“運命論”では片付けられない力で惹かれ合う2人
映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』や『余命10年』などで知られる岡田惠和による完全オリジナルストーリーをドラマ化した「さよならのつづき」。W主演を務めるのは、岡田さん脚本の連続テレビ小説「ひよっこ」でも主演を務めた有村架純と、『余命10年』の熱演で多くの人々を感涙させた坂口健太郎です。

岡田さんといえば、連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズをはじめ、数々のヒット作を手掛けてきたトップランナーの脚本家です。そんな岡田さんが今回目指したのが“かつてない物語を創ること”と聞いて、気になっていた本作。
何か見えない力によって引き寄せられた2人の出会いを描いていきますが、そこは“運命”というありきたりのキーワードでは片付けられない、ある秘められた不思議な力が左右していたようです。

“余命”“闘病”という感涙ラブストーリーとしての鉄板要素を押さえた本作ですが、そこに大胆な“もしも”という仮説を入れたことで、“運命論”と言い切れない語り口のロマンスに仕上がりました。
有村さん、坂口さんをはじめ、主人公2人の恋人役を演じる生田斗真、中村ゆりの存在感も秀逸。監督は、「ひよっこ」でも岡田さんとタッグを組み、大河ドラマ「青天を衝け」なども手掛けた黒崎博。
ロケ地となったのは、雄大な自然が美しいハワイと北海道で、純粋かつスピリチュアルな物語をより一層ドラマチックに盛りたてています。
記憶転移について切り込んだ岡田惠和渾身のストーリー
最愛の恋人、雄介(生田斗真)を、プロポーズされたその日に事故で亡くすという悲劇に見舞われた菅原さえ子(有村架純)。
後日、彼女は、雄介の心臓を提供された相手からお礼の手紙を受け取ります。規定によって、無記名でお礼を書いたのは、大学職員の成瀬和正(坂口健太郎)。現在の彼は、自分の病を知った上で結婚したミキ(中村ゆり)と、リンゴ園を営む彼女の実家で穏やかに暮らしていましたが、体がすっかり回復していく中で、時々フラッシュバックする自分のものではない記憶に戸惑いを覚えます。

そんな2人が偶然、列車の中で出会い、さえ子はどこか雄介の雰囲気を醸す成瀬に好感を持っていきます。また成瀬も列車でさえ子と会う時間を心待ちにするようになる中で、さえ子は成瀬の中に、雄介の記憶が“生きている”ことを知ってしまいます。

現在と過去を巧みに行き来しながら、愛の軌跡を追っていく本作。まずは初っ端から、自分の愛した相手を、一瞬にして失ってしまったさえ子の喪失感を想像するだけで胸が苦しくなります。
そこは、月9ドラマ「海のはじまり」もそうでしたが、一見フラットに見える表情に、そこはかとなく“哀しみ”をたたえられる有村さんの演技力が多くを物語ってます。また、常に相手の演技を繊細に受け止めつつ、共にその感情に共鳴していく名レシーバー、坂口さんの“包容力”にもうっとり。
また、心臓移植をする以外に生きる術を持たない成瀬の心中や、そんな彼に寄り添うミキの心情も併行して描かれていくことで、いろいろな立場から命の尊さを再確認させられそう。そこだけでも、非常に琴線が揺さぶられますが、注目したいのは岡田さんが言う“かつてない物語”という点です。

実は本作、エグゼクティブ・プロデューサーである岡野真紀子さん自身の体験を交え、ある仮説をベースに岡田さんが紡いだ物語だったようです。
当時、入院中だった岡野さんのお父さんが、治療の選択肢の1つとして臓器移植を提案されたそうで、岡野さん自身が様々な移植について調べていたとか。世界中で記憶転移を経験した人たちの体験談では、味覚や趣味嗜好が変わったという方が多い中、知らないはずの人へ急に手紙を書き出したというエピソードが目に留まったそうです。
主治医は、医学的なエビデンスはないとしながらも、「人を愛し、人に愛された記憶は残るのかもしれない」と言われた岡野さん。岡田さんとの打ち合わせで、岡野さんがその話を伝えたところ、岡田さんから「それでロマンスを書いたら面白いドラマができるのではないか。そういうメッセージのある作品を作りたい」という提案が出て、この企画が立ち上がったそうです。

なるほど、とても強い愛情は臓器にも残っていて、命を受け継いだ人がそのバトンを受け取る、という流れはとてもロマンティックです。本作では、生前の雄介のとてもチャーミングな人柄や、さえ子への深い愛情をふんだんに見せていくことで、「もしかして、そういうことが起こり得るのではないか?」という説得力を与えています。
ただ、そうなると、さえ子が惹かれていくのは、果たして成瀬自身なのか、それとも今は亡き雄介の幻影なのか?と、心がなんともざわめきます。もちろんさえ子と成瀬自身も戸惑いを覚えつつも、どんどん互いに惹かれ合っていくという流れなので、ドラマを観ている私たちも、前のめりにハマってしまいそう。
他人事ではなく自分に問いかけてくる「命」についてのメッセージ

全8話ですが、まず1話で衝撃を受け、その時点でそれぞれのバックグラウンドが気になってしまうという絶妙な岡田脚本。その後は有村さんや坂口さん演じるさえ子と成瀬が、少しずつ寄り添っていく時間の流れがとても自然で、それぞれの豊かな表情に魅入ってしまい、気がつけば“沼”確定です(笑)。
また、すでに高齢化社会となっている現代なので、「臓器移植」というものは、もはや他人事ではないなと実感。いろんな感情が渦巻くシーンにおいて「もしも自分が、その立場になったら?」と考えると、簡単に答えが出ないなと思った問いかけにも何度か遭遇しそう。でも、それこそがエンターテインメントの力であり、だからこそいろんな気づきや教えを与えてくれるということも痛感。
一つだけ言えるとすれば、一人の命というものは、本人だけではなく、その人に関わった家族、友人、仲間たちにとってもかけがえのないものであるということでしょうか。自分の「尊い命」は、実はみんなで共有しているものなんだと、すごく納得しました。
稀代のストーリーテラーである岡田さんの脚本で、有村さんや坂口さんたちが体現した“命”についてのラブストーリー。かなりの変化球的な切り口で展開されますが、そのぶん新鮮な驚きと感動を与えてくれそう。こういうドラマこそ、ご家族で観ていただき、深いメッセージをみなさんで共有していただきたいです。
Netflix シリーズ「さよならのつづき」はNetflixにて独占配信中
出演:有村架純、坂口健太郎、中村ゆり、奥野瑛太、伊藤歩、斉藤由貴、古舘寛治、宮崎美子、イッセー尾形、生田斗真/三浦友和…ほか
Netflix 作品ページ:https://www.netflix.com/さよならのつづき
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