もあります。

このように、経済的な貧困による口腔管理の問題は単なる口の中だけの問題にとどまらず、将来的な全身的健康にも影響するのです。

 虫歯のなりやすさには地域性がある

子どもの虫歯の罹患率に大きな地域格差が認められることも知られていますが、これは地域の社会環境や生活環境などの違いによると考えられています。

厚生労働省の3歳児歯科健康診査における都道府県別虫歯有病率の推移を見ると、都道府県全体としては大幅に減少する傾向にあります。しかし、北海道や東北地方、九州地方などでは虫歯は高い有病率を示し、東京都や愛知県などの都市部では低い水準となっていることが判明しています。

具体的なデータ比較では、2003年に全国で最小の東京都に対して最大の沖縄県では、約2.2倍もの有病率の差が認められました。

しかし、2021年に同じく最小・最大であった東京都と沖縄県のデータを比較すると、その差は約3.1倍となってその差がさらに大きくなり、地域格差がより顕著になっていることが明らかになりました(図3)。

図3. 東京都と沖縄県の虫歯有病率の推移

その理由として、人口一人当たりの歯科医院の数が都市部では多く、地方や郊外地域では少ないといった要素が考えられます。

歯科医院に限らず、一般開業医は経営的な事情もありますから、より人が集まる、患者さんがより集まりやすい人口の多い地域を選択して開業する傾向があります。

ですから、歯科医院が少ない僻地では虫歯治療を受けることが困難なだけでなく、虫歯予防に対する歯磨き指導や動機付けが不十分で家庭での口腔管理が満足にできない結果、虫歯の罹患率が上がってしまうのです。

 虫歯格差を防ぐための提案

1.費用を抑えるには、やはり予防が第一!

一般的に虫歯は進行すればするほど治療費が多くかかり、治療期間も長くなります。

例えば、奥歯の溝の小さな虫歯であれば麻酔を使う必要もなく、虫歯を削って歯と類似色のCR樹脂(コンポジットレジン)を埋めてしまえば1回の治療で終了します。

しかし、虫歯が大きくなって歯の間に及ぶと、型取りして銀歯を入れるような複数回の治療が必要になることもあります。

さらに、痛みを伴う虫歯で神経を取り除く治療や、感染を起こした歯根の治療になれば治療回数がさらに増え、治療期間も長期化して1か月以上に及ぶことも少なくありません。

助成により1回の治療費が500円以下に抑えられたとしても、治療回数が増えればそれだけ治療費もかさんでしまいます。

一方、毎日の歯磨きを頑張るとともに、歯科医院に行って3ヶ月や半年に1回の定期検診で口の中の健康状態を受ける習慣があれば、もし虫歯ができても早期発見で最小限の治療で対応することが可能です。

虫歯リスクの高い溝が深めな奥歯にシーラント処置を行うなど、予防的治療を受けることも大切です。

ですから、毎日の歯磨きに励んで虫歯予防に努めることが何より大切なのです。

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2.ネットをうまく活用しよう

現代はネット技術の進歩により自宅にいながらスマホ一つでさまざまな情報を入手できますので、効果的に活用しましょう。

例えば、日本歯科医師会のホームページには「日歯8020テレビ」という歯と口に関する情報番組があり、虫歯予防の口腔衛生指導も含めた各種動画を無料で視聴できます。

3.地域における歯科保健活動に参加しよう

家庭環境に関係なく、虫歯予防する環境を作れば、虫歯を減らすことが可能です。

20年にわたり12歳児の虫歯数が全国最少となった新潟県は1981年に全国に先駆けて「むし歯半減10か年運動」を始めるなど、行政や県歯科医師会・大学・教育委員会等が一丸となった取り組みで知られます。フッ素のうがいは9割以上の小学校で実施され、文部科学省の令和2年度調査では12歳児の虫歯数は全国で最も少なく、0.3本でした。

個人でフッ化物洗口剤という生活習慣を何年も続けるのは困難ですが、フッ化物洗口実施小学校では、どのような家庭の子どもでも学校に行けば、虫歯予防の生活習慣を送ることができる利点があります。

 *  *  *

以上のように、自治体の取り組みなども活用しながら、一つでも多くの問題点を改善し、虫歯格差を解消するようにしたいですね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・足立区・足立区教育委員会 国立成育医療研究センター研究所社会医学調査部:子どもの健康・生活実態調査 平成27年度報告書,2016;32.
・総務省:2007年家計調査.
・厚生労働省:3歳児歯科健康診査(2003年,2021年).
・文部科学省:令和2年度学校保健統計調査.

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