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自身の経験から、〝食べない子〟専門の食育カウンセラーに
――ご著書『マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉』に、山口さんご自身も「食べない子」だったと書かれていましたが、どんなことがきっかけで、食育カウンセラーになられたのでしょうか?
山口さん:子どもの頃、食が細かったんです。小学校の給食では時間内に食べきれず、居残りで食べるということもよくありました。それでも食べられなくて給食室に「ごめんなさい」と食器を戻しに行くこともあり、給食に対して苦手意識が強かったです。給食の時間が楽しみではなく、とにかく不安でしたね。家でも父に「食べないから大きくなれないんだ」とよく言われました。でも、そういわれても食べられるわけではなく…。
山口さん:さらに、高校時代に野球部の合宿で、いつもと違った環境の中で食事量にノルマを課されたことがきっかけで、人と食事をすることができなくなる「会食恐怖症」という病気に悩まされるように。
しかし、その後「無理して食べなくてもいいよ」と言ってくれる相手となら、食事ができることが多くなったのです。「食べろ!」と言われると食べられず、「無理して食べなくてもいいよ」と言われると食べられるということに気づき、それらの経験をもとに子どもの少食や偏食についてのカウンセリングを行うようになりました。
調理の工夫だけでは、好き嫌いを克服できない!?
――「調理の工夫」では偏食や好き嫌いの根本的な解決にならないと書かれていて、とても驚きました。
山口さん:「細かく刻んで混ぜる」というような調理の工夫がダメなわけではないんです。子どもが食べやすいように工夫するのは素晴らしいことだと思います。でも、それを内緒にして食べさせるのは好き嫌いの解消にはつながらないと考えています。子どもが「大好きなハンバーグだ!」と思って食べた後に、苦手な野菜が入っているとわかったら、騙されたような気分になってしまうんですよね。そうすると、次からは他の料理も警戒して食べられなくなってしまいます。
料理を作る側としても、せっかく工夫して作った料理をすべて残されたら落ち込みますし、毎日工夫をし続けるのもとても大変です。もし細かく刻んだ野菜を入れるのであれば、事前に「ハンバーグにこんな野菜を入れてみたけど、いつもの野菜の味とは違うから食べてみてね」と伝えるのをおすすめします。
私は好き嫌いには「ギャップ理論」というのがあると思っています。大好きなハンバーグに苦手な野菜が入っていることに気づいてしまったらそれはマイナスになってしまいますよね。でももともと野菜が入っていることがわかっていればマイナスから入るので、「意外に食べられるかも?」とプラスに転じやすいです。
そして、調理の工夫に頼らず、親子のコミュニケーションによって「食べない子」にアプローチしていくというのが私の考え方です。
食べる前に「こんな味だよ」と予告するのが大事!
――具体的にはどんなコミュニケーションをしていくのがよいのでしょうか?
山口さん:先日YouTubeを見ていたら、芸人のエハラマサヒロさんが、イチゴを食べようとしているお子さんに何気なく「酸っぱいかもしれないから、気をつけてね」のように声をかけていたのですが、すごくいいなと思いました。酸っぱいかもしれないと思って食べたら、美味しかったというギャップがうまれやすです。
反対に、私が子どもの頃、初めて茶碗蒸しを食べる時に、父に「日本のプリンだよ」と言われたんですよね。それで甘いプリンを期待して食べたら、全然違う(笑)。それで茶碗蒸し大学生になるまで食べられなくなりました。
ですから、苦手なものに限らず事前に「こういう味だよ」「少し硬いよ」などと予告したり、先に親が一口食べて「こういう食感だよ」「こういう味でおいしい」と伝えてあげるのはすごくおすすめです。
――事前に食事についての情報を伝えるのが大切なんですね。
山口さん:先日、ある小学校の給食の先生とお話したのですが、給食のメニューであまり人気のない「きのこの混ぜ込みご飯」が出る日に、校内放送で「このご飯はこういうふうに作っている」とか、「こんな食材が入っている」というようなことをお話しされたそうなんです。そうしたら、子どもたちがその日はすごくよく食べたので、びっくりしたとおっしゃっていました。
人ってやはり情報によって行動の意思決定をすると思うんです。だから事前に食べ物のことをたくさん会話するのは大事だと思います。、親が先に食べて「 あ、このきゅうり甘い!」とか「このトマトはみずみずしいな〜」とかそんな一言でも充分です。
子どもが食べられるようになるには10のステップがある
――食べる前に食材の情報を知って、興味を持ってもらうことが大切なんですね。
山口さん:そうですね。食べない子が食べられるようになるためには、「①その食材を知らない」という状態から「②知ってもらう」「③興味を持たせる」「④触れてもらう」「⑤食べてもらう」という5つのステップがあります。それをさらに細かくすると上のイラストのような10段階に分けられます。
子どもが食べ物を口に入れるまでには、これだけの段階があるので、お子さんの状況を見て「今はこの段階だから、次はこうしようかな」と行動プランを考えてみるのがおすすめです。
「一口食べて」はハードルが高い!まずはこの言葉にチェンジ!
――ご著書の中にはたくさんの「魔法の言葉」が紹介されていますが、特におすすめのものはありますか?
山口さん:効果があったとよく言われるのが、「ペロッとしてみようか」ですね。本の感想でもダントツで反響がありますし、講演会でこの言葉を紹介した後に、保育士さんから「本当に食べました!」と言われました。
つい言ってしまいがちな「一口食べてみる?」という提案は子どもにとってハードルが高いんですよね。これはここぞというときの必殺技だと思ってください。早すぎたり、食事のたびに言ってしまうのはNGです。そして、その一口は、大人が思う量の4分の1以下を目安にしてみてください。
――そもそも、子どもが食べないとわかっているものでもやはり食卓に出したほうがよいのでしょうか。心が折れてしまうこともあり…。
山口さん:苦手なものが一切並ばない食卓では、食が広がらず、偏食のまま大人になる可能性が高くなります。「偏食=悪」ではありませんが、給食や会食などの場面で食事を楽しめなくなってしまうというのも事実です。
例えば、ピーマンが苦手な子なら、ピーマン入りの肉野菜炒めを個別盛りにし、ピーマンを一切れだけ入れてあげるという形でよいと思います。まずは食材に目を慣らして興味を持ってもらうことが第一歩です。
まずは親自身も食事を楽しもう!
―― たくさんのアイデアをありがとうございました! 最後にHugKum読者にメッセージをお願いします。
山口さん:私は「食事が楽しい」ということをすごく大事にしていて、その気持ちが土台になって食への興味が広がっていくと思っています。そのためには食卓が安心して過ごせる環境であってほしいです。頑張って食べたという経験だけが積み重ねられると、「食事=頑張るもの」になってしまいますよね。
子どもが食べたかどうかはとても気になりますが、まず親自身が今日の食事を楽しむということも食育の一つだと思うのです。だから、無理なく、少しずつ楽しい食事の時間を作ってみてください。
目からうろこの「魔法の言葉」がたくさん! 山口さんの著書『マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉』も要チェック!
- マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉
- 著者 :山口健太
- 出版社 : 辰巳出版
発売日 : 2024/3/5
単行本 160ページ - 定価:1,540円(税込)
お話をうかがったのは
株式会社日本教育資料 代表取締役
『きゅうけん|月刊給食指導研修資料』編集長
カウンセラー、講師
「人前での食事ができない」という会食恐怖症の当事者経験から、食べる相手やコミュニケーションの違いによって、食欲が変わることを経験。会食恐怖症の当事者支援活動や、既存の「食べない子どもへの対処法」に疑問を感じ、食育カウンセラー活動を始め、カウンセリングはこれまで延べ3000人以上、セミナー・講演の実施回数100回以上。
「どうすれば食べられるようになるか分からない」状態から、理論的に分かりやすく食べるようになる道筋を明示し、問題を解決しながら、楽になるメソッドが特徴。
カウンセリング、講座や講演、執筆活動を通して、食べない子に悩むお母さん、学校や保育園の先生などにメッセージを伝えている。
著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』、『マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)などがある。
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文・構成/平丸真梨子