「気持ちを天気にたとえる」「一日一善を共有」「自分のトリセツ」のSELワークで、子どもの〝切りひらく力〟が育まれる理由

次世代の教育として世界的に注目されている「Social Emotional Learning(SEL)」をご存じですか。自分で決断し、周囲と協調しながら目的に向かって進む力が身につくと、教育現場で話題の学びメソッドです。
SELを基軸に全国100校以上の学校改革に携わってきた株式会社roku you代表/下向依梨さんに、家庭でのSEL実践方法を具体的に紹介していただきました。

※ここからは『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』(下向依梨・著/小学館)の一部から引用・再構成しています。

世界標準の「SEL教育」とは

SELとはSocial Emotional Learningの略称で、日本語で「社会性と情動の学び」と訳されます。この学びは「Social(ソーシャル)」と「Emotional(エモーショナル)」というふたつの要素から構成されています。

SELは学びの土台を築き、成長を支えるものです。植物が健やかに育つにはいい土壌が欠かせないように、人にもいい土台が必要です。SELでは特に「自己理解」が重要視され、これこそが主体性や自信を育てるカギとなります。子どもたちが将来、社会で自立して生きていくための基盤をつくるアプローチなのです。

今日からできる「SELワーク」

家庭でできるSELワークを3つご紹介します。いずれも主体的に行動できる子どもの土台を育むためのものです。

SELは習慣化することで、お子さんとご自身の成長を実感できるようになります。親子で変化を楽しみながら取り組んでください。

Work① 気持ちを天気にたとえるワーク

「自分の気持ちを共有する」ことは簡単ではありません。言葉でうまく伝えられないときには、今の気持ちを天気にたとえる方法が有効です。

「晴れ・雨・曇り」といった3つの選択肢でもいいですし、「台風」「雪」「雷」などバリエーションを増やしてもいいでしょう。天気には移り変わりがあります。慣れてくると、空模様だけでなく、気温や雨の種類など、多様な要素を使って自分の気持ちを表現できるようになっていきます。

例えば、朝食や夕食のタイミングで、「今日の調子はどう?」「昨日(今日)の学校はどうだった?」と尋ね、さらに「なんで〝雨〞だったの?」と理由も聞きながら、気持ちを共有しあうことを習慣化していきます。

絵を描くのが好きな子は、天気マークを描いて表現してもいいでしょう。あるいは、マグネットに天気のシールを貼って、帰ってきたら冷蔵庫に今日の気分を貼っておくなどの方法もあります。

毎日実践することが難しい場合には、週末に1週間を振り返って「今週の天気」を決めてもいいでしょう。ご家庭に合ったスタイルで、気持ちのシェアの習慣をつけてみてください。

Work② 「一日一善」を共有

「コンパッション(叡智ある思いやり)」を譲成するワークとして、「誰かにとって思いやりのあることをした」とシェアしあうワークがあります。

コンパッションとは、「相手の状況を客観的・冷静に理解すること」や「相手の気持ちに共感すること」、さらに「相手の幸せを願い、そのために手助けしたいという自然に湧き起こる思いやり」などを指します。

このワークは、日本語では「一日一善」といった表現になるかもしれません。「電車でお年寄りに席を譲った」「ベビーカーを押している人が階段の前で止まっていたので手伝った」など誰かが助けを必要としていた際に、自分が自然に動いたことを認知するワークです。

やり方はいろいろありますが、例えば、表が白、裏が黒のマグネットを使って、通常は黒の状態にしておき、「一善」をした日にはひっくり返して白にします。

叡智ある思いやりを育むワークなので、「褒められるために行う」ことにならないような仕掛けが必要です。

「こんなことをした」と子どもがシェアをしたら、「すごいね!」と褒めるジャッジをするのではなく、「そのとき、どんな気持ちがした?」「なぜ、そういう行動を自分から取ろうと思ったの?」と感覚を耕すような問いを投げかけながら対話できるとよいでしょう。

Work③ 自分のトリセツを書く

自己認知や自己管理に役立つのが、「自分のトリセツ(取扱説明書)を書く」ワークです。

自分を家電製品にたとえて、「機能」や「安全上の注意」などを記入していきます。書いていくうちに、「私はこれがすごく苦手なんだ」「こう言われるととてもうれしい」といったことに気づきます。

記入後に親子でシェアすると、「そうだったの?」「だから、あのとき怒っていたのか!」といった発見があると思います。

パートナーとも一緒にできるといいですね。例えば、「故障かな? と思ったら」の項目。「失敗して落ち込んでいたら、どんな言葉をかけてほしいか」は人によって違います。

周りに聞いてみたところ、「『お疲れさま』とか『また次があるよ』と言われると、イライラが止まらなくなる」という人もいました。かたや、「『お疲れさま』の何が嫌なのかわからない」という人もいるでしょう。 ほかにも、「怒りスイッチ」がどこで入るのか。これも家族でそれぞれ異なるので「そうだったのか!」という発見があるはずです。

ほかにも、「マインドフルイーティング」「ボディスキャン」「感謝のシェア」「家族のグラウンドルールを作る」「メンタルモデルを知る」などの11のワークがあります。
※詳細は『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』に紹介されています。

SELが育む「気づく」「コンパッション」「エンゲージメント」

「自分の内面に気づく力」が高まることで、「社会の現象や課題がどのようなメカニズムで生まれているかを理解する力」が向上するとされています。

自分、他者への理解が、社会への理解につながる背景には「システム」の概念があります。自分の内面で気持ちが生まれるとき、さまざまな要素が相互に作用しあいます。この相互作用し合う要素の集合体のことを「システム」と呼びます。

他者との関係性も同様です。例えば、Aさんのひと言でBさんが怒ったとします。一見すると、Aさんの一言が原因に思えますが、そのひと言に至るまでにAさんにはさまざまな気持ちがあり、BさんもAさんとの関係の中で多様な思いを抱えています。

このように、他者との関係性を理解するときも、「システム」としてとらえることで、問題や出来事を構造的に把握できます。

システムをとらえる力が高まると、社会の中で起きている課題の構造を把握する力が養われます。

SELは「自分」「他者」「社会システム」を対象に、「気づく」「コンパッション」「エンゲージメント」の能力を発揮します(上図)。

例えば、上図の左端の縦の列では、「気づく」対象が、「自分」なのか、「他者」なのか、「社会システム」なのかを見ます。「自分」に「気づく」力が高まれば、「自己認知力」が上がるという見方をします。

さらに、「気づく」力が高まると、「他者」や「社会システム」に対して気づく能力も高まります。つまり、まずは「自分」の内面や「自分」と「他者」のシステムに気づくことからはじめ、「社会システム」への理解へと広げていくことが重要なのです。

※以上、『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』(下向依梨・著/小学館)から引用・再構成

SELについてもっと知りたい人のために

世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣  ~学力だけで幸せになれるのか?

著/下向依梨 [小学館]

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本書では家庭でのSEL実践方法を具体的に紹介。〝親子〞の生活の中で、どのように切りひらく力を育むことができるか、エビデンスと実践に基づきながら紹介します。
<「おわりに」より>
本書でご紹介したアプローチは、お子さんの可能性を引き出すと同時に、あなた自身の成長を促します。これは、親子のより良い関係を築くことにもつながります。「切りひらく力」は、逆境をはねのけるというよりは、ありのままの自分や他者を慈しむ中で育まれるたくましさとしなやかさを持った力です。

著者

下向依梨 | 株式会社roku you代表
大阪府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部へ入学後、社会起業家について研究、社会起業家育成のパターン・ランゲージを開発、出版。米国・ペンシルベニア大学教育大学院で発達心理学において修士号を取得。帰国後は東京のオルタナティブスクールに勤務。2019年に株式会社roku youを設立。SELを基軸に、全国延べ100校以上の学校改革や総合的な探究の時間に関わる。一児の母。
https://www.roku-you.co/

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再構成/HugKum編集部  イラスト/Okuta
© Eri Shimomukai Printed in Japan ISBN978-4-09-38916707

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