「西遊記」の孫悟空はなぜ猿? 沙悟浄は河童ではない? 登場人物の特徴と真相、原作の気になる結末までを解説【教養としての古典名作】

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実写ドラマ化や映画化のほか、マンガ・アニメ化も盛んにされてきた中国の長編小説『西遊記』。本記事では、『西遊記』のあらすじから結末、基本情報、おすすめ書籍までをご紹介していきます。

「西遊記(さいゆうき)」ってどんなお話?

孫悟空が活躍する冒険ストーリー『西遊記』を、絵本や映画、マンガ等でご存じの方は多いのではないでしょうか。日本でも映画化やドラマ化が盛んにされており、特に1978年に堺正章さん主演で制作された日本テレビのドラマ版は大きな話題を呼びました。

そんな『西遊記』の原作は、16世紀後半ごろに完成した中国・明代の長編小説。高徳の僧侶・三蔵法師(さんぞうほうし)が、孫悟空(そんごくう)、沙悟浄(さごじょう)、猪八戒(ちょはっかい)の3人の家来を引き連れ、天竺(てんじく)へと経文を取りに行くお話です。

「西遊記」のあらすじ

『西遊記』の登場人物を描いた絵画(頤和園) Photo by Rolf Müller, CC-継承 3.0, Wikimedia Commons

ここからは、そんな『西遊記』のあらすじをさっそくご紹介していきます。比較的詳しいあらすじと、お話の大筋がわかる簡単なあらすじの2種類に分けました。

孫悟空の誕生から、五行山へ閉じ込められるまで

東勝神州傲来国にある花果山という山の石から、不思議な猿が生まれ、その周辺の猿たちから慕われるようになりました。猿はある日を境にすべての生き物に生死があることを悲観し、自らの不老不死を願って仙人を目指すようになります。猿が師匠である須菩提祖師から授かった法名は「孫悟空」でした。

孫悟空は72通りの変化の術を身につけ、宙返り一つで10万8000里の距離をひとっ飛びできる觔斗雲(きんとうん)を扱えるようになりますが、変化の術を他の弟子たちにみせびらかしたことで師匠に勘当されてしまいます。

花果山へと一度は戻った孫悟空は、自由自在に伸び縮みする如意金箍棒(にょいきんこぼう)を手に入れて、さらにパワーアップ。しかしながら、自分を天下無敵の存在と思い込んだ孫悟空は、地獄や天界で大暴れして、釈迦如来によって五行山に閉じ込められてしまうのでした。

三蔵法師との出会いと天竺への旅

孫悟空が五行山に閉じ込められて500年。孫悟空を救い出してくれたのは、三蔵法師という僧です。孫悟空は、唐から天竺へと経典を取りに行く途中の三蔵法師の弟子となって、共に旅へと出ることになります。

一見、心を入れ替えたように見える孫悟空でしたが、旅の途中で人を殺めたことから、三蔵法師に逆らうと頭を縛りつけられる緊箍児呪(きんこじじゅ)という輪を頭に嵌められ、以来、三蔵法師に忠実に行動をするように。

その後は、天界を追われて妖怪となって暴れていた猪八戒や沙悟浄と出会い、仲間に加えながら、天界が用意した八十一の難として、さまざまな妖怪たちとの戦いや苦難を経つつ旅路を進んでいきます。

天竺へ辿り着いてから

一行はついに天竺にたどりつき、釈迦と対面して経典を授かりますが、その経典はなぜか白紙。新たに授かった経典は有字だったものの、旅の日数と経典の数が8つ合わなかったため、今度は東土から西天へ8日間のうちに帰ってくるよう命じられたりと、天竺へ着いてからも試練は続きます。

再びの試練を超えて、経典を皇帝へと届けると、とうとうそれまでの罪を許された一行。めでたく、三蔵は旃檀功徳仏(せんだんくどくぶつ)、悟空は闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)、八戒は浄壇使者(じょうだんししゃ)、悟浄は金身羅漢(こんしんらかん)の身になりました。

京劇でも演じられている『西遊記』 Photo by Kwz , CC-継承 3.0, Wikimedia Commons

簡単にまとめると…

東勝神州傲来国にある花果山という山の石から生まれた孫悟空という猿は、強くすさまじい度胸の持ち主でした。しかし、自分を天下無敵の存在と思い込んで地獄や天界で大暴れし、釈迦如来によって五行山に閉じ込められてしまいます。

孫悟空を救い出してくれたのは、唐から天竺へと経典を取りに行く途中の三蔵法師という僧。孫悟空は、猪八戒や沙悟浄を仲間にしながら、その三蔵法師のおともをすることになりました。

天から与えられたさまざまな試練を超えた一行は、天竺へ辿り着いて経典を無事に授かり、皇帝へと届けます。このことによって、孫悟空は地獄や天界で暴れた罪を許され、三蔵法師とともに仏の身になりました。

結末・最後はどうなる?

本作の最後で、孫悟空と三蔵法師たちの一行は、数々の試練を乗り越えて授かった経典を皇帝へと届けました。

このことから、猪八戒や沙悟浄は罪が許されて、八戒は浄壇使者(じょうだんししゃ)、悟浄は金身羅漢(こんしんらかん)という修行者の地位に。三蔵法師は旃檀功徳仏(せんだんくどくぶつ)、悟空は闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)という仏の身になりました。

孫悟空は、三蔵法師に頭に嵌められた緊箍児呪(きんこじじゅ)を外してほしいと頼みますが、頭に触れてみると、すでに緊箍児呪は消えていた、という締めくくりが有名です。

主な登場人物

では、西遊記にはどのような登場人物がいるのでしょうか。主な登場人物をご紹介します。

孫悟空(そんごくう)

西游真詮 图像6 孫行者(孫悟空) Wikimedia Commons(PD)

石から生まれた猿。仙術を学んで強くなるものの、地獄や天界で大暴れをして釈迦如来によって封じ込められてしまいます。そこを救ってくれた三蔵法師のお供として、経典を求めて天竺への旅に出ることに。
インド神話の神猿「ハヌマーン」という、猿の顔を持つ神がモデルになっていると言われます。

猪八戒(ちょはっかい)

西游真詮 图像7 猪八戒 Wikimedia Commons(PD)

もとは天界の役人・天蓬元帥であったにもかかわらず、月の女神をたぶらかしたために天界を追われ、豚の姿になってしまった妖仙。
日本では「“猪”八戒と書くのに豚なの?」と疑問に思われがちですが、中国語では家猪はブタで、野猪がイノシシを意味するため、猪八戒の「猪」はブタのことを指しています。

沙悟浄(さごじょう)

西游真詮 图像8 沙僧(沙悟浄) Wikimedia Commons(PD)

元々は天界の役人・捲簾大将でしたが、罪を犯して下界へと落とされた妖怪。
日本では河童の絵で描かれることが多いですが、河童は日本固有の河童であるため、原作ではもちろん河童ではありません。河を通る人を襲う妖怪だったことや、三蔵に弟子入りして剃髪するシーンがあることから、河童のイメージがついたのかもしれません。

三蔵法師

西游真詮 图像5 唐僧(三蔵法師) Wikimedia Commons(PD)

五行山に閉じ込められた孫悟空を救って、ともに経典を探す旅へと出る僧。
元の名を唐代の僧・玄奘三蔵。同名で実在した人物がモデルとなっています。玄奘三蔵は、当時の中国に未だ伝来していなかった経典を求めて629年に唐からシルクロード陸路でインドへ向かい、経典657部や仏像などを持って645年に帰還。以後、翻訳作業で従来の誤りを正し、法相宗の開祖となりました。

「西遊記」の基本情報

「道の駅 西山ふるさと公苑」の孫悟空の石像(新潟県柏崎市)

ここでは、『西遊記』が書かれた背景や作者についてを押さえておきましょう。

中国小説「西遊記」とは。実話という噂は本当?

『西遊記』(繁体字: 西遊記; 簡体字: 西游记)は、先述した通り、16世紀の中国・明の時代に完成した長編小説です。

唐の時代に中国からインドへと渡って仏教の経典を持ち帰った玄奘三蔵の旅が記された『大唐西域記』をベースに、孫悟空を主役に置いたフィクションとして仕立てられています。玄奘三蔵や唐の太宗皇帝をはじめとした実在の人物も登場しますが、あくまでも『西遊記』はフィクションです。

原作者は不明

原作者は、呉承恩(ご しょうおん)とされています。魯迅が『中国小説史略』で『西遊記』の原作者を呉承恩と記述したことからそのようにされていますが、確証はありません。異なる説をとなえる人が多いことからも、実際の原作者は不明と考えられています。

「西遊記」を読むなら

最後に、『西遊記』を読む際におすすめの書籍や漫画をご紹介します。実際の原作は超大作なので、はじめて読む方の入門書に最適の3冊を集めました。

西遊記 (新装版) (講談社青い鳥文庫 91-2)

超大作を子ども向けにわかりやすく1冊にまとめた、青い鳥文庫版の『西遊記』。孫悟空の活躍や三蔵法師との旅の様子を、かっこいい挿絵とともに追うことができます。全編ふりがな付きで、小学校中学年頃から楽しめます。

西遊記 (ポプラ世界名作童話 6)

武田美穂さんのポップなイラスト満載で楽しめる『西遊記』。簡単な言葉でコンパクトにまとめられているので、小学校低学年ぐらいのお子さんでも無理なく読めます。はじめての一人読書にもおすすめです。

西遊記 (まんがで読破)

『西遊記』が、名作を漫画で読むことができる「まんがで読破」シリーズから登場。登場人物が多く、難解な描写も少なくない『西遊記』の物語を、臨場感満載な漫画で楽しむことができます。とりあえずあらすじを押さえておきたい方向けの一冊です。

元の話をよく知って、派生作品への理解も深めよう

今回は、孫悟空が活躍する中国の長編小説『西遊記』のあらすじや書かれた背景、基本情報等をご紹介してきました。日本国内でもさまざまな作品に影響をもたらした『西遊記』。もともとはどんな話なのかを知っておくと、派生作品への理解もより深まりそうですね。

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文・構成/羽吹理美

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