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SNSの年齢制限が海外で進んでいる理由
海外では、日本よりもSNSの年齢制限が進んでいるといわれています。なぜ、海外ではSNSに年齢制限を設けようという動きがあるのでしょうか? 主な理由と、日本の動向についても確認しましょう。
世界でSNSを使用した犯罪が起きているため
世界的に、未成年をターゲットとしたSNS犯罪が問題となっています。
例えば、アメリカでは児童に対する性的搾取や麻薬の販売、誘拐などが問題となっており、子どもが犯罪に巻き込まれないための対策を進めようとしている状況です。
他の国でも、子どもが犯罪に巻き込まれるリスクを減らそうとして、SNSの使用を禁止しようとする動きがあります。
SNSを使った未成年に対する犯罪は世界的な課題ですが、日本でも同様の問題は起きているようです。警察庁の「インターネット利用に係る子どもの犯罪被害等の防止について」によると、SNSが関連している犯罪は、ここ数年1,800件前後で推移しており、海外だけの問題ではありません。
出典:R5講演資料 インターネット利用に係る子供の犯罪被害等の防止について
過度なSNS利用による心身への影響を防ぐため
SNSを使用することで、子どもの心身に悪影響が出るのではないかという議論もあります。例えば、SNSやネットの見過ぎで、肩凝りや視力低下などの影響があることも考えられるでしょう。
自己判断ができる年齢になるまで、SNSの使用を禁止するべきではないかと考える国も増えています。
「SNSを習慣的にチェックする子どもの脳には特徴的な発達傾向がある」という、ノースカロライナ大学の学者による研究結果もあります。発達傾向が特徴的であるからといって、将来的に何らかの問題があるかは突き止められていませんが、影響があるのではないかとの懸念もされているようです。
出典:SNSを使う子と使わない子「脳発達」決定的な違い 10代の子を対象にした研究で判明した | The New York Times | 東洋経済オンライン
アメリカでのSNS年齢制限の状況
アメリカでは、「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」に基づいてSNSサービス事業者が年齢制限をかけており、ほとんどのSNSで13歳未満の児童はアカウントの取得ができません。
しかし、それ以上に規制を強めようという動きもあります。アメリカの現状について、見ていきましょう。
フロリダは14歳未満のSNSアカウント取得禁止
フロリダ州では、14歳未満のSNSアカウント取得が禁止され、14〜15歳は保護者の同意がなければSNS運営企業に対して罰金を設ける法案が成立しました。
法案の施行は2025年1月の予定です。議会は当初16歳未満のSNS利用を禁止する法案を提出していたものの、フロリダ州のデサンティス知事は過剰に親の権利を侵害するのではないかと、拒否していた経緯があります。
すでに、アカウントを取得している14歳未満の子どもも対象となる予定です。14〜15歳はあらためて保護者の同意を得る必要があります。
出典:米フロリダ州、14歳未満のSNSアカウント取得を禁止 – 日本経済新聞
ニューヨークは18歳未満の若者を保護する法案が施行予定
ニューヨーク州では、SNSから若者を保護するため、18歳未満に対して一部機能に制限を設ける法案が2024年6月に成立しています。施行は2025年の予定です。
深夜0時から朝6時までは保護者の同意がない限り18歳未満への通知が禁止されます。
また、未成年者へ向けてのアルゴリズムによる自動フィードの送信も禁止です。
若者がSNSを使うこと自体を禁じる法案ではありませんが、制限を設け、運営企業に対して罰金を支払うよう通達することで、若者を保護する狙いがあります。
出典:米NY州、若者向けSNSアルゴリズム制限へ=WSJ | ロイター
その他の州の動向
アメリカの他の州でも、未成年に対してSNSの禁止や制限を設けるため、動き出しているところがあります。未成年へのSNSの影響を懸念する州は多いようです。
ユタ州では、2023年3月に「ユタ州ソーシャルメディア規制法」が制定されています。オハイオ州やアーカンソー州でもSNS年齢制限に向けて動きがありました。
しかし、ユタ州では事業者からの訴訟により修正した法案成立しましたが、オハイオ州とアーカンソー州では法案の制定が取りやめとなりました。
SNSの年齢制限についてはさまざまな考え方があり、実際の施行に進むまでに障壁があるようです。
出典:【アメリカ】[主要立法(翻訳・解説)]アメリカ:ソーシャルメディア等から児童を保護する法律―連邦法COPPA及び新たに制定された州法を中心に―
その他の国のSNS年齢制限の状況
アメリカ以外の国でも、SNSの年齢制限について議論されています。どのような規制が検討されているのか、それぞれ確認しましょう。
オーストラリアは16歳未満のSNS禁止法案が可決
オーストラリアでは、2024年11月に16歳未満のSNS禁止法案が可決されています。施行は翌年の予定です。
オーストラリアの法案では、子どもや保護者に対する罰則はありません。違反したプラットフォームに対して罰金を設けるものです。
現時点では、プラットフォームがどのように年齢確認を行うのか、違反がどのようなケースで認定されるのかなどさまざまな議論がありますが、国民には賛成者も多く、法案の可決は受け入れられています。
出典:「16歳未満のSNS利用禁止」どう受け止め?オーストラリア議会で可決 JR渋谷駅周辺で聞いてみた | NHK
中国では厳しい使用制限が設けられている
中国では、SNSの年齢制限という形ではなく、未成年のスマホ利用そのものが制限されている傾向です。
例えば、未成年者のオンラインゲーム利用時間を制限するルールもあります。子どもと保護者に対するものではなく、運営側の事業者に対し、サービス提供時間を制限するよう通告している形です。
そのほか、未成年者によるライブ配信でのオンラインギフティングも禁止されており、事業者側に禁止措置を求めています。
出典:スマートフォン経由での未成年者のインターネット利用時間を制限へ(中国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
:お知らせ詳細 | マルチメディア振興センター
欧州諸国でも年齢制限が検討されている
欧州諸国でも、SNSに年齢制限を設ける動きがあります。ノルウェーでは、15歳未満のSNS利用制限を検討中です。
イギリスでは、16歳未満のSNS利用禁止を検討しています。フランスでは親権者の同意のない15歳未満のSNSアカウント取得が禁止されており、若い世代に対して制限を設けようとする国は増えている傾向です。
ただし、SNSの利用制限・利用禁止を検討している国では、順調に法案の成立・施行が進んでいるわけではなく、国内でさまざまな議論が交わされています。
ドイツの大学ではXの利用を停止
また、未成年を対象にした年齢制限ではありませんが、2025年1月、60を超えるドイツの大学や研究機関などが、SNSのXについて「公正かつ民主的な議論を促す責任を果たしていない」と批判し、一斉に利用を停止すると発表しました。
これは、Xのオーナーの価値観に一致する情報が優先されるようになり、アメリカの実業界や偏った政治思想の影響を受けていると警戒する動きから起こったものです。
このように、未成年と問題とは別にSNS利用のリテラシーについても、各国・各業界でさまざまな思惑や方針が提起される動きがあります。
出典:【フランス】[立法情報]子供のSNS 利用制限及びネットいじめ対策に関する法律(小特集 デジタルネットワーク社会の問題への対処)
:イギリス政府 16歳未満のSNS利用禁止を検討か
:SNS未成年規制の波 ノルウェー、EUに先行 – 日本経済新聞
:ドイツなど60超の大学・機関がX中止 「価値観相いれず」- 日本経済新聞
日本でのSNS年齢制限の動向
日本でも、SNSの年齢制限や未成年を守るための議論は行われています。日本がどのような取り組みをしているのか、確認しておきましょう。
「青少年インターネット環境整備法」の制定
日本では、「青少年インターネット環境整備法」が制定されています。2009年に施行され、2018年には改正も行われている法案です。
青少年インターネット環境整備法では、スマホの利用者が18歳未満の場合、契約者は利用者が18歳未満であることを申し出る義務を取り決めています。
また、サービスを提供するプロバイダには、「条件によりフィルタリングサービスを提供する義務」も定められています。
そのほか、2024年11月25日には「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」が開催され、今後の青少年のインターネット利用について話し合われているため、今後も法案の内容が改正されていく可能性は高いでしょう。
日本で使われている主要SNSの年齢制限
日本では、Facebook・Instagram・X(旧Twitter)・TikTok・LINEなどのSNSが使われています。利用推奨年齢が12歳以上となっているLINEを除いて、ほとんどのSNSは13歳未満のアカウント取得を認めていません。
世界的に利用されているSNSは、アメリカなどのSNS年齢制限も取り入れており、13歳未満のアカウント取得を禁止しているケースが多いのです。
日本では、罰則などが明確ではないためあまり知られていませんが、SNS運営サイトの基準に従うと、早くても中学生になってからの使用が基本となります。
出典:Xの利用に関する保護者の理解と同意の取得
:【保護者の皆様へ】 青少年保護のためLINEの利用推奨年齢を12歳以上に引き上げます : LINE公式ブログ
Instagramでは10代専用アカウントを導入
Instagramはこれまで通常のアカウントが13歳以上から作成可能でしたが、2024年9月17日より13〜17歳が登録できる「ティーンアカウント」が導入されています。
17歳までは専用のティーンアカウントを使うことで、さまざまな保護を受けられます。もし保護者の同意があれば、保護を緩和することも可能です。
ティーンアカウントの導入によって、SNSの利用が心配な保護者も、保護をかけた状態で利用を許可できます。家庭のルールに応じて、さまざまな使い方ができるでしょう。
出典:ティーンアカウント: ティーンに保護を、保護者に安心を
日本に住む未成年のインターネット利用状況
では、日本に住む未成年のインターネット利用状況はどうなっているのでしょうか? 子どもにスマホやSNSを使わせるかどうか悩んでいる場合は、他の人の動向を参考にしてみてもよいかもしれません。現在の傾向を確認しましょう。
12歳のインターネット利用率は約99%
こども家庭庁による「令和5年度 青少年のインターネット利用環境実態調査調査結果(速報)」によると、12歳のインターネット利用率は約99%です。
低年齢でインターネットを利用する層も増えており、5歳で約79%、8歳では約92%が利用しています。
幼い頃からインターネットに親しむことで、昔と比べて子どもがインターネットに関わるコンテンツを閲覧する機会は増えているようです。
出典:R05_速報_青少年インターネット利用環境実態調査_調査結果【セット版】
本人専用のスマホを持つのは10歳の約65%
こども家庭庁による「令和5年度 青少年のインターネット利用環境実態調査調査結果(速報)」によると、9歳までは、親と共用のスマホを使用しているケースも目立ちます。
しかし、10歳になると本人専用のスマホを持つ割合が増え、自分のスマホを持つ子どもは65%以上です。
また、13歳では約92%の子どもが本人専用のスマホを所有しており、中学生になるとある程度自由にスマホを使えるようになることが分かります。
出典:R05_速報_青少年インターネット利用環境実態調査_調査結果【セット版】
SNSの年齢制限の動きが海外で強まっている
海外では、SNSの年齢制限を厳しくする動きが出てきています。未成年がSNSを使うことで、犯罪に巻き込まれる可能性や悪影響を受けることを懸念して、年齢制限を上げようとする国もあるようです。
日本でも、子どもを保護するためにさまざまな取り組みがされています。多くのSNSは13歳未満のアカウント取得を禁止していますが、家庭でも子どもにSNSの利用を許可する年齢について話し合ってみるのもよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部