「インナーチャイルド」とは? 向き合い方の注意点。日常的に引き起こされる問題や回復方法も

カウンセリングやセラピー系のサイトで「インナーチャイルド」という言葉がよく使われるようになりました。インナーチャイルドがどういう考え方なのか、インナーチャイルドを活用したワークの方法や、メリット、注意点を説明します。

インナーチャイルドって何?

インナーチャイルドをストレートに訳すと「内なる子ども」という意味です。自分の中にいる子どもとはどういう意味でしょうか。インナーチャイルドの意味や、言葉の生まれた経緯を紹介します。

生まれたときから備わる感情や本能

インナーチャイルドは1980年ごろに、アメリカから日本に伝わった言葉です。分かりやすくいうと、生まれたときから自然に備わっている本能的な感情や欲求を「インナーチャイルド」と呼びます。

例えば、赤ちゃんは誰に教わらなくても、お腹が空いたり不快なことがあったりすれば泣きます。「愛されたい」「気持ちの良いことが好き」という欲求を隠しません。

その自然な感覚や感情を擬人化して、自分の中の子どもに見立てたものがインナーチャイルドです。これに対して、後天的に身に付けた理性や知識、それを基にした判断は「インナーアダルト」と呼びます。

生きづらさの原因は傷ついたインナーチャイルドかも

特に暴力や虐待がない健全な家庭でも、親子関係は複雑なものです。親も人間なので、余裕がなかったり機嫌が悪かったりするときもあるでしょう。

ほとんどの人は、子ども時代に「親に受け入れてもらえなかった」「親に傷つけられた」という記憶を持っています。

それを表現できずに抑え込んだままにしておくと、しばしばネガティブな感情として保存され、大人になってからも無意識のこだわりとなって生きづらさを生み出します。

この抑圧されてしまったインナーチャイルド(本能的な感情や欲求)を「傷ついたインナーチャイルド」と呼び、これをケアすることで生きづらさを解消しようというのがインナーチャイルドのアプローチです。

一方、傷ついたインナーチャイルドと健康なインナーチャイルドをそれぞれ「インナーチャイルド」「ワンダーチャイルド」と呼び分けることもあります。

インナーチャイルドが使われるようになった経緯

初めに「インナーチャイルド」を提唱したのは、スイスの心理学者のカール・グスタフ・ユングです。

ユングは人生の壁にぶつかって悩んでいたとき、自分の中の「子どものような気持ち」を解放し、それと対話することで前に進むエネルギーが生まれてきたといいます。

その後、インナーチャイルドという考え方は、アメリカのセラピストであるジョン・ブラッドショーの著書『インナーチャイルドー本当のあなたを取り戻す方法』で有名になりました。

また、傷ついたインナーチャイルドを癒やすアプローチは、困難な家庭環境に育った「アダルトチルドレン」の回復方法として注目されます。今では、生きづらさを解消する方法の一つとして多くの人に利用されています。

アダルトチルドレンとは?

アダルトチルドレンは、1970年代にアメリカで生まれた言葉で、「アルコール依存症の親に育てられた子ども(Adult Children of Alcoholics)」という意味で使われ始めました。

現在は、アルコール以外の依存症や極端にしつけの厳しい親といった、子どもらしく生きられない「機能不全家族」に育った人もアダルトチルドレンに含むのが一般的です(Adult Children of Dysfunctional Family)。

傷ついたインナーチャイルドの影響は、程度の違いはあるものの誰でも抱えている問題です。しかし、アダルトチルドレンは、その問題が特に深刻な人たちといえます。

傷ついたインナーチャイルドが引き起こす問題

傷ついたインナーチャイルドがなぜそこまで問題になるのか、疑問を持つ人もいるかもしれません。傷ついたインナーチャイルドが引き起こす生きづらさの具体例や、子育てへの影響を見ていきます。

自己評価や人間関係に問題が起こりやすい

傷ついたインナーチャイルドは、幼少期に味わったつらさや思い込みを、そのまま目の前の出来事に当てはめて反応する性質があります。

そのため、傷ついたインナーチャイルドを抱える人は、感情表現や親しい人間関係、自己評価などに問題を抱えやすいのが特徴です。具体的には、次のような例が挙げられます。

・家族同士の何げない会話が引き金になって突然激しく怒り出す
・上司からのちょっとした指摘にも自己否定されたように感じて激しく落ち込む
・傷つくのを恐れて親密な人間関係を築けない
・他の人に否定されたくなくて、なかなか自己主張ができない
・あまりに完璧主義的で自分の小さなミスも許せない
・自分に自信がなく、新しい挑戦に消極的になる

もし、心当たりが多ければ、傷ついたインナーチャイルドが問題を引き起こしているのかもしれません。

子育てで起こる負の連鎖

傷ついたインナーチャイルドは、親になった人の子育て問題や子どもとの関係性にもネガティブな影響を与えます。

例えば、自分ではもう「許した」「忘れた」と思っていても、過去に親に傷つけられた体験を、自分の子どもとの間で再現してしまいます。

子どもの自分が親にされて傷ついた言葉や行動を、自分の子どもに向かって繰り返してしまう、自分の価値観や期待を押し付けて子どもの意見を聞かない、といった具合です。

まるで傷ついたインナーチャイルドが、自分の苦しみを訴えるかのような現象です。この連鎖を断ち切るためには、親が自分の傷ついたインナーチャイルドを受け入れ、苦しみを癒やすことが効果的だといわれています。

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インナーチャイルドを癒やすメリット

傷ついたインナーチャイルドが回復すると、本来あったのびやかな感情が戻ってきます。自己肯定感が高まる、人間関係が良好になるなど、傷ついたインナーチャイルドを癒やすメリットを説明します。

ありのままの自分を認められるようになる

インナーチャイルドが傷ついたままの人は、大人になっても「本当の自分を見せたら嫌われるかもしれない」「きちんとした人間にならなければいけない」といった形で、自分の自然な感情や欲求を否定しがちです。

インナーチャイルドを癒やすと、今まで自分を否定してきた思い込みを捨て、ありのままの自分を肯定できるようになります。

自然な感情や欲求を素直に出せるようになり、子どものような好奇心が強まることで、仕事やプライベートに対する意欲が高まるかもしれません。自分のやりたいことがはっきりして、充実した時間を過ごせるでしょう。

健全な人間関係を築けるようになる

インナーチャイルドが回復して自己肯定感が上がると、周囲との人間関係にもプラスの影響を与えます。自分の感情や欲求を素直に表現できるようになるので、相手の感情や欲求も尊重できるようになるためです。

また、傷ついたインナーチャイルドによって引き起こされた感情の不安定さや、相手に依存し過ぎてしまう問題も改善する可能性があります。

夫婦や親子関係をはじめ、プライベートや職場の人間関係が良好になれば人生の充実度もアップするでしょう。

インナーチャイルドワークの方法

インナーチャイルドワークは、傷ついたインナーチャイルドを癒やすための取り組みです。自分が子どものときに抑圧してしまった本能的な感情や欲求を受け入れ、生きづらさを解消するためのアプローチを紹介します。

自分の陥りやすいパターンに気付く

インナーチャイルドワークでは、幼少期の経験や家庭環境が、現在の自分の基本的な考え方や行動パターンを生んでいると見なします。

初めの一歩は、そのパターンの中には事実と違っていたり、ネガティブで自分を苦しめたりするものもあると気付くことです。

例えば、「ありのままの自分は悪い人間だから、常に正しく振る舞わなければいけない」と思っている人がいるかもしれません。

自分の陥りやすい思考・行動パターンは無意識のことも多いので、ノートに自分の本当に好きなものや、やりたいと思うことを書き出してみます。

書き出した内容が友人のことだと仮定した場合、それほど「悪い」ことに思えるでしょうか。自分の実際の言動と思考パターンの間にずれを感じたら、どうしてそう思うようになったのか振り返ることが手掛かりです。

自分の内なる子どもと向き合う

傷ついたインナーチャイルドと出会うには、まずインナーチャイルドが自由に感情を表現しても受け入れられるような、リラックスできる場所で行う必要があります。

一般的に、傷ついたインナーチャイルド、つまり幼少期の自分が何を考え感じていたかは覚えていないケースがほとんどです。

自分が幼少期に感じていたことを思い出すには、きっかけとして子どもの頃の写真を見たり家族に当時の話を聞いたりする方法があります。思い出したことは後で見返せるようにメモしておきましょう。

否定してきた過去の感情を受け入れる

子ども時代の出来事や感情がよみがえると、当時の怒りや悲しみがあふれでてくるかもしれません。そこで無理に我慢せず、感情を吐き出してしまいましょう。

特に、親の立場をくんで自分の感情を抑え込んできた人は、いったんそういう事情は脇において、自分がどう感じていたかに注目することが大事です。

感情の吐き出し方には、ノートに思ったことを書く、信頼できる相手や人形に話す、自分と似た状況の映画やドラマを鑑賞するといった方法もあります。

当時は出せなかった感情を表現することは、過去の出来事に一区切りつけるための通過点です。親を責めるのが目的ではなく、過去の傷を癒して自分らしい生き方を学ぶためのワークです。

インナーチャイルドと良い関係を結ぶ

自分の自然な感情や本能を擬人化したインナーチャイルドに対して、後天的に身に付けた理性や知識、判断などを「インナーアダルト」と呼びます。

インナーチャイルドワークが目指すのは、インナーアダルトが傷ついたインナーチャイルドをケアし、いわば親のように愛情や安心感を与える関係になることです。ケア方法の代表例として、マインドフルネスやヨガ、絵を描くといったアートセラピーが挙げられます。

傷ついたインナーチャイルドを大切にする方法を学び、日常的なセルフケアを実践することによって、自己肯定感が上がり人間関係にも良い影響を与えるでしょう。

インナーチャイルドと向き合うときの注意点

一見すると良いことずくめに思えるインナーチャイルドワークですが、実は注意しなければならないことがあります。長年傷ついてきたインナーチャイルドを癒やすのは簡単ではありません。焦らず自分のペースで取り組みましょう。

自分の心理的安全を優先する

インナーチャイルドワークを行うには、自分の激しい感情を受け止められる心の落ち着きを持っていることが大前提です。自分がリラックスできる場所と、信頼できる相手を選ぶことも大切です。

ワークの途中では、今まで抑えてきたネガティブな感情がよみがえり、しばらく落ち込む可能性があります。あるいは、自分の心を守るためにあえて忘れてしまった記憶があるかもしれません。

感情や記憶を思い出すのは自然に出てくる範囲で十分です。万が一、気分が悪くなったり「これ以上できない」と思ったりした場合はワークを中止します。

特に、トラウマ症状やPTSD症状のある人が行うと、症状が悪化する危険性があるので無理は禁物です。自分の心理的安全を優先しましょう。

1人で無理そうなら専門家を頼る

インナーチャイルドワークは、今まで見ないようにしてきたつらい気持ちと向き合うことでもあります。時には、怒りや悲しみがあふれだして止まらなくなることもあるでしょう。

一人で静かに向き合うこともできますが、つらい気持ちを抱え込むのに限界を感じたら、臨床心理士や公認心理師などの専門家に相談するのも一つの方法です。

一定の費用はかかりますが、プロとしてインナーチャイルドワークの適切なアドバイスやアフターケアといったサポートを期待できます。

インナーチャイルドと仲良くしよう

私たちはしばしば、子どもの頃に身に付けた間違った思い込みによって、生きづらさを生み出します。

インナーチャイルドは、間違った思考パターンに抑えつけられてしまった自分の中の「自然な感情や本能的な欲求」を、傷ついた子どもに見立てたものです。

そしてインナーチャイルドワークは、自分でも意識しない幼少期の影響を見直し、自分を縛るネガティブな考えや抑圧された感情を修正・回復するためのアプローチです。

傷ついたインナーチャイルドを受け入れケアすれば、自分らしい感情や欲求を取り戻し、生き生きとした人生を実現できるでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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