森鷗外「山椒大夫」ってどんな話? 古典作品に織り交ぜられたオリジナル展開とは。あらすじや内容、結末を解説!【親子で名作を学ぶ】

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近代日本の文豪・森鷗外の代表作のひとつとして知られる『山椒大夫』。本記事では、『山椒大夫』が書かれた背景や、あらすじ、おすすめの書籍等を中心にご紹介します。

「山椒大夫」とは

まずは本作が書かれた背景や作者・森鷗外、物語の舞台についてを押さえておきましょう。

古典「さんせう太夫」を元にした小説

本作『山椒大夫(さんしょうだゆう)』は、近代日本の文豪として知られる森鷗外(もりおうがい、1862-1922)によって1915年に発表されました。

日本の中世末期〜近世初期に盛んだった“語り物”芸能「説経節(せっきょうぶし)」の有名な古典演目『さんせう太夫』を原作に、森鷗外ならではの改変やオリジナル要素を取り入れながら執筆された小説作品です。

元の『さんせう太夫』は平安時代を舞台にしており、主人公・安寿と厨子王の実在を示す資料は存在しないため、実話ではなく架空の物語と考えられています。

作者の森鷗外ってどんな人?

54歳の森鷗外(1916年)[国立国会図書館デジタルコレクション]

作者の森鷗外(本名・森林太郎)とは、主な作品に『舞姫』『阿部一族』『高瀬舟』『ヰタ・セクスアリス』などがある、1862年石見国鹿足郡津和野町生まれの小説家です。東大医学部卒業後、陸軍軍医となり1884年から4年間ドイツへ留学。帰国後は、留学中に経験したドイツ女性との悲恋を元に『舞姫』を執筆します。以来、軍医総監へと昇進し活躍する一方で、多数の小説や文学作品も発表しました。

物語の舞台

物語の主な舞台となった地域は、丹後国の由良海岸(京都府宮津市)です。由良では、主人公・安寿(あんじゅ)と厨子王(ずしおう)の身代わりとなったお地蔵様が祀られている寺院や、ふたりの像、山椒大夫のモデルと思われる「三庄大夫」の屋敷跡を示す碑、首塚などをめぐることができます。

あらすじ・ストーリー紹介

1918年(大正7年)春陽堂から刊行された『高瀬舟』収載の『山椒大夫』冒頭[国立国会図書館デジタルコレクション]

 

ここからは、本作『山椒大夫』のあらすじを見ていきましょう。詳しいあらすじと、お話の大筋がざっくり把握できる簡単なあらすじの2パターンにまとめました。

詳しいあらすじ

姉・安寿(あんじゅ)と弟・厨子王(ずしおう)、その母、そして女中の4人は、12年前に陸奥から筑紫へと行ったきりの父親を探して旅をしていました。

しかしながら旅の途中、4人はある船乗りに欺かれてばらばらに。女中は途中で海へと身投げし、安寿と厨子王は丹後へ、母は佐渡島へと売り渡されてしまいました。

山椒大夫のもとでの強制労働

安寿と厨子王は、売られた先の丹後の豪商である山椒大夫(さんしょうだゆう)のもとで過酷な肉体労働を強いられます。筑紫も故郷も共にほど遠く、逃げ場もありません。

そんなある夜、ふたりは同時に、山椒大夫によって額に焼き印を入れられる夢を見ます。生々しい夢に怯えるふたりは、母親から託されたお地蔵様の額に、まるで自分たちの身代わりにでもなったかのように十文字の傷ができていることに気がつきました。

脱出と悲劇

このことをきっかけに、厨子王にお地蔵様を持たせて脱出させようと決心する安寿。厨子王はためらいますが、安寿の説得によってひとりで脱出することにします。

厨子王を見送って山椒大夫の元に残った安寿でしたが、追手がその場を通りかかると安寿はおらず、そこにあったのは履物だけ。厨子王を見送ったその後、安寿は入水して自殺してしまったのでした。

父の安否

脱出に成功し、出家した厨子王は京都の清水寺で藤原師実(ふじわらのもろざね)と知り合います。

姪の病気を厨子王が持つお地蔵様の力で治してもらった師実は、そのお地蔵様を見て厨子王の家柄が確かなものであると確信。師実は姪を助けてもらった感謝の意を表して、厨子王の父の安否を問いに使いをやります。しかし、父はすでに亡くなっていました。

厨子王の出世

師実によって還俗させられた厨子王は、その後、丹後の国守に出世します。そして、丹後での人の売り買いを禁止し、安寿が入水した沼のほとりには尼寺を建立。

このことによって、山椒大夫も強制労働者たちを解放し、給料を払うことにしました。一時的には大きな損失のように見えましたが、山椒大夫の家業はむしろ一層盛んになり、一族はさらに富み栄えました。

母との再会

ある日、母が佐渡島に送られていたことを知った厨子王は島を訪ねます。そこで厨子王が出会ったのは、ボロ服を着た盲目の老女でした。その老女が口ずさんでいたのは、なんと安寿と厨子王を想う歌。厨子王がお地蔵様を老女の額にあてると老女の両目の視力が回復し、母子はようやく再会を果たしたのでした。

あらすじを簡単にまとめると…

12年前に陸奥から筑紫へと行ったきりの父親を探して旅をしていた姉・安寿(あんじゅ)と弟・厨子王(ずしおう)、その母、そして女中の4人は、その途中で騙されて、ばらばらに引き離されてしまいました。

安寿と厨子王は丹後の豪商・山椒大夫に売られ、強制労働をさせられます。やがて、厨子王を逃し、自分は入水自殺をしてしまう安寿。さらに、脱出した厨子王は父がすでに亡くなっていたことを知ります。

その後、都で知り合った藤原師実の力添えもあって、丹後の国守に出世した厨子王は、人の売り買いを禁止し、安寿が入水した沼のほとりには尼寺を建立。やがて、母が送られた佐渡島を訪れた厨子王は、母との再会を果たしました。

結末はどうなる?森鷗外のオリジナル展開も

1924(大正13)年刊行の『日本伝説  標準於伽文庫 下(培風館)』に収載された『山椒大夫』[国立国会図書館デジタルコレクション]

森鷗外による『山椒大夫』の結末には、元の古典『さんせう太夫』とは少々異なる部分があります。ここでは、本作の結末について考察をしてみましょう。

厨子王は国守に出世。山椒大夫の顛末は森鷗外のオリジナル展開

山椒大夫からの脱出に成功した厨子王は、訪れた清水寺で、平安時代中期から後期にかけて実在した公卿・藤原師実に出会います。師実の計らいもあって国守に出世した厨子王は丹後における人の売り買いを禁止しましたが、森鷗外バージョンでは、このことによって、山椒大夫の一家はむしろさらに盛えてしまいます。

さんせう太夫が領地を没収されて、すべての財産を失うという元の『さんせう太夫』の結末と比べると、勧善懲悪的な物語に、鷗外ならではの皮肉の効いた味付けがなされていることがわかりますね。

安寿はなぜ犠牲になったのか?

厨子王を逃した安寿は、自ら入水して命を落とします。「なぜそこまで?」と疑問に思うかもしれませんが、安寿は自分が捕らわれて厨子王の逃亡先を自白させられることを懸念したのだと想像させられます。

また、厨子王にひとりで逃げるよう説得する安寿のセリフの中に「金で買った婢(はしため/※奴隷のこと)をあの人たちは殺しはしません。」というものがあります。自分自身の命を落とすことは、山椒大夫の資産をひとつ奪うということにもなるため、安寿の入水自殺には、ある種の“報復”の意味合いも込められているのかもしれません。

「山椒大夫」のおすすめ書籍&映画3選

最後に、『山椒大夫』のお話に触れる際におすすめの書籍と映画をご紹介します。

山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 (角川文庫)

『山椒大夫』のほか、森鷗外の代表作である『高瀬舟』や『阿部一族』など歴史的なエピソードを扱った全9作を収録。「和柄の表紙がかわいい」と好評のシリーズでもあります。森鷗外の他の作品もあわせて読みたい方におすすめです。

新装版文芸まんがシリーズ 森鴎外:山椒大夫・高瀬舟 (文芸まんがシリーズ 新装版 3)

森鷗外の『山椒大夫』と『高瀬舟』の物語を漫画で読むことができる一冊。難しい言い回しには注釈もついているので、小学生のお子さんでも比較的スムーズに読めるはず。

山椒大夫 4K デジタル修復版 Blu-ray

小津安二郎や黒澤明とともに、国際的に高い評価を受ける溝口健二監督作の映画版『山椒大夫』。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したり、ラストの海のシーンはジャン=リュック・ゴダールが自作内で再現したと言われていたりと、映画ファンなら一度は見ておきたい作品です。

オリジナル版・古典『さんせう太夫』との違いにも注目

今回は、森鷗外『山椒大夫』が書かれた背景やあらすじ、おすすめの書籍をご紹介してきました。

古典『さんせう太夫』の物語では残虐だったシーンが森鷗外版では改変されていたり、山椒大夫の結末にも異なる展開が用意されていたりと、オリジナル版との違いもまた興味深い作品です。「鷗外はなぜここを変えたのか?」「どんな意図をもって改変したのか?」と考えを巡らせながら、オリジナル版との比較をしてみるのも楽しそうですね。

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文・構成/羽吹理美

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