歯科治療で花粉症が緩和される?「花粉症」と「虫歯」の意外な関係。【歯科医師が解説】

春が近づき、鼻づまりやくしゃみなどの花粉症の症状に悩む人も少なくないでしょう。しかし、花粉症は鼻だけでなく、口などにも影響を及ぼすことが明らかにされています。今回は、花粉症と歯や口との関連性について論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

花粉症は子どもでもなるの?

花粉症は鼻腔に花粉が入り込むことで、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどのいろいろな症状が出て、私たちの日常生活に支障をきたします。

子どもに熱はないのにこれらの症状がある場合はもちろんですが、子どもでは症状が明確でないケース(昼間に元気がない、集中力がない、睡眠不足でいつも眠そうにしている、など)も少なくないため、風邪を含めて花粉症の可能性を疑いましょう。

では、子どもはどのくらいの頻度で花粉症になるのでしょうか。

ある統計では、子どものスギ花粉症は年々増加傾向にあり、その有病率は年齢が上がるごとに上昇します(図1)。1019歳の年齢層でスギ花粉症は49.5%の有病率を示しますが、これは大人と変わらない数字です。

図1. 子どもの花粉症有病率

花粉症を防ぐ対策として、マスクやメガネ(ゴーグル)などを装着し、できるだけ花粉を体内に取り込まないように努めることが大切ですが、花粉症を発症した場合は、鼻水などで水分を失いがちなので、小まめに水分を摂るようにしましょう。

このように花粉症は鼻を中心に症状が現れますが、目のかゆみといった眼症状が出るだけでなく、口にもいくつかの影響が出ることが明らかにされています。

 花粉症があると虫歯になりやすい?

花粉症で鼻がつまると呼吸しにくくなるため、呼吸で不可欠な酸素を吸うためには、どうしても口で呼吸せざるを得ません。

しかし、口呼吸は単に口で呼吸するだけではなく、健康面にさまざまな悪影響を及ぼしますので、詳しく見ていきましょう。

外来の感染症のリスクが上がる

私たちは普段「鼻呼吸」をしますが、鼻呼吸では鼻の中の鼻毛などのフィルターでウイルスやホコリといった病原体や不純物を取り除いて酸素を吸い込みます。

しかし、口呼吸ではウイルスやホコリが直接口の中に入るため、風邪などの感染症のリスクが高まります。

口腔乾燥で虫歯や歯周病のリスクが上がる

口呼吸では、口の中の唾液・水分が蒸発しやすくなります。その結果、口腔内が乾燥して唾液の持つ自浄作用や抗菌作用、歯の石灰化作用、中和作用、免疫作用など、歯の健康を担う重要な役割が弱まるため、虫歯だけでなく歯周病のリスクも上がります。(関連記事はこちら≪

飲食物が飲み込みにくくなり、誤嚥性肺炎になりやすくなる

口腔乾燥は正常な食塊形成(食べ物と唾液がうまく混ざり合って軟らかくなること)を妨げ、飲食物を正常に飲み込むことが困難になる場合があります。その結果、口腔や咽頭内の細菌が気管に入り込んで誤嚥性肺炎になりやすくなります。

歯科治療が困難になる

虫歯治療では、歯を削るために大量の水を流して吸引しながら行うため、口を開けて鼻で呼吸しなければなりません。しかし、花粉症で鼻がつまると、呼吸が難しくなります。

また、くしゃみや咳が出やすくなるため、口を開けていても反射的に閉じてしまうことがあります。あまりひどい場合には治療を中断せざるを得ないため、虫歯が悪化したり症状が長引いたりする可能性があります。

 鼻炎が歯痛の原因になることも

花粉の飛散が多い春頃は、奥歯の痛みを訴える患者が増えることがあります。

特に花粉症で鼻づまりの病態が進行し、副鼻腔炎(蓄膿症)に至ると歯痛も起きやすくなることが分かっています。

副鼻腔炎に起因する歯痛の特徴として、上顎の奥歯が痛い、複数の歯が痛い、何もしなくても痛い、下を向くと痛い、神経がある歯が痛い、などがありますが、これは鼻と上顎歯の歯根が解剖学的に近接することが大きな要因です(図2)。

図2. 副鼻腔(上顎洞)

ですから、歯痛とは言っても原因は鼻領域の炎症であるため、耳鼻咽喉科で抗菌薬の処方などを受けてください。

また逆に、歯の炎症が鼻に広がって上顎洞(副鼻腔の一つ)に炎症が波及することがあるため(歯性上顎洞炎)、鼻と歯の密接な関係を理解しておきましょう。(関連記事はこちら≪

 花粉症を口の中から治す舌下免疫療法

花粉症の治療は、症状に応じて抗ヒスタミン薬という飲み薬やステロイド点鼻薬等で治療しますが、舌下免疫療法はアレルギー免疫療法の一つで、アレルゲン(アレルギーの原因物質)を徐々に濃度を上げながら与えて抵抗力をつけ、体質を変える方法です。

現在、スギ花粉症またはダニアレルギー性鼻炎の確定診断が出れば使用でき、5歳の子どもから適用可能で多くの利点があります。

・アレルギー体質を根本から改善できる
・皮下注射と違って、痛みがない
・治療のたびに通院する必要がない
・保険診療で「子ども医療費助成」の対象

一方、25年という長期間の服用が必要なことやじんましん等の薬剤による副作用の可能性があるほか、歯科治療に関連した注意事項もありますので解説します。

 舌下免疫療法における歯科治療の注意点

この治療法は、アレルゲンをごく微量含む内服薬を舌の下に置いて溶かし、服用します。

溶けやすいタブレットタイプですので、子どもでも負担なく使用でき、服用は11回で済みます。

しかし、舌下投与のために口の中に創部(傷)があると、通常の粘膜からの吸収に比べて多くの量が一度に体内に吸収され、強いアレルギー反応が生じる可能性があります。

ですから、歯科外科手術の延期が可能ならば延期し、手術を優先する場合は舌下療法を中断するという考え方があります。

2023年に日本小児歯科学会が公開した文書では、「舌下免疫療法中の子どもに抜歯などの歯科治療を行う場合、必ずしも休薬を行う必要はないが、抜歯後または口腔内に傷や炎症がある場合は、舌下療法薬の服用について保護者はかかりつけ医と相談するのが望ましい」といった内容の提言をしています。

また、この治療法の普及が比較的最近であることから、歯科大学教育でも十分に取り上げていない、歯科医師全体としても認知度が低いことも報告されています。安全で効果的な治療のために、その点は参考にしてください。

 歯科用マウスピースで花粉症が改善

2020年の神奈川歯科大学の研究グループの報告では、季節性アレルギー性鼻炎(SAR)患者24名を対象に、歯科用マウスピースの有効性を調べるため安静時の唾液量を測ったところ、0.46g/minで健常者群0.69g/minと比べて統計学的に有意に少なくなりました。

ところが、マウスピース装着後は唾液分泌量が装着前と比べて有意に増加して健常者群と同じレベルに回復しただけでなく(図3)、アレルギー性鼻炎症状(3TNSS)のスコアが有意に減少して症状が改善しました。

図3. マウスピース装着による唾液分泌量の変化

鼻炎症状の改善について研究グループは、マウスピースで下顎歯に加わった圧刺激が自律神経を介して唾液腺の顎下腺などに影響を与え、異物排除に働く分泌型IgAが増加してアレルゲンである花粉が除去されたためと推察しました。

歯科的な対応でも、花粉症の症状を和らげることが可能であると言えるでしょう。

 *   *   *

以上より、花粉症は歯科と少なからず関連するため、気になることがあれば迷わず、耳鼻咽喉科や内科、歯科を受診してくださいね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2020年版(改訂第9版).2020.
・日本小児歯科学会:舌下免疫療法中の小児歯科治療について.2023年5月18日.
・原賀裕ほか:マウスガードによる季節性アレルギー性鼻炎症状改善に関する研究.日歯保存誌63(4):280-286,2020.

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