※ここからは『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』(下向依梨・著/小学館)の一部から引用・再構成しています。
何より大切なのは「ノンジャッジメンタル」
SEL教育(後述)で一番大事なことは、「ノンジャッジメンタル」だと考えています。ノンジャッジメンタルとは、判断せずにありのままに受け止める態度です。
私たちはどんなときでも何かを感じて生きています。自分の中で起きている感情や気持ちの動きは、生理的反応であり、そこに良いも悪いもありません。否定も肯定もせずに、自分の感情・気持ちを受け入れるのがノンジャッジメンタルです。
例えば、「子どもがクラスの友達に暴力を振るってしまった。でも、理由は話してくれない」といったことがあるとします。この場合、「自分が悪かった」と自覚していても、「理由を話したところで否定される」と思い込み、大人には話さないケースはとても多いです。
行動には背景となる要素が必ずあります。それをフラットに、「どんなことを感じたの?」「そうなんだ、そこが許せなかったんだね」と話を聞いていく。こちらがノンジャッジメンタルに話を聞いていれば、背景を伝えてくれ、「暴力を振るう以外の方法で解決したかった」といった発言も出てくるかもしれません。すると、一緒に解決の糸口も見いだしやすくなります。
「あなたが悪いんだから、さっさと謝りなさい」「そんな態度では将来困るわよ!」といった評価にまみれた声かけをしていれば、子どもたちは伝えることを諦めてしまいます。
良好な親子関係ができているかどうかで、言葉の通じ方は変わります。例えば、「大丈夫?」という同じ言葉かけであっても、プラスに受け止められることもあれば、マイナスに作用することもあります。保護者の方々が忙しいことは十分に承知していますが、どうか日々子どもと何気ない会話を楽しみ、気持ちを伝え合う習慣をつけていってほしいと思います。
子どもの「苦手」別の処方箋
ここでは「挑戦しない」「自分で決められない」など、保護者がわが子に対して抱く不安から次の3つを取り上げ、SELのスキルからそれぞれの対応策をお届けします。
苦手① 挑戦しない
【処方箋1】「逃避=悪」ではないと親が理解しておく
大前提として、生まれながらに物事に挑戦する意欲がない人はいません。子どもが立ち上がり、転んでまた立ち上がるその過程は挑戦そのものです。挑戦は人間の本能に刻まれている欲求といっても過言ではありません。
「挑戦したくない」「新しいことをしたくない」という選択は、「逃避」や「回避」といいます。これは失敗への恐れから生じる逃避行動のひとつです。言い換えれば、「挑戦したくない」は「挑戦することが怖い」という意味であることも多いのです。
わが子に対して「挑戦する気持ちが弱い」と感じるのはどんなときでしょうか。例えば、海外に興味があると言っていた子に「短期留学に行ってみたら」と背中を押したら、「まだ英語を話せないし、できるようになってから行く」と返されたとします。
そうしたときには、挑戦しようとするとどんな気持ちになるのか聞くことが重要です。すると、「大きすぎる挑戦のように感じる」や「失敗するのが怖い」など、いろいろな気持ちがうずいていることを子ども自身が自覚するでしょうし、周囲もそれを認識することができます。
とはいえ、子どもが言葉で思いをすべて説明できるわけではないので、日頃のしぐさや言動にアンテナを立てて、点と点を線で結ぶように見立てることも大切です。
「挑戦しない」子への処方箋としては、ほかに次のようなことが有効とされ、『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』に詳細が紹介されています。
【処方箋2】どんなことであればやってみたいか本人に聞く
【処方箋3】大きな挑戦をスモールステップに変える
【処方箋4】失敗から学び、乗り越える
【処方箋5】試行錯誤を見守る親の余裕も大事
苦手② 自分で決められない
【処方箋1】「なんでもいい」の背景を考えてみる
子どもが自分で選択せず、何を聞いても「なんでもいい」と答えることがあります。親としては、イライラしたり「こんなに自分で決められなくて大丈夫かしら?」と不安になるものですよね。
ここで少し立ち止まって、「なんでもいい」という言葉の背景にはどんな経験や思いがあるのかを考えてみましょう。
例えば、「本当に選べない」という場合もあれば、「これまでに自分で考える機会が少なかったため選べない」というケースもあります。また、「自分の意見は通らないだろう」という自信のなさから、「なんでもいい」と答えている可能性もあります。
つまり、「どうする?」と聞いて「なんでもいい」と返事をする背景には、これまでの経験が関連していることが多いのです。
「自分で決められない」子への処方箋として、ほかに次のようなことが挙げられます。
※詳細は『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』に紹介されています。
【処方箋2】「自分の選択が通る」体験を積む
【処方箋3】降水確率40%の日に「選択に責任を持つ」を体験する
【処方箋4】社会では選択できない場面があることも伝える
苦手③ やるべきことをやらない
【処方箋1】「物理的な仕組み」を整えれば解決できることも
子どもが「時間から逆算した行動ができず、いつもギリギリになる」「自律的に準備ができない」「宿題が間に合わない」といった保護者の悩みはよく耳にします。いくら言葉で「気をつける」「次からは頑張る」といっても、なかなか改善できるものではありません。これらの場合に必要なのは、物理的な環境を見直すことです。
「いつもギリギリになる」子は、そもそも準備の時間が足りているか再検討しましょう。20分で身支度ができる子もいれば、1時間かかる子もいます。その子に応じて、「準備を開始する時間を早める」「早起きをする」といった具体的な対応策が必要になります。
「自律的に準備ができない」子には、子どもの荷物がわかりやすく収納されているか環境を確認してみましょう。たんすの引き出しに、①②③と番号を振って、そのとおりに服を着ていけば完成するなどの仕組み化ができるとよいかもしれません。
子どもは同じ空間で過ごす人の影響を強く受けます。耳が痛いかもしれませんが、子どもが時間を逆算して動けない場合は、親御さんも同じように時間ギリギリで動いているかもしれません。「自律的に準備ができない」子のご家庭では、いつも「あれがない」「これはどこいった?」という会話が繰り広げられていることも少なくありません。
お子さんの傾向が気がかりなのだとしたら、一度ご家庭の状況を振り返ってみましょう。そして、気づいたことがあれば、親子で一緒に物理的な改善策を考えていく。そうすることで、すがすがしい親子の時間が増えていくはずです。
「やるべきことをやらない」子への処方箋・考え方として、次のような点も大切です。
※詳細は『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』に紹介されています。
【処方箋2】「やらなかった場合にどうなるか」を子どもと考える
【処方箋3】夢中でやり遂げられることがひとつでもあれば大丈夫
【処方箋4】「ほかの子はできているのに」という焦燥感を手放す
ほか、「自分の意見を言えない」「友達とうまく付き合えない」といった苦手への処方箋についても同書で紹介しています。
SEL教育とは
SELとはSocial Emotional Learningの略称で、日本語で「社会性と情動の学び」と訳されます。この学びは「Social(ソーシャル)」と「Emotional(エモーショナル)」というふたつの要素から構成されています。
「ソーシャル」は、人と良好な関係を築くための社会的能力を指します。一般的にソーシャルスキルとも呼ばれるものです。「エモーショナル」は、自分自身の感情や考えに気づき、また他者の状態を理解し、それに適切に対応する能力を意味します。これらの能力を伸ばすことが、SELの目的です。
これまで多くの研究者が、学校を中心としてSELの理論やフレームワークを提示してきました。現在、教育移住先としても注目を集めているシンガポールで全校に必修化されるなど、世界的にも注目を集めています。
向上した社会スキルと情動スキルは家庭の中だけでなく、「プロフェッショナルスキル」の向上につながります。例えば、ゴールを立ててそこに向かって着実に歩んでいく力や困難があっても諦めずに柔軟に進めていく力は、SELのアプローチの中で育まれていくのです。
※以上、『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣』(下向依梨・著/小学館)から引用・再構成
SELについてもっと知りたい人のために
世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 ~学力だけで幸せになれるのか?
本書では家庭でのSEL実践方法を具体的に紹介。〝親子〞の生活の中で、どのように切りひらく力を育むことができるか、エビデンスと実践に基づきながら紹介します。
<「はじめに」より>
切りひらく力を手にすると、大なり小なり「もっとこうなったらいいな」と思うことに、主体的に働きかけることができるようになります。その対象は自分かもしれないですし、家族や友人かもしれません。自分が生きたい世界をつくるため、何かアクションを起こす。その積み重ねが、その人の道となります。生きたい世界は、自分の意志と行動でつくれるのです。
著者
https://www.roku-you.co/
あなたにはこちらもおすすめ
再構成/HugKum編集部 イラスト/Okuta
© Eri Shimomukai Printed in Japan ISBN978-4-09-38916707