対談に参加したのは・・・
本多さん(50代):エンターテインメント業界勤務。2000年代後半、第一子誕生時に1年間の育休を取得。パートナーは育休取得時は会社員で、その後退職し専業主婦になった。
澤田さん(29歳):医療関係の企業に勤務。2023年に第一子が誕生し、1年間の育休を取得。パートナーも同じ医療関係の専門職で、夫婦で同時期・同期間で育休を取得。
坂本さん(38歳):インフラ企業勤務。2020年に第一子、2023年に第二子が誕生。今まで育休取得はしたことがなかったが、2025年春に取得予定。パートナーは自営業。
※名前は仮名です
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いざ復帰したら「出世はもうないかもよ」と気になる声も・・・
――育休が明けてからの職場復帰はいかがでしたでしょうか?
本多さん:正直な話、育休復帰してからの約半年くらいは、社内でもあんまり仕事がなかったんです…。「企画でも考えといて」みたいな。私の前に育休を取った社員が、復帰後すぐハードな部署へ異動になっていたので、自分も同じような部署に異動するのかなと思っていましたが、まったく違いました。
半年程そんな感じで過ごし、復帰から半年後にちょうど定期異動の時期が来て、今の部署になりました。
周りの同僚からは、飲みに行くと「出世はもうないかもよ」とか、言われるわけです。20年ほど前の当時は、男性育休も一般的ではありませんでした。だから仕事か家庭かを選べという感じだったので、そこは家庭を選んだということで納得していました。
今思うと、長い人生の中でたったの1年間ではありましたが、子どもや家族としっかり向き合えた貴重な時間だったので、育休をとってよかったと思っています。娘のおむつを替えたのは自分だって言い張れますし。
澤田さん:私は最近職場復帰したのですが、職場の雰囲気は育休前と何も変わらず、部署も仕事内容も変わらなかったので、初日から仕事のやり方を思い出して「あぁ、こんな感じだったか」という感じでした。
その点、本多さんが取得された頃のような、「仕事か家庭か」みたいなのもなく、復帰してからキャリアに不安を感じることはなかったです。
でも実際にはいいこともあった!
――育休が与えたキャリアへの影響はありますか?
本多さん:先ほどは、復帰後のキャリアが停滞する話になっていたと思うのですが、もちろんキャリアの面でもよいことがありました。
私の働いている業界は、深夜まで働いて次の日の午後から出社するみたいな時間感覚だったのです。ですが育休を経験して子育ての大変さを実感したので、妻のサポートをしないといけないと思い、朝出社してから8時間きっちり仕事して家に帰るスタイルが定着しました。
実は、育休から復帰してからの数年間の方が、一番いい実績を出せています。帰宅時間を決めることで、それまでに仕事を仕上げられるよう、効率的に働くようになりました。
澤田さん:育休を取ることでのキャリアに不安はありませんでした。
会社で初めて男性育休を取った社員の方がいるのですが、その方も順当に出世されていたし、その他の先に取った男性社員を見ても、育休がキャリアアップの足かせになっているようではないので、その点は安心でした。
坂本さん:私の会社では、男性育休取得率アップを目標に掲げていたりするので、確かに育休をとる男性社員は多いです。でも、1か月程度がほとんどです。
理由は、育休を取ろうとする世代の社員は、ちょうど職位が上がるか否かのテーブルにいる社員が多いので、やはり、長期で取ることで出世に影響するかもしれないと迷う、というのはあると思います。取得人数自体は多いと思いますが、澤田さんの会社のように、長期で育休を取りやすい社内風土ではないように思います。
職場も時代もどんどん変化している
――育休によるキャリアへの影響もお伺いしましたが、育休取得後の職場の意識に変化はありましたでしょうか?
本多さん:やっぱり、私に育休について聞きたいという社員からの相談は増えました。まさにOB訪問みたいな感じです。いきなり上司や人事部には相談しづらいと思うので、結構相談は来ますし、取得する方も増えたと思います。
あと最近では、採用時の面接官もすることもあるのですが、取得について聞かれることも増えました。社内もそうですし、世の中が変わってきたのも感じました。
育休取得は勇気ひとつ!我が子の成長は宝物のような時間
――最後に、これから育休を検討している人へのメッセージや、今後世の中がどうなってほしいかなど、教えてください。
本多さん:男性で育児休業を検討されてる方は、もう検討している時点で非常に興味を持っていらっしゃるので、私としては、その方向で動かれたらいいんじゃないかと思います。
育休を通じて、自分が一番何を大切にしているのか、自分の時間の使い方などもわかるようになって、キャリアにもいい影響がありました。勇気を出してよかったです。でも、男性が育休を取ることにすごく勇気が必要だということも理解しています。
私、昔「育児」と文字を打ったとき、偶然誤変換で「意気地なし」と出てきたことがあって、すごく言葉が頭に残っていました。まさに「育児なし」は「意気地なし」だと、妙に納得しました。
私の中の結論として、育児休業を取るか取らないかは勇気ひとつだと思ってるので、興味のある方はぜひ取得されたらいいのではと思います。
澤田さん:男性で育休を取るとなると、今後のキャリアやお金の面でも不安なことは多いと思いますが、私は自身の経験から本当に取得して良かったと思っています。
育休中の1年間は、本当に1日1日が一生の宝物になりました。首が座った、離乳食を食べたなど、子どもの変化を間近で見ることができました。
2人目を授かってもきっと育休を取得すると思います。子どもにもエネルギーをもらえて、自分とも向き合えて、貴重な時間だったので、興味があるなら、ぜひ取ることをおすすめします。
坂本さん:うちの妻は自営業なので産休育休がありません。
私は会社員なので、育休取得が短い期間だったとしても制度として整っているし、良くも悪くも組織の中には自分の代わりはいくらでもいます。逆に妻の場合は、自分の代わりがいないので、妊娠・出産によって自分が動けなくなると売り上げがストップしたり、子どもの急な体調不良が発生しても、自分の代わりがいないので休みづらいです。
それでも、妻が会社員だった頃と比較すると、生き生きと働いているし、波があるとはいえ、会社員の固定給ではないお金の稼ぎ方をしています。
だったら家庭として、制度の整っている会社員と、制度はないけど自由度の高い自営業で、バランスがとれていけたら家族としての幸福度は高いと思います。今後は、男性育休ももちろん増えたらいいと思いますが、女性でも会社員以外の働き方をしている人にも、制度の設計や取得が浸透するといいなと思います。
考え方はみんなそれぞれ!取得検討中の方は夫婦で話し合ってみて
男性育休に関して、三者三様の状況やエピソードを聞くことができました。
実は、取材する前には、男性育休でキャリアが停滞した、とか、育休中妻との喧嘩が増えたなど、ネガティブな話も出てくるのかなと思っていましたが、全くそんなことはなく、みなさん、取得して良かったんだなということが伝わってきました。
しかし、いざ男性育休を取るとなると、今後のキャリアやお金の不安が付きまとっていくのも事実だと思います。
そういうときこそ、男性育休経験者にリアルな話を聞いたり、夫婦で話し合いの場を設け、育休を取った場合の今後のキャリアとお金がどうなっていくかの計画を練るのはいかがでしょうか。
前編では3人のパパが育休を取得すると決めた時のお話を伺いました


株式会社LASSIC代表取締役CEO。主に法人向けにマーケティングPR支援事業と個人向けにキャリアデザイン事業を展開し、自身も国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。大手広告代理店勤務を経て、33歳で起業。自身が不妊治療と仕事の両立で悩んだ経験や“キャリア迷子”を経て独立した経験から、ワーママや女性のキャリア支援に尽力。会社設立から3か月後、第一子出産。現在は3歳&0歳の娘の子育てと起業に奮闘中。
取材・文/相坂サオリ