「部活動の地域移行」は何がたいへん? 促進の背景は? メリット・デメリットを解説

学校での部活動は、地域移行が進みつつあります。ガイドラインの内容や、なぜ必要なのか背景を理解しておきましょう。保護者と子どもの立場から考えるメリット・デメリットや、今後の課題についても紹介します。

部活動の地域移行とは

主に中高生の課外活動として学校で行われている部活動は、地域移行が進められています。地域移行とはどのような状態を指すのか、具体的なガイドラインや背景を確認しましょう。

国によってガイドラインが策定されている

部活動の地域移行は、スポーツ庁・文化庁によって「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が策定されています。

ガイドラインには、教員の学校部活動に対する指針や、地域クラブ活動との連携が設定され、今後の地域移行に向けての参考となる内容です。

2018年には「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定され、2020年には「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」が策定されるなど、地域移行に関する内容は何度もアップデートされてきました。

2021~2022年には「運動部活動の地域移行に関する検討会議」が行われており、今後の地域移行について話し合われています。

少子化や教員の負担が背景にある

部活動の地域移行が進められている理由として、少子化教員の負担が挙げられます。

例えば、一定の人数を必要とするチーム制のスポーツや文化芸術活動は、少子化によって人数の確保がしにくくなり、部活動としての維持が難しくなっているのです。

また、教員が部活動の顧問として活動することにより、学校の働き方改革が進めにくいという背景もあります。

学校での部活動を縮小し、地域の民間施設などを活用することで、子どもの活動機会や選択肢も広がるでしょう。子どもにも教員の負担軽減にもメリットがある施策として、地域移行が進められているのです。

出典:学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン【概要】|文部科学省
経緯:スポーツ庁

部活動の地域移行によるメリット

部活動を地域移行すると、さまざまなメリットがあります。国はなぜ地域移行を進めようとしているのか、メリットの観点から理由を探っていきましょう。

課外活動の選択肢が広がる

部活動の地域移行を進めることで、子どもは課外活動の選択肢が広がります。特に、少子化によって生徒の数が少ない学校や地域では、人数が足りず部活動の種類も制限されているのです。

しかし、学校では維持できない部活動でも、地域の民間施設であれば人数が増え、習い事としての需要もあります。

地域連携を進めることで、学校では難しかったスポーツや文化芸術活動を選択できるような環境が整うでしょう。子どもがやりたい活動を継続するためにも、地域移行は有効な手段です。

専門家の指導が受けられる可能性も

学校の部活動は、基本的に教員が顧問となって活動します。教員は子どもの教育については専門知識を持っていますが、スポーツや文化芸術活動の専門家とは限りません。

部活動を外部に委託すれば、民間の専門講師が指導を担当するケースもあり、該当の活動を専門とする講師から指導を受けることも増えるでしょう。

スポーツや文化芸術活動に興味を持つ子どもにとって、専門的に学ぶ機会が生まれることは大きなメリットです。特に、本格的に活動したい生徒にとっては魅力的な提案といえるでしょう。

学校の負担が減り時間的余裕が生まれる

地域と連携し、外部の力を借りて部活動を運営していくことで、これまで顧問として活動していた教員の負担が軽減されます。

部活動によって教員が忙しいと、生徒とのコミュニケーションが取りにくくなることも考えられるでしょう。

精力的に部活動をしている生徒は、顧問とのコミュニケーションが取れるかもしれません。しかし、部活動は全員が積極的に取り組んでいるとは限らないため、全体のことを考えれば教員の負担が軽減され、多くの生徒に目を向けられることはメリットといえます。

部活動の地域移行によって起きるデメリット

地域移行はメリットの大きい施策として進められているものの、現実的にはデメリットも発生しています。保護者や子どもにとって、どのような問題があるのか確認しましょう。

費用や手間がかかる

部活動を縮小すると学校で活動しなくなるため、保護者の送迎や移動時間などの手間がかかります。

また、地域の施設で活動するに当たって、費用もかかるでしょう。送迎にかかる交通費や施設利用料、講師に支払うレッスン料など、一連の活動費が保護者の負担になる可能性があります。

必ずしも習い事のように保護者が全て負担するとは限りませんが、部活動より費用負担が増えるケースは多いようです。

学校の敷地を使い、教員が顧問をしているよりも、費用が多くなるのはやむを得ないでしょう。自治体や学校がどの程度負担するかによって、保護者の負担は変わってきます。

選択肢が狭まるケースがある

部活動の地域移行は本来、子どもの選択肢を広げるためです。しかし、地域や学校の状況によっては、選択肢を狭めるリスクもあります。

例えば、子どもが興味を持っている活動を行う施設が家や学校から遠い可能性もあります。地域に連携できる施設が少ないと、デメリットのほうが大きくなるのです。

地域移行を進める上では、地域に連携ができる施設が十分にあるのか、費用負担先をどうするのかなど、問題を解決していく必要があるでしょう。

子どもに対して適切な指導ができるとは限らない

地域の民間施設や外部の講師は、スポーツや文化芸術活動の専門家が中心です。しかし、子どもの指導に適した人材かどうかは分かりません。

専門的な技術・知識を学べたとしても、子どもにとって指導が厳しいケースや、部活動の範囲を超えるような活動である可能性もあります。

そのほか、安全面や見守りについても、学校内での対応とは異なります。責任が誰にあるのか、どのように外部の指導を評価するのかなど、難しい部分も多いといえるでしょう。

部活動の地域移行を進める上での課題

現状、地域移行を進めるにはいくつかの課題があります。なぜ地域移行がスムーズに進まないのか、障壁となっている課題を把握しておきましょう。

地域に連携できる団体・指導者が少ない

子どもを受け入れる人材や施設の確保が十分ではないことが、現状の地域移行における課題です。

地域の施設や団体には限りがあり、さらに部活動の地域移行だけのために存在しているわけではありません。

すでに習い事としての需要があり、学校の生徒を短時間だけ受け入れるのが難しいケースもあります。

外部の指導者を確保しようとしても、子どもへの指導を部活動の時間だけ対応できる人材は不足しています。今後は、どのように人材や施設の確保をしていくかが重要です。

費用の負担先や財源の確保が必要

国では、部活動の地域移行のために予算を確保しています。スポーツ庁では、部活動の地域連携や地域スポーツ・文化クラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備に対して、2023年度は28億円、2024年度は32億円の予算を計上しており、2025年度には69億円の概算要求を行っています。

現状では、運動系の活動で生徒1人あたり月額2,800円程度の費用負担が発生しており、活動内容によって月額1,500円から4,000円の範囲で変動します。ただし、補助金などの支援がない場合、月額4,500円から5,000円の負担になるとの試算もあります。

地域移行後の運営は、指導者への謝礼、施設使用料、保険料など、継続的な予算確保が必要です。また、地域の人材をボランティアで継続的に確保することには限界があり、金額のばらつきによる参加機会の格差も懸念されています。

今後は、経済的に困難な家庭への支援策を含め、持続可能な財源確保の仕組みづくりが求められています。

出典:部活動の地域連携や地域スポーツ・文化クラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備

[まとめ]部活動の地域移行は将来のために必要な施策

少子化や教員の負担を減らすため、学校の部活動は維持が難しくなっています。将来子どもの選択肢を減らさないためにも、地域と連携する地域移行が必要です。

しかし、現状では連携が可能な団体や人材が少なく、財源にも課題があります。メリットとデメリットを把握した上で、どのように地域移行を進めていくべきなのか議論を進めなければなりません。

保護者の立場では負担が大きくなる可能性もあるため、自治体や学校がどのように地域移行を進めていくつもりなのか、動向を確認しておく必要があるでしょう。

こちらの記事もおすすめ

部活動サポートサービス最前線! 業界プロや強豪校指導者と離島をつなぐ「オンライン部活」に潜入してみた
子どもも指導者もいないため部活動が成立しない 「部活動の地域移行」という言葉をご存じですか?  2022年(令和4年)にスポーツ庁で提言さ...

構成・文/HugKum編集部

編集部おすすめ

関連記事