奇跡のような実話と向き合う俳優陣の覚悟を感じる演技がすごい!
大泉洋が演じるのは、生まれつき心臓疾患を持ち「余命10年」を宣告された娘・佳美の父親、坪井宣政役。小さな町工場を経営している宣政は、娘を救うため人工心臓を作ろうと立ち上がります。
娘の余命が宣告され、絶望を感じているときに「何もしないで死を待つ10年か、不可能に挑む10年か」を考え、不可能に挑むことを選択した家族の想い。医療に関して知識もない宣政が挑むには無謀ともいえる挑戦でした。有識者に頭を下げ、資金を用意して何年もその開発に時間を費やしますが、医療器具として承認されるまでには様々な障壁が立ちはだかり、佳美の命のリミットは刻一刻と迫っていきます。果たして、人工心臓を完成させることはできるのか…。
この奇跡のような実話と向き合うために、大泉さんをはじめ俳優陣は映画のモデルとなった筒井家の皆さんに撮影前に対面やリモートで直接話を聞き役作りに挑んだのだそう。俳優陣が真摯に役と向き合ったことが伝わってくる迫真の演技も映画の見どころです。
絶対に諦めない!自分が娘を助けるんだ!という父の熱い想いが伝わってくる大泉さんの迫力ある演技に引き込まれ、映画を観ているうちに自分も一緒に人工心臓の開発に挑んでいるような気分になっていました。
映画は、主人公のモデルとなった筒井宣政氏と20年以上にわたり親交のあるノンフィクション作家・清武英利による膨大な取材ソースを基に、『永遠の0』で第38回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した林民夫が脚本を手がけ、「君の膵臓をたべたい」の月川翔が監督を務めました。
常に前を向き続ける家族の姿に心打たれる
何度も大きな壁にぶつかる夫を献身的に支える、母・陽子を演じるのは菅野美穂。陽子は、何度も壁にぶつかる夫の背中を押し続けます。絶望している人に声を掛けるのは、とても難しいことだけれど、それができるのは陽子が夫を家族を信じる強い想いがあるからこそ。「それで、次はどうする?」と陽子が夫に声を掛けるシーンがとても印象的で、それは絶望しても前を向いて再び歩きはじめるためのおまじないのようでもあります。
父・宣政の明るさと、母・陽子の献身さがあるからこそ、どんなことがあっても常に前を向いて進んで行く家族の姿に心打たれます。
家族の夢がつないだ大切な命
余命を宣告された次女・佳美役を『今夜、世界からこの恋が消えても』で第46回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞した福本莉子、母のように強い気持ちで妹を支える長女に川栄李奈、家族のバランスをうまくとってくれる無邪気な末っ子・寿美役を新井美羽が演じます。
また、宣政の挑戦に関わる研究医として上杉柊平、徳永えり、満島真之介、松村北斗、東京都市医科大学の教授役に光石研など実力派俳優が名を連ねます。
光石研演じる人工心臓の研究を続けている東京都市医科大学の教授は、工学的な分野において豊富な知識を持つ宣政をはじめは受け入れサポートしますが、後に人工心臓の実用化を巡る方針で宣政と対立します。
教授に逆らえない研究医たちのもどかしさや怒り、それぞれの感情が交錯します。宣政の熱意に引き込まれ、共に研究にのめり込んでいく研究医の成長していく姿は胸に迫るものがありました。
何年もの挑戦の中で、娘を助けるために作った人口心臓の開発が失敗に終わり、娘の命が救えないと絶望した宣政の背中を押したのは、他でもない佳美自身でした。自分がもう助かる手段がないことを知りながらも「私の命はもう大丈夫だから、その知識を苦しんでいる人のために使って」と言う佳美の言葉……。娘に為に頑張ってきたのに、助けられないならなんの意味もないと思う宣政でしたが、佳美の“苦しんでいる人を助けてほしい”という夢を実現するために、再び前に進み始めます。
この言葉が伝えられる佳美の強さとやさしさに、涙腺が崩壊。そして、娘の命を助けるためではなく今度は娘と同じように苦しむ人たちを助けるために挑む宣政の姿に心を打たれます。
そして宣政は、佳美が生きているうちに国内初のIABPバルーンカテーテル(心臓の働きを助ける補助循環法の一種)の開発に成功したのです。
この物語は、ハッピーエンドでもバッドエンドでもなく観た人を勇気づけ、前向きな気持ちにさせてくれます。
どうしても親目線で観てしまうので、映画を観た後に目の大きさが半分になるくらい泣いてしまいました。その涙は、悲しみ、喜び、なんとも言えない怒りなど自分の中でさまざまな感情が溢れ出したものです。ただ悲しいだけではなく、観たあとに心が温かくなるような映画。もし、自分が宣政と同じ状況になったら何ができるのか…と親として考えさせられる内容でもあります。
筒井さんが開発した「命のカテーテル」は世界で17万人の命を救っています。この奇跡のような物語が実話であり、今でもたくさんの命を救い続けているという事実。家族の愛が起こした感動のストーリーをぜひ、映画館でお楽しみください。
『ディア・ファミリー』全国東宝系にて公開中
原作:清武英利「アトムの心臓『ディア・ファミリー』23 年間の記録」(文春文庫)
監督:月川翔
脚本:林民夫
音楽:兼松衆
出演:大泉洋 菅野美穂
福本莉子 新井美羽 上杉柊平 徳永えり ・ 満島真之介 戸田菜穂
川栄李奈 / 有村架純 ・ 松村北斗 光石研
公式ホームページは>こちら
文/やまさきけいこ
©2024「ディア・ファミリー」製作委員会