そもそも「多様性」ってなに?
多様性という言葉に対する理解を深めるには、まず「多様性とは何を表すのか」をしっかり確認しておく必要があります。多様性の意味や種類を解説します。多様性について考える土台を組み立てましょう。
多様性とはそれぞれの違いを認め合うこと
辞書的には、多様性とは「さまざまな種類があること」「変化がたくさんある様子」を表す言葉です。
現代的な使い方であれば、多様性は、さまざまな特徴を持つ人々を受け入れ、それぞれの違いを認めて尊重し、一人一人の能力や特性を生かしていくことを指します。。現代の使い方で用いられる多様性は、英語では「ダイバーシティ(Diversity)」と訳されます。
多様性を重視する社会の代表例としては、外国人の移住者が生活しやすい社会を実現する取り組みが挙げられるでしょう。外国語の標識を設置したり、外国人向けの防災情報を提供したりすることが、多様性を形にする試みの一例です。
多様性は2種類に分けられる
多様性は「表層的な多様性」と「深層的な多様性」に分けられます。
表層的な多様性とは「外から見て分かる特徴」のことです。具体例としては、性別・人種・年齢・障がいの有無・体格などが挙げられます。「女性管理職の割合を30%以上にする」「障がい者を積極的に雇用する」などが表層的な多様性に配慮した取り組みといえます。
深層的な多様性とは「外から見るだけでは分からない特徴」のことです。具体例には、考え方・価値観・経験・宗教・習慣・性自認などが該当します。「今まで雇用してこなかった職歴を持つ人を採用する」「海外で教育を受けた人を採用する」などが深層的な多様性を意識した取り組みです。
ダイバーシティとインクルージョン
多様性(ダイバーシティ)を考える上で見逃せない要素として「インクルージョン」が挙げられます。インクルージョンとは、日本語で訳せば「受け入れること」「一つにまとめること」を意味する言葉です。現代的な使い方では、集団を形作っている一人一人が仲間外れにされることなく、自分が持っている能力を発揮できる状態を指します。
ダイバーシティとインクルージョンの違いは、ダイバーシティは異なる特性を持つ人々が集まっている状態を指し、インクルージョンは各々の個性を生かし合える状態を指します。いうなれば、インクルージョンの前提がダイバーシティといえるでしょう。
ダイバーシティとインクルージョンは時として組み合わされ、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」として語られるシーンもあります。
多様性が注目されている理由

ダイバーシティ(多様性)という言葉は、日本では1980年代から1990年代にかけて広まり始めました。この言葉が盛んに叫ばれるようになった裏には、日本社会の変化が隠されています。多様性が注目されるようになった理由を解説します。
人々が抱く価値観が変化したから
多様性が注目を集めるようになった背景として挙げられるのが、人々が持っている価値観の変化です。
例えば、一昔前の価値観では「最初に入った企業で定年まで勤め上げる」「会社のためにプライベートを犠牲にするのが正義」という考え方が根強く広まっていました。たとえこれらと反対の考え方を持っていたとしても、「社会に適応できない人」として無視されてきたといえるでしょう。
しかし昨今では時代が変わり、「自分のキャリアアップのために転職するのは当たり前」「ワークライフバランス(仕事と生活を両立させること)を大切にすることも選択肢の一つ」という考え方を持つ人が多くなってきました。だからといって、従来通りの仕事感を持つ人がないがしろにされるわけでもありません。
このような価値観の変化を受け、企業では多様な働き方を認めるようになったのです。他の分野でも価値観の変化が多様性の実現に貢献しています。
社会のグローバル化が進んだから
多様性が注目されるきっかけの一つとして、社会全体がグローバル化(世界が一つになること)に向けて前進したことが挙げられます。世界が小さくなったことにより、異なる文化や価値観を持つ人を受け入れなくてはならない環境が生まれたのです。
社会のグローバル化の代表例としては、外国人の移住者の増加が挙げられます。異なる文化的な背景を持つ人と共に生活していくためには、それぞれの違いを受け入れる多様性の考え方が欠かせません。
また、企業の海外進出も社会のグローバル化の一例です。異国でビジネスを成功させるには、その国に住む人が持つ文化や価値観を理解し、受け入れる考え方が重視されます。
働く人の人口が減っているから
働き手として社会を支える人が減っていることも、多様性が注目されるようになった理由の一つです。
子どもの数が減り、人口に対する高齢者の割合が高まっている日本では、国民全体に占める労働人口の割合が減少しています。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2024年に公表した資料によると、働ける人の数は2020年には約6,902万人であったにもかかわらず、2040年には約6,791万人まで減るとしています。
働く人の人口が減り続ける日本では、女性・シニア・外国人など多様な人材を採用しなければ社会が成り立たちません。さまざまな特徴を持つ人が働きやすい職場を作るには、多様性を受け入れる社会の実現が不可欠です。
出典:2023年度版 労働力需給の推計(速報) |独立行政法人 労働政策研究・研修機構
多様性を妨げる要素

最近の日本社会には「多様性を重視しよう」という流れがあるものの、現実ではさまざまなシーンで多様性が軽んじられています。その裏には、日本社会が抱える課題が隠されているといえるでしょう。多様性の発展を邪魔する要素を解説します。
無意識の偏見
これまで自分が経験したことや、親や先生から教えられたことを基準にして生まれる「無意識の偏見」が、多様性の発展を邪魔しています。無意識の偏見の一例は下記の通りです。
・女性は計算が苦手
・男性は人前では泣いてはいけない
・若者は根性がない
・高齢者はパソコンを使えない
例えば「女性は管理職に向いていない」という無意識の偏見が、経営層の間に浸透していれば、たとえ能力がある女性がいたとしても、「彼女を管理職にしよう」という意見は出にくくなるでしょう。
無意識の偏見は、「自分は差別的ではない」と考えている人の頭の中にも存在します。無意識の偏見をなくすには、「自分は偏った考え方をしていないだろうか」と疑う姿勢が重要です。
知識の不足
「さまざまな個性を持つ人が同じ世界で生きている」という事実を知識として知っていなければ、多様性に配慮した行動を取るのは難しくなります。知識の不足が、多様な特徴を持つ人々の生きづらさを生み出してしまうのです。
例えば、生まれ持った性と異なる性を自覚している人がいる事実を知っていないと、「会社にオールジェンダートイレ(男女共用お手洗い)を作ろう」「男女に関係なくズボンの制服とスカートの制服を選べるようにしよう」といった発想は生まれません。
知識の不足を補うには、いろいろな人の声に耳を傾けることが大切です。自分の世界を守るために耳を閉ざせば、多様な特徴を持つ人たちの存在に気づくことは難しくなるでしょう。
同調圧力
日本社会において度々発生する「同調圧力」が、多様性の発展を邪魔している側面もあります。同調圧力とは、集団で意見をまとめたり行動を選択したりするときに、多数派が少数派に対して自分たちの意見に従うよう、無言で強制する力のことです。
集団の中で同調圧力が発生すると、少数派の人は自分の意見を発表するのが難しくなります。本来は尊重されるべき個人の意見が無視されてしまうのです。個人を軽んじる社会では、多様性の実現は夢のまた夢といえるでしょう。
同調圧力を生まないためには、個人の意見を認め合う雰囲気づくりが不可欠です。他者の意見を大切にする意識を個人個人が持っていれば、同調圧力が発生する雰囲気が生まれにくくなります。
多様性の「今」

多様性は日本だけでなく、世界各国で推し進められている考え方です。多様性に関する日本とアメリカの今を解説します。現状を知って、多様性に関する認識をアップデートさせましょう。
日本の現状
日本はもともと多様性を認めない社会といわれています。「みんなが同じであること」「みんなが同じ方向を向いていること」を重んじる文化が根強いため、少数派が無視されやすい社会といえるのです。そのため日本は、多様性の分野では世界から遅れを取っているといわれています。
日本の多様性の現状を分かりやすく表しているのが「ジェンダーギャップ指数」です。ジェンダーギャップ指数とは、世界経済フォーラムという国際的な団体が毎年発表している、国ごとの男女格差を数値化したものです。数値が小さいほど男女の格差が深刻であることを表します。
2024年における日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中118位(スコアは0.663)です。この順位はG7(主要7カ国)の中で最低を記録しています。それほど日本は女性に厳しい社会といえるのです。
出典:世界経済フォーラム発表「ジェンダー・ギャップ指数2024」|鳥取市
アメリカの現状
ダイバーシティの考え方が生まれたアメリカは、多様性の先進国といわれています。国ができた頃から多種多様な人種を受け入れてきたアメリカは、人種や性別などに関係なく活躍できる社会を目指してきました。
アメリカの多様性を象徴する取り組みが「DEI」です。DEIとは、誰もが大切にされる社会を実現する取り組みを指します。
しかし、アメリカにおける多様性は、第2次トランプ政権の誕生により風向きが変わってしまいました。トランプ大統領により「多様性を切り捨てる演説」と解釈される演説を行ったことで、多様性に関する目標を撤回したり、DEI対策を縮小したりする企業が出始めました。アメリカの多様性は、今大きな転換点を迎えているといえるでしょう。
多様性は現代に欠かせない要素の一つ
アメリカ企業の動向は、現代を象徴する動きともいえます。多様性を積極的に推し進めてきた流れに対する「揺り戻し(ある方向に大きく前進していたものが元の方向に戻ること)」といえるでしょう。
しかし、すでに多様性を受け入れる方向で動き出した社会の流れは、そう簡単に止められるものではありません。アメリカで起こっている「多様性縮小の流れ」は一時的であり、多様性は今後ますます重要視されると考えられています。多様性は、現代社会になくてはならない要素の一つであることに間違いはありません。
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構成・文/HugKum編集部