中国による日本産海産物の全面輸入禁止から1年が経った
東京電力福島第一原発の処理水放出に伴い、中国が日本産水産物の全面輸入停止に踏み切ってから8月で1年となります。中国は処理水放出は安全基準を満たさないとしていますが、IAEAや諸外国の多くは問題なしとしており、政治的な思惑が働いていると考えられます。
バイデン大統領がリードする、先端半導体をめぐる覇権競争とは?
その背景には、先端半導体をめぐる覇権競争があります。米中間で技術覇権をめぐる攻防がエスカレートするなか、バイデン政権は一昨年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、スーパーコンピューターやAIなどに使う先端半導体分野で中国向けの輸出規制を大幅に強化しました。
しかし、米国のみでは先端半導体の製造に欠かせない材料や技術の流出を防止できないと判断したバイデン政権は昨年1月、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに協力を呼び掛け、日本は先端半導体に必要な製造装置、露光装置など23品目を輸出管理の規制対象に新たに追加し、中国への輸出規制を事実上開始しました。
覇権競争で日本への不満が高まり、日本産水産物も輸入停止
この輸入規制に対し、中国は日本へ不満を強め、希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連の輸出規制を強化しました。中国は世界のガリウム生産量の約9割、ゲルマニウム生産量の約7割を占め、日本はその多くを中国からの輸入に依存しています。これは日本への牽制であり、8月の日本産水産物の全面輸入停止はこの延長線上で考えられます。
しかし、日本産水産物の全面輸入停止は、日本の水産業界にとっては大きな痛手となりました。特に、加工したホタテなどの大半を中国に輸出してきた水産加工会社などは、突然中国向けの輸出ができなくなったことで大きな衝撃を受けました。
脱中国依存からの脱却 日本企業のグローバルサウス開拓
しかし、ここで教訓になったのが脱中国依存です。近年、欧米と中国、ロシアなど大国間の対立が激しくなるなか、経済を武器として使うケースが多々見られます。中国が台湾産の農産物、オーストラリア産のワインや牛肉などの輸入を一方的に停止したように、国家と国家の関係が冷え込んだ際、貿易規制を仕掛けることで相手国に政治的圧力を加えるのです。
このリスクを回避するため、日本の水産加工会社などは中国一辺倒の依存から脱却し、東南アジアや米国など新たな輸出先の確保に努めています。そうすることによって、企業はリスク分散が可能となり、突然大きな経済的損害を被ることを回避できます。
そして、こういった動きは今後いっそう広がっていくことが考えられます。インドや東南アジアなどいわゆるグローバルサウスの国々は、今後飛躍的に経済成長することが見込まれ、日本企業の進出に大きな期待を抱いています。今後も日本にとって中国が重要な貿易相手国であることに変わりはないですが、日本企業のリスク分散化に関連するグローバルサウスへの開拓はいっそう進むでしょう。
この記事のPOINT
①中国による日本産海産物の全面輸入禁止から1年が経った
②日本企業は、大きな取引先であった中国への輸出ができなくなり、苦境に立たされた
③対策として、中国への輸出依存から脱却し、大きな飛躍を遂げているグローバルサウスへ取引先の拡大などに努め、リスクを分散している
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。