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2023年に梅毒と診断された妊婦さんは383人と急増
梅毒の感染が増加傾向にあり、妊婦さんへの感染も増えています。国立感染症研究所の発表では、2023年に梅毒と診断された妊婦さんは383人。2019~2021年の年間200例前後と比べると大幅に増加していることがわかります。
キスでも感染する可能性が。コンドームでは100%防ぐことはできない
梅毒は性行為によって感染しますが、キスでも感染をすることがあります。そのためコンドームをしたからといって100%感染を防ぐことはできません。
梅毒は、適切に治療をすれば治る病気です。抗生物質(内服薬)の治療が一般的ですが、約4週間薬を服用し続けなくていけません。症状が治まったからといって自己判断で薬の服用を中断すると完治しません。完治しないまま性行為をすれば、相手にうつす可能性があります。
また近年、持続性ペニシリン製剤による筋肉注射が日本でも承認されました。感染から1年未満の早期梅毒ならば、1回の注射で済みます。
発熱、倦怠感、性器(外陰部)のしこりなど症状はさまざま
梅毒の代表的な症状は、バラ疹といわれる淡い赤い色の発疹です。しかし初期の症状はさまざまで、たとえばリンパ節の腫れや性器(外陰部)・肛門などにしこりができることもあります。痛みやかゆみを伴わないため、気づかないこともあります。
ほかには発熱、倦怠感、のどの痛みなどの症状が出ることもありますが、風邪と勘違いする人もいます。
このように多彩な症状を呈するため、受診した際の医師に自分から「梅毒の疑いがある」と伝えないと、梅毒の検査をしないでしょう。そのため早期発見が遅れて、夫婦間の感染につながることもあります。
妊婦健診の梅毒検査は陰性。その後、感染するケースも
日本産婦人科医会の「妊娠中の梅毒感染症(2023年版)に関する実態調査結果の報告」では、梅毒に感染した妊婦さんのうち約80%は妊娠初期に行う梅毒検査で感染が判明しています。
しかし初期以降の検査で梅毒の感染が判明した妊婦さんは約4.8%。妊娠健診未受診などで感染時期が不明な妊婦さんは約14%でした。
梅毒に感染した妊婦さんの早産率は6.1%、死産率2.1%
また同報告では、梅毒に感染した妊婦さんの早産率は6.1%、死産率2.1%でした。
妊婦さんが梅毒に感染した場合、適切に治療をすれば妊婦さんは治ります。しかし梅毒を引き起こす細菌が胎盤を通して、おなかの赤ちゃんに感染した場合、ときには赤ちゃんが亡くなってしまうこともあります。3つの事例を紹介します。
Case1 妊娠7ヵ月で陣痛があり700g台で誕生。赤ちゃんも梅毒に感染
妊娠6ヵ月の血液検査で梅毒感染が判明。かかりつけ産婦人科の紹介で、妊娠7ヵ月に周産期センターを受診。抗生物質による治療が開始されました。
エコー検査で胎児のおなかに水が溜まる腹水が少量認められ、1週間後には腹水が増加。肝臓の腫れも認められました。妊娠7ヵ月で陣痛が始まり、赤ちゃんが産まれました。
赤ちゃんの出生体重は700g台(超低出生体重児)。自発呼吸がないためすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院。気管挿管して蘇生しました。また黄疸なども認められました。検査の結果、赤ちゃんは先天梅毒で抗生物質での治療を開始しました。赤ちゃんは145日間の長期入院でしたが、発達は良好です。
Case2 胎児の心拍数が低下。緊急帝王切開をするも、誕生から14時間後に亡くなる
妊娠初期に受けた梅毒検査は陰性。しかし妊娠8ヵ月のとき、かかりつけ産婦人科の妊婦健診で、胎児のおなかに水が溜まる腹水や心拡大が認められて紹介されました。入院して血液検査を行うと梅毒が判明。妊婦さんには、とくに梅毒を疑う症状はありませんでしたが、すぐに抗生物質による治療を開始しました。しかしおなかの赤ちゃんの心拍数が徐々に低下し、命の危険があるため緊急帝王切開を行うことに。赤ちゃんには軽度の脳室拡大、肝臓の腫れ、胸腹水が認められて、14時間後に亡くなってしまいました。
Case3 妊娠初期の梅毒検査は陰性。その後感染して、おなかの赤ちゃんが亡くなる
妊娠初期に受けた梅毒検査は陰性。その後、発疹が出て、かかりつけ医を受診し経過観察となりました。妊娠中は、梅毒に感染しても母体は一過性の症状や軽症のことが多く気づきにくい傾向があります。おなかの赤ちゃんの異変から気づかれることがあります。
この妊婦さんの場合も、そのうち発疹は消えました。しかし妊娠7ヵ月のエコー検査で、おなかの赤ちゃんにむくみがあり、心臓の動きに異常が認められたため救急搬送されました。血液検査の結果、妊婦さんに梅毒の感染が認められました。すぐに抗生物質による治療を開始しましたが、おなかの赤ちゃんは亡くなってしまいました。
おなかの赤ちゃんを守るためにも、梅毒の感染を他人事とは考えないで
先にも述べたように、梅毒の初期症状は多彩で気づきにくいため、夫婦間で感染するリスクがあります。そのため妊娠を考えていたり、妊娠中の場合は、梅毒の感染により注意が必要です。
妊婦健診は妊娠初期から受けて、性行為は慎重にしてください。妊娠中に、梅毒の感染が判明することで夫婦関係に大きな溝ができるケースもあります。
おなかの赤ちゃんを守るためにも、ママ・パパには梅毒の感染を他人事と考えないでほしいです。
記事監修
児玉由紀先生|宮崎大学医学部附属病院産婦人科教授・総合周産期母子医療センター長
取材・構成/麻生珠恵