AI時代に求められるのは「競技力」よりも「遊戯力」。新聞を使った『しんぶんちゲーム』で育む〝生きる力〟とは【ゲーム監修者インタビュー】

新聞の魅力を存分に味わえる工夫がなされた知育ボード&カードゲーム『しんぶんちゲーム』。紙に刷られた「新聞」に触れたことのない子どもが増える現代において、このゲームはどのような思いとともに制作されたのでしょうか。
今回は、『しんぶんちゲーム』の監修者である鳥取大学の大谷直史先生と関西学院大学の武田信吾先生に、このゲームが作られた背景についてインタビューしました。

「しんぶんち(新聞知)ゲーム」とは?

『しんぶんち(新聞知)ゲーム』とは、新聞に書かれた文字や情報、そして古紙という素材を最大限に活かした知育ゲーム。

公式サイトのガイドに従って、新聞記事の中から特定の言葉を探す速さを競う「スピードゲーム」、新聞紙を使って身体を動かしながら知恵と工夫のうまさを競う「アクションゲーム」、新聞記事を使って自分だけの発想と表現でおもしろさを競う「コミュニケーションゲーム」の3つのカテゴリに分類できる、39種類のゲームから成ります。

さらにすごろくタイプのボードゲームとあわせて、参加者それぞれが新聞を完成させる遊びも取り入れられており、多彩な楽しみ方ができる構成です。

上画像は、小さい子向けに「文字さがし」「言葉さがし」に特化した『しんぶんちゲーム LIGHT』。年齢にあわせて、さまざまな楽しみ方ができる

ゲームを楽しむうちに、新聞にはどのような情報が掲載されているのかを知ることができ、その読み解き方を感覚的に掴むことも期待できるというものです。

以下の記事では、『しんぶんちゲーム』の詳細や、実際にHugKumモニターファミリーが遊んでみた様子をお伝えしているので、あわせてご参照ください。

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『しんぶんちゲーム』はこうしてできた! 開発の裏側やゲームに込められた思いとは

今回は、そんな『しんぶんちゲーム』がどのようなきっかけから作られたのかをはじめ、本作が出来上がるまでの開発の裏側や、本作に込められた思いを監修者の大谷先生(鳥取大学/准教授)・武田先生(関西学院大学/准教授)のお二方に語っていただきました。

“情報収集の道具”としてではない、“物質”としての新聞にまずは関わってほしい

── どのようなきっかけで「しんぶんちゲーム」は作られたのでしょうか。

鳥取大学の大谷直史先生。『しんぶんちゲーム』全体の構成や、主に言葉あそびゲームの監修を担当

大谷先生: 新聞をもっと手に取ってもらうために、ゲームと関連づけた企画が日本新聞協会さんで考案されたのだと思います。かつて僕はゲームに関するちょっとした論文を書いたことがありまして、そのような経歴からお話をいただいたようです。それで、僕から武田さんを引き込みました。

── 武田先生は大谷先生のお声がけによって携わられたのですね。お二人は以前から繋がりがあったのでしょうか?

関西学院大学の武田信吾先生。『しんぶんちゲーム』では、主に体を使う遊びや、美術・工作系の監修を担当

武田先生: 私自身の専門は美術教育でして、もともと地域の美術を子どもたちに親しんでもらう方法として「ゲーム化する」というアイディアを持っていたんです。それで、近しい仕事をされていた大谷先生とゲームについて一緒に取り組んできたという経緯があります。

大谷先生: 僕は言葉に関するゲームを作っていたのですが、もっとなにかネタが欲しいなと思い、工作系のネタをお借りするべく武田さんに声をかけました。

── 『しんぶんちゲーム』はゲームの種類が実に豊富ですよね。

大谷先生: 作ろうと思えば無数にできます。新聞の使い方を「情報収集ではないほう」へとどんどんずらしていけばよいですし、それこそが遊びだと思うので。

── 「新聞を扱ったゲーム」をイメージした際、『しんぶんちゲーム』の「身体や指先を使う」という点に意外性を感じる方も多いと思うのですが、こういった「動いて、触って行なう」ことにこだわられた理由を教えてください。

武田先生: 新聞を材料に具体的なものを作るという使い方もできますが、どちらかというと、物質としての新聞に身体を通じて関わることを大切にしたいなと思ったんです。たとえば、小さい子どもたちが新聞とどう関わるかというと、おそらくビリビリに破る……とかですよね。

── みんなやりますよね(笑)。

武田先生: 新聞って本当に柔らかいというか、抵抗が少なくて身体に馴染みやすいんです。なので、子どもたちが自然に関わることができる。それから、破くとか、踏んづけることもあるかもしれないですが、子どもの動きや遊び、感覚との相性がよいという面もあると思うんですね。
たとえば画用紙だとそれなりの厚みがあるし、何か形を変えようと思ったら、ハサミや糊が必要になってくることもある。でも新聞はそうではなく、そのまま遊ぶことができるんです。

大谷先生: 古新聞は廃品なので、ビリビリに破られても大人側が心配することがない。安心して無駄遣いしてもらえるっていうのもメリットでしょう。子どものほうもじゃんじゃん使える。気兼ねなく使えるということで自由度は増すのだと思います。

“発想を広げる”身近な遊び道具としての新聞

『しんぶんちゲーム』のひとつ『しんぶんちゲーム LIGHT』にチャレンジするHugKumモニターファミリー/稲葉さん親子

── ご家庭で『しんぶんちゲーム』を遊んだことはありますか。

武田先生: うちには子どもが3人いるのですが、『しんぶんちゲーム』に限らず、このお仕事をいただく前から新聞ではよく遊んでいました。その影響か、子どもたちは今新聞に親しめているように思います。けっこう読んでいますね。
子どもにとっては新聞のサイズ感も魅力的だったようで、好きな野球の選手がバーンと大きく載っていたり、うちの子は鉄道が好きなので鉄道に関する記事を見つけたり……最初はそういうことから入って、文字や漢字を覚えていくと、親からなにも言われなくても自然と新聞を読むようになりました。

── やはり、身近にあるということが大事なのかもしれないですね。

武田先生: そうだと思います。

大谷先生: できれば新聞が身近にある環境で、隙間時間に「新聞があるからちょっとこんな遊びをしようか」という感覚でやってもらえたらいいなと思ってるんです。『しんぶんちゲーム』はそのネタ集みたいな感じで捉えてもらえればいいかなと。

── 一方で、『しんぶんちゲーム』の「スピードゲーム」や「コミュニケーションゲーム」の中には、大人にとっても難しそうなゲームもありますね。たとえば、「しんぶんの中から一番遠いと感じる場所を探せ!」のような。

大谷先生: 大学生ぐらいのほうが楽しめるゲームもあるかもしれません。何が「遠い」とか、何が「近い」とか、哲学的な話にもなっていくので。

── そういう意味では飽きずに長くやれますよね。

大谷先生: そうですね。新聞を使って、一方向ではなくていろんな方向に発想を広げていける、というのもねらっていました。『しんぶんちゲーム』が定めたものだけではなく、むしろオリジナルのお題をみんなで考えるところにまでこのゲームを広げていってほしいです。

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── 今現在、ペーパーレス・AI時代と言われていますが、今後そのような時代を生きる子どもたちが身につけるべきことや懸念点、メッセージなどがありましたら教えてください。

武田先生: 学校現場では当たり前のようにノートパソコンやタブレットが一人一台用意され、インターネットでは新聞を含めた多くの情報をいつでもどこでも得られる時代です。小さい頃からそれらを扱うスキルが身についていているからこそ、子どもたちが私たち大人より使いこなせている場合もありますね。
しかしながら、やはり大事なのは、自分の身体を通じて世界と直接的に関わって理解をすることだと思います。それは電子媒体上での情報からは得られないものではないでしょうか。

大谷先生: 新聞を触って古紙のザラザラとした質感を感じて、筋肉使ってページをめくって、インクの匂いも嗅いで……。複合的なあの感触を得ながらの新聞の情報収集に対して、電子媒体での情報収集は、学校・家、どこにおいても同じ情報の取り方になってしまって、世界がどんどんと平坦になっていくように思います。人間として生きる時に、何かが足りなくなっていくような気がする。
なので、できるだけ五感を使った接触をしてほしいです。外遊びは大事だし、僕の学童保育でも正直ゲームはあんまりさせたくないんですよね。『しんぶんちゲーム』なんてしないで、外で遊んでほしい(笑)。

── (笑)。

大谷先生: 「遊び」と「ゲーム」は全く違うものだと僕は捉えているんです。人によっては「パイディア(遊戯)」と「ルドゥス(競技)」という言い方をする人もいますが、「遊戯」と「競技」は方向性が全く逆です。「競技」はかっちりと決められたルールの下で競う。「遊戯」っていうのはルールなんてなくて、むしろルールを破ることが大事だったり、盛り上がればオッケーなものです。
この2つの違いを前提に考えてみると、AI は多分「競技」しかできないので、AI 社会では世界は次第に競技化していくと考えられます。

── そうですよね。ディープラーニングして、ルールを応用していくんですもんね。

大谷先生: そう。パターンを認識して、いちばん使われているパターンを繰り返していく。で、それがAIで、AIはパターンから外れることができない。ふざけたり、反抗したりということにも繋がりますが、「遊戯」「遊び」と表現できる「パターンから外れること」はやはり人間にしかできないんですよね。なので、遊ぶ能力は今後大事になるはずだと思っていて。
この『しんぶんちゲーム』は、新聞という媒体をいろんなふうに使ってみるというものです。使い方をずらして、ひとつのものをさまざまに遊んでみるということをやってほしい。それを繰り返していくと、遊ぶ能力が培われていくだろうと。そんなことを考えています。

── 『しんぶんちゲーム』を通して、与えられた39種のゲームで遊ぶうちに、自分でも新たな発想をして新聞を遊んでいけるようになっていく。そのプロセスこそが大切なのですね。

大谷先生: そうですね。いろんな遊びをやっておけば、自分でルールを作りだして遊んだり、他のことにも応用できるじゃないかなと思います。

『しんぶんちゲーム』を通じて、新聞の魅力や、発想を広げる楽しさを味わおう

新聞で遊ぶことを通じて、五感を使って世界と関わることや自らの発想によって遊びを広げることを知ってほしいと語ってくださった大谷先生と武田先生。今後の時代を生きていく子どもに向けた、さまざまな思いや願いがこの『しんぶんちゲーム』に込められていることが伝わってきました。

お二人が監修した『しんぶんちゲーム』は特設サイトにて公開中。ぜひ五感を使ってご家族で遊んで、新聞の魅力や、発想を広げる楽しさを味わってみてくださいね。

『しんぶんちゲーム』公式サイト TOPページより

実際に遊んでみた!ゲーム内容の詳細はこちら

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【監修者プロフィール】

大谷直史先生
鳥取大学 教育支援・国際交流推進機構
教育要請センター 教員養成部門 准教授

武田信吾先生
関西学院大学 教育学部 准教授

しんぶんの“ワッ!”公式サイトはこちらから

取材・文/羽吹理美

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