飛躍的な経済成長を遂げた中国
日中関係は色々と問題を抱えていますが、昔は日本の方が中国よりも経済力が高く、中国に経済支援を行ってきました。戦後、日本は焼け野原から再出発しましたが、高度経済成長を経験し、30年、40年という期間で世界第2位の経済大国にまで上り詰めました。その間に多くの日本企業が中国に進出し、中国も世界の工場としての地位を築きました。
当時の中国は、如何に経済発展するかに集中していたので、日中の間でも政治的紛争が深刻化することもそれほどありませんでした。しかし21世紀に入り、飛躍的な経済成長を遂げた中国は、2011年あたりに日本を抜いて世界第2位の経済大国となり、今日まで両国の経済力の差は開く一方です。
大国化する中国をアメリカがけん制
今後は米中の力の逆転も起こるとの見方も根強くあります。米国は中国への警戒感を強めており、トランプ政権下では米中貿易摩擦が発生し、最近でもバイデン政権は中国製EVに対する関税を100%に引き上げるなど、中国の大国化を阻止するための対抗措置を先制的に仕掛けています。米中対立は、言わばこれまで世界秩序を牽引してきた米国のプライドを掛けた戦いとも表現できるでしょう。
当然ながら、中国は国力を付けるにつれて大国としての自信を持ち始めます。一帯一路の拡大、海洋進出などはその証ですが、それによって米国や日本との間で政治的な摩擦が顕著に見られるようになっています。近年では、米国が先端半導体分野で中国への輸出規制を強化し、日本も米国の呼び掛けに応じてそれに追随していることに、中国は激しく反発しています。
日本との対立は望んでいない習政権。しかし、譲れない問題に関しては…
では、習政権は今日の日本のことをどう思っているのでしょうか。まず、習政権は米国との協調や協力が難しく、必要以上の関係悪化は避けつつも、強い姿勢で挑んでいく方針です。一方、日本との間では必要以上の関係悪化は望んでいないでしょう。中国経済も減退傾向にあり、外資の中国離れが進むことを回避する必要があるので、日本との経済関係が悪化することは決して望んでいません。習政権としては、日米の間に楔(くさび)を打ち込み、米国は米国、日本は日本という形にしたいはずです。
しかし、習政権が望むように物事が上手く進むわけではありません。台湾や先端半導体といった米中間の問題で、中国と日本は対立軸にあります。習政権としては、日本との関係悪化は望んでいないものの、中国が譲れない問題で日本が米国と足並みを揃えるならばやむを得ないという決意です。中国は台湾を核心的利益(絶対に譲れない利益)と位置付けており、この問題で日本が台湾や米国と協力するならば、日本に対する厳しい姿勢は正当化されると思っているでしょう。
今後、日中間では台湾や先端半導体などの問題で新たな緊張が走る可能性があり、そのような状況では習政権の対日姿勢はいっそう厳しくなるでしょう。
この記事のPOINT
①中国は世界第2位の経済大国となり、アメリカがけん制している
②習政権は日本との関係悪化は基本的には望んでいない
③台湾や先端半導体といった米中間の問題により、日本との間に緊張が走る可能性がある
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。