『マリはすてきじゃない魔女』の柚木麻子さんにインタビュー
2023年12月、初の児童書を出版された小説家の柚木麻子さん。前編では、児童書を書くことになったきっかけや、作品への想いなどについてお聞きしました。
前編はこちら
15年間、曖昧な自分を演じていたけれど…
―柚木さんはフェミニズムに関して発信される機会も多いですが、今感じていることはありますか?
柚木 デビューから15年の間に、世の中の流れはだいぶ変わってきています。私は女同士の友情や関係性を題材にした作品を書いてきましたが、周囲からは「恋愛を書け、一皮むけろ」と言われ続けきました。15年後、自分の作品がこんな市民権を得ることができると思わなかったし、今回のような児童書も、今だから受け入れられるのだと思います。
日本では主張が強いことが好まれないんです。だから「私はフェミニストだけれど、男性を憎んでいるわけでもないし、好戦的でもありません…」という風に、誰も批判しない、曖昧な態度を求められているように感じてきました。
ところがここ最近、アメリカやイギリスの記者に取材をされると日本とは真逆なんです。彼らにとってフェミニズムは当たり前のこと。「女性差別は反対です」とハッキリ言わないと、あなたはどっち側なの?そういう姿勢はズルくない?と言われてしまう。だから取り繕う必要がなく、とにかく取材がラクなんです。これまでの苦労は何だったのでしょう? 芸能人が海外に行ってしまうのも分かる気がします。
体力がある人と、自分の子育てを比べる必要はありません
―柚木さんは6歳のお子さんがいらっしゃいますが、小説家という多忙なお仕事をしながら、お子さんとの時間をどのように過ごしていますか?
柚木 私は子育てについてはよくわからなくて、ご紹介できるようなことは何もありません…。うちの子はいつも元気で楽しそうにしていますが、何かしていることと言えば公園に連れていくくらいで、家に帰ったらYouTubeばかり見ています。
ただ、私の周りには丁寧な子育てをしている友人も多いので、ときどきよそのお宅にお邪魔してレベルの高い1日を過ごし、帰ってきたらまたYouTube、みたいなことをしています。
ひとつ思うのは、メディアに取り上げられている方々って、ものすごく体力のある、言わば「体力強者」が多いと思いませんか? 俳優さんも、文化人も、体力があって24時間フル稼働できるような人の子育てが紹介されている。
そういった人を見て、私はこんな風にできないな…と思うことがあっても、体力がないのは体質もあるので落ち込む必要はありません。「この人は体力強者なんだな」と思い直すと少しラクになりますよ。
子育てがしんどいのは本当にあなたのせい?
―なるほど…! 完璧な人を見て、できない自分に罪悪感を覚えてしまうことはあるので、心に留めておきたいおきたいです。
柚木 そもそも、なぜ子育ても仕事も頑張っている人が罪悪感を持たなければいけないのか。何のメッセージを浴びてそう思っているのか、考えてみてもいいのかなと思います。
こういう話の着地点は、「ママが笑顔でいるのが一番だから、ハーブティーを飲んだり、新しい口紅を買ったりして、リフレッシュしましょう!」みたいなことになるじゃないですか。でも、母親たちが置かれている厳しい状況の根本的な解決策はなく、あなたの工夫で乗り切りましょうというメディアからのメッセージを受け取って自分のせいにするのはやめた方がよいのかなと。
以前、戦争中の婦人雑誌をたくさん読んだことがあるのですが、その中に「戦争中でも防災頭巾に可愛いワッペンをつけると楽しい気分で過ごせます」という記事があって。この「戦争中でも、あなたのアイデア次第で地獄じゃない」というメッセージは、子育ての話と似ているように思います。
今の厳しい状況が自分のせいではなく、社会に原因があるかもしれないと考えると、対処方法も変わってきます。ドイツのように子育て世帯に手厚い国ならば、そもそも問題にならないこともたくさんありますから。
そして、できないときは子どもと塩にぎりを食べて寝っ転がったらいいと思うんです。頑張るためにモノを消費して、自分を鼓舞し続けることを、一回やめてみても良いかもしれません。
―目から鱗のお話ばかりでした! これまでとは違った視点で子育てに向き合えそうな気がします。本日は貴重なお話を、ありがとうございました。
前編では『マリはすてきじゃない魔女』で描いた価値観についてお話いただいています。
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お話を聞いたのは…
取材・文/寒河江尚子