作文指導と文章添削をAIに頼んでみたらこうなった。生成AIは危機ではなく「子どものことば」を磨く手助けに! AIに「負けない」から「共存」へ

昨今の教育界でよく耳にする「AIに負けない〇〇力を」などというフレーズ。しかしAIとは戦いを挑むべき相手なのでしょうか。
子どもの読解力に警鐘を鳴らし、国語力アップのための学習メソッドを研究・紹介している伊藤氏貴先生(明治大学教授/文芸評論家)に、生成AIとポジティブに共存し、AIを使いこなす発想と実践的な知恵について伺いました。

生成AIを誰もが手軽に使えるようになったとき、教育業界は慌てふためきました。課題に生成AIを用いることを一切禁じるお触れをすぐさま出した大学もありました。小中学生に関しては、文部科学省も昨年、「初等中等教育における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を出して、その中で、「適切でないと考えられる例」を挙げています。詳しくは下記をご参照ください。

初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン|⽂部科学省 初等中等教育局

ですが、このガイドラインの中には、「活用が考えられる例」も挙げられています。インターネットと同様に、生成AIが今後わたしたちの生活になくてはならないものとなることはまちがいありません。では、生成AIにはなにができてなにができないのか。それを踏まえたうえで、どうつきあっていくべきなのか。

どうしてもつきあっていかねばならないものならば、逃げ腰になるのでなく、むしろ積極的に活用する方法を探っていくほうがよいのではないでしょうか。この稿では、「国語力の養成」という面で、生成AIをどう役立てることができるかを考えてみたいと思います。ご家庭でもできることがたくさんあります。

AIに向いていること

Artificial Intelligenceは「人工知能」と訳され、生成AIは、文字などで入力した指示に対してテキストや画像、動画などを生成する人工知能システムの一種

新しいAIの名称については、一時期「対話型AI」などとも呼ばれましたが、どうやら「生成AI」で落ち着いたようです。ではこの新しい技術は、従来のAIとなにが違うのでしょうか。

「生成(的)generative」というとおり、なにかを「生成」つまり生み出すのに向いているのです。この「なにか」とは特に、文章、音声、画像、動画です。たとえば資料を与えてまとめて文章にするなどはお手のものですし、なんならテーマと文字数だけ伝えればレポートも書いてくれます。これではたしかに学校側としては使用禁止にしたくもなるかもしれません。

ですが、文章の読み書きこそが生成AIの得意とするところです。既にテレビのニュースのある部分はAIの自動音声によって読み上げられていることにお気づきでしょう。ですが、さらに、その朗読原稿すらも、AIが作成できるまでになっています。

また以前「対話型」と言われていたように、日常的なことばで指示を出すことができ、それに対して日常的なことばで答えてくれます。

かつてコンピューターを使うには、特別なコンピューター言語を学ぶ必要がありましたが、今ではほとんどの人がアイコンをクリックして操作しています。しかし生成AIは、日常言語で指示ができるのです。部下にことばで指示を出すようなものです。

しかも、音声を使えば、文字を打ち込む必要もありません。文字通り個人同士でするような「対話」ができるのです。真面目な話もできますし、他愛ないおしゃべりにも、飽きることなくいつまでもつきあってくれます。

ここまでをまとめると、生成AIは、いわゆる4技能=聞く・話す・読む・書くといったことばを扱う能力に長けており、また、その能力を極めて個人的な場面で発揮することができる技術です。

文章方面にかぎってもこれほど有能な道具を、使わない手はありません。

もちろんたとえば、計算の能力をつけたいときに計算機を使用することは意味がないでしょう。同様に、読書感想文の課題などをAIに丸投げしてしまっては、自身の文章能力は上がらないでしょう。

ですが、生成AIは、上にあげた能力をうまく使えば、計算機には望むべくもないような大きな教育的効果があります。

生成AIの活用例⓵ 作文のお手伝い

生成AIにすべて代行させるのではなく、作文を自分で書くためのサポートとして活用

もちろん、上に述べたとおり、丸投げはダメです。

たとえば「夏休みの思い出」という題の作文など、うまくしぼりこめば、一瞬にして仕上げてくれます。読書感想文も、対象の本が非常に有名なものであれば(つまり生成AIが学習済みのものであれば)、すぐにでっちあげてくれます。先生はそれを見破ることができないでしょう。

ですが、それがダメなのは、倫理的にという意味ばかりでなく、力を伸ばすという目的に対してなんの役にも立たないからです。

でも、作文は大の苦手で、原稿用紙の前でいつまでも考えあぐねてしまうような人に、生成AIはよい相棒になってくれます。

ためしに、「夏休みの思い出」の作文で、助けを求めてみましょう。私が普段使っている生成AIに頼んでみます。

私:作文の宿題を書きたいのですが、アドバイスをもらえますか?

AI:こんにちは。もちろんお手伝いします。まず、どのようなテーマや内容の作文を書きたいかを教えてください。例えば、夏休みの思い出、学校での出来事、友達とのエピソードなど、テーマが決まっていると進めやすいです。今日はどんなテーマで作文を書きますか?

私:「夏休みの思い出」についてです。

AI:夏休みで一番心に残った思い出はなんですか?

私:たくさんあります。

AI:一つひとつ考えていきましょう。家族や友達と一緒に、ふだんしたことがない経験をしませんでしたか?

以下、対話をしながらテーマを絞り込んでいくことができます。そしてそのあとで、次のような書き方のアドバイスももらいました。

作文の書き方

導入(はじめ)どんなテーマで書くのか、話の始まりを紹介します。

例:「この夏休み、家族と一緒に海に行きました。」

 

展開(なか)具体的に何をしたのか、どんな気持ちだったのかを書きます。

例:「海では大きな波が押し寄せてきて、少し怖かったけれど、すぐに慣れて楽しくなりました。」

 

結論(おわり)経験を通して感じたことや、今後どうしたいかを書きます。

例:「この旅行で自然の美しさを改めて感じ、また行きたいと思いました。」

 

このように、文章を3つのパートに分けると書きやすくなります。

至れり尽くせりのサポートです。一人ひとりのテーマやレベルに合わせて具体的なアドバイスをくれます。

このように、生成AIは、作文を書くときに、アイディアを練ったり、文章の構造を考えたりする点で大きな助けになります

生成AIの活用例② 文章の添削

国語をディープラーニングしている生成AIだからこそできることがある

日本語は、話しことばと書きことばが大きく隔たっている言語だと言われています。私などは、LINEなどでも書きことばしか使えないのですが、今はSNSでは話しことばそのままの口調で書かれた文章を目にすることも多くなりました。

普段からそういう文しか書いていないと、作文やレポートのときに困ることになります。それで、これまでは訓練のために、親子間のメールでも「文章は書きことばで」ということをみなさんに薦めてきていたのですが、生成AIは新たによい訓練の場を与えてくれました。

生成AIは、標準的なことば遣いで文章を書いてくれます。内容の正確さの保証はなくとも、文章としては誤字脱字もなく正確です。

この能力を使って、書いた文章を添削してもらうことができます。たとえば「食べれる」など、口語では許されても(個人的には許したくないのですが)、書きことばとしてはまだ許容されていない言葉づかいも直してくれます。

試しに、「彼は新宿の会社に努めている」という文の添削を依頼しました。回答は以下のとおりでした。

私:「彼は新宿の会社に努めている」という文を添削してもらえませんか? 

AI:「彼は新宿の会社に努めている」という文の「努めている」という部分が適切ではありません。「努める」は「努力する」という意味で使われるため、この文脈では「勤めている」が正しい表現です。

 

修正後の文は次のようになります: 「彼は新宿の会社に勤めている」

完璧です。教師の立場からいうと、一人ひとりの生徒に対してこれほど丁寧な添削はできません。それで、もし自分で文字入力できるお子さんであれば、自分の書いた文章が日本語としてどうなのか、生成AIにチェックしてもらうことができます

なお、音声機能を使えば、普通に会話できるだけでなく、そのことばが画面に文字としても現れ、保存されますので、文字入力ができなくても、自分の話したことばをチェックすることもできます。この点が次の活用例につながります。

AI活用例〈会話・伝達スキルの向上編〉はこちら

生成AIを使って子どもの国語力アップも叶う!「敬語で会話」「漢字クイズ」「伝達スキルの訓練」活用アイディアは無限大【明治大学教授 伊藤氏貴先生に訊く】
※この記事は 【生成AIで子どものことばを磨く】AIに「負けない」から「共存」へ  の続編です。 生成AIの活用例③ 敬語に親しむ...

記事執筆

伊藤氏貴(いとううじたか)|明治大学文学部教授・文芸評論家
昭和43年生まれ。都内私立中・高一貫校の英語教師、大手予備校の現代文講師などを経て、現在に至る。中学、高校の国語教科書の編集委員を務める。著書に『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』『国語読解力「奇跡のドリル」小学校1・2年』『教育論の新常識 格差・学力・政策・未来』(共著)などがある。

編集部おすすめ

関連記事