「出自を知る権利」とは何か?
非配偶者間の生殖補助医療によって生まれた子どもが「自分はどのように生まれたのか」「自分の遺伝的なルーツはどこにあるのか」などを知る権利が「出自を知る権利」です。
出自を知る権利が、どのような流れで認められてきたのかを紹介します。
「出自を知る権利」は子どもの権利条約に記されている
出自を知る権利は1989年に採択された「子どもの権利条約」に記載されています。第7条の「名前・国籍を持つ権利」です。これによると、子どもはできる限り親を知る権利を持っているとされています。
精子提供や卵子提供などの生殖補助医療を用いて生まれた子どもの中には、自身の出自に関する事実を知らされないまま成長した人もいます。そのような当事者から「子どもはドナーが誰か知るべき」という声が上がったことで、出自を知る権利が認められ始めました。
日本でも1994年に「子どもの権利条約」を批准しています。
ヨーロッパで法整備が進んでいる
家族や親子の形が、養子縁組や親の再婚などを理由に多様化したことから、出自を知る権利は子どもにとって重要な権利と考えられるようになってきました。特に法整備が進んでいるのはヨーロッパの国々です。
例えばイギリスでは、1990~2000年代にかけて、非配偶者間の生殖補助医療によって生まれた子どもの持つ、出自を知る権利に関する法律が段階的に整備されました。
国内の法律の整備状況
国内には出自を知る権利に関する法律が、2025年4月時点では定められていません。生殖補助医療部会が「出自を知る権利を保障すべき」との提言を含む最終報告を20年以上前にとりまとめてから、議論は進んでいませんでした。
しかし現在に至る間に、民間の精子・卵子バンクの利用が広がってきています。医療機関が独自に生殖補助医療を提供しているケースも見られる状況です。
このような中、2025年2月に出自を知る権利を盛り込んだ「特定生殖補助医療に関する法律案」が国会へ提出されたことで、法整備が具体的なものとなってきました。
提出された法案の課題
出自を知る権利を盛り込んだ「特定生殖補助医療に関する法律案」は課題も指摘されています。具体的に指摘されているポイントをチェックしましょう。
開示できる情報が限られている
法案によると、子どもが請求すると必ず開示されるのは、精子や卵子の提供者の個人を特定できない情報のみです。
氏名を含む個人を特定できる情報を子どもが知るには、子どもが開示請求を行うことに加えて、提供者の同意がなければいけません。これでは子どもが「自分の遺伝的なルーツを知りたい」と考えても、十分な情報を得られない可能性があります。
成人しないと開示できない
出自を知る権利を行使できるのは成人してから、という内容になっている点も法案の課題です。
「子どもの権利条約」に盛り込まれている権利であるにもかかわらず、子どもが自分自身について知りたいと思っていても、未成年のうちは権利を行使できない内容となっています。
出自の事実を知らなければ権利を行使できない
今後、出自を知る権利を定めた法律ができたとしても、非配偶者間の生殖補助医療によって生まれたことを子ども自身が知らなければ、子どもは権利を行使できません。この状態も課題のひとつです。
中には非配偶者間の生殖補助医療によって生まれた子どもであることを、子ども自身に知らせない親もいるでしょう。これでは子どもはいつまでも自分の本当の出自を知らないままになってしまいます。
2025年2月に提出された法案では、親が子どもに出自の事実を告知することや、親が子どもへ出自に関する告知を行うときのサポートについては、定められていません。親が子どもへ適切な形で出自の事実を伝えられるよう、サポート体制の整備が必要です。
[まとめ]出自を知る権利を理解しておこう
出自を知る権利は、家族形態の多様化によって、子どもにとって重要な権利の一つと認められるようになりました。ヨーロッパ各国をはじめとするさまざまな国で法律が整備されている中、国内には2025年4月時点で法律はまだありません。
2025年2月に出自を知る権利を盛り込んだ「特定生殖補助医療に関する法律案」が国会へ提出されたため、今後法整備が整っていくでしょう。
ただし今提出されている法律案には課題もあります。開示できる情報が限定的であるところや、未成年では情報開示できないところ、出自の事実を知らないままでは権利を行使できないところなどです。
今後の法整備について理解度を深めるには、出自を知る権利の基礎知識やこれまでの流れについて理解しておきましょう。
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構成・文/HugKum編集部