夫婦の体に問題は見つからなかった
一般的に不妊治療は、
通院治療
↓
人工授精
↓
体外受精(場合によっては顕微授精)
といったプロセスを踏んでいきます。gentaさんの場合は、通院治療(病院指導のタイミング法)、人工授精(男性の精子を採取し、母体に授精する)を経験した上で、体外受精を決断しました。
もともと、gentaさん夫婦には特に、決定的な不妊の原因が見つからなかったそう。採卵した22個の卵子に精子をふりかけると、18個が受精に成功しました。
その18個を9個・9個に分け、それぞれを短期・長期で培養します。結果、細胞分裂が軽く進んだ良好な受精卵(初期胚)7個、着床可能な状態まで細胞分裂が進んだ受精卵(胚盤胞)3個の確保に成功します。
それらをいったん全て凍結し、母体の回復を待って、着床可能な受精卵(胚盤胞)1個を母体に移植し、2013年8月に、1人目のお子さん誕生につながりました。
※gentaさんの初めての体外受精エピソードはこちら≪
体外受精に再挑戦
ここからはそのgentaさん夫妻の、2人目出産の際の不妊治療の話です。
では、2人目の治療に向かうにあたって、どのような話し合いが夫婦間であったのでしょうか。
「まずは、自然な営みの中で、授かりたいと思いました。あらためて体外受精を再開するとなると、余計に費用も発生します。
しかし結局は、うまくいきませんでした。夫婦の年齢も考え、子どもは2歳差で生みたいと考えていたので、この月を逃したら駄目だというタイミングが迫ってきた段階で、体外受精に再度挑戦しようと決断しました」(gentaさん)
再度、体外受精を決断したgentaさんですが、1人目の時と2人目の時で、治療に何か違いがあったのでしょうか。
「1人目の治療の過程で、凍結した受精卵(凍結胚。初期胚7個と胚盤胞2個)が私たちにはありました。凍結には年間で、10万円程度のコストがかかっていましたが、あらためて卵子を採取して、精子をふりかけ受精させる、培養するといった作業が2人目の時は必要ありませんでした」(gentaさん)
キラキラした胚盤胞が妻の体にピュッと入っていく
凍結していた胚盤胞(受精卵の細胞分裂が進み、着床が可能になった状態)を奥さまに移植した後は、どのような流れで妊娠が分かったのでしょうか。
「流れ自体は、1人目の時と一緒で、クリニックのスケジュールに従って、妊娠の有無を判定してもらいました。
ただ、1人目の時と違って、移植には立ち会いましたし、妊娠の陽性・陰性を調べる判定日も、2人目の時は立ち会いました。
やはり、1人目の時に自覚が生まれ、不妊治療を「手伝う」姿勢から脱却できたので、2人目の時は仕事をなんとか調整して、立ち会いたいと思うようになりました」(gentaさん)
移植の立ち会いでは、どのような作業が男性側に待っているのでしょうか。
「手術室のような場所で、横になる妻の手を握りながら、エコーのモニターを見守るくらいしか男性にできるサポートはありません。
ただ、手を握りながら、白黒のエコー画像を見ていると、キラキラ光った灰色の胚盤胞が、妻の体の中にピュッと入っていく瞬間が目視できました。
すごく神秘的な体験だったと思います」(gentaさん)
「ありがとう」と「さようなら」が入り混じった感覚
結果として移植は成功し、第二子の長女が2015年7月に生まれてきます。そこで、素朴な疑問が出てきます。残った受精卵(凍結胚)については、どうするのでしょうか。
「結論から言いますが、第2子の娘が2015年7月に生まれた後、更新のタイミングで私たちも、残りの受精卵(初期胚7個と胚盤胞1個)を廃棄手続きしました。
正直、『廃棄』という言葉のニュアンスに少し心が痛みます。お迎えできなかった申しわけなさ・うしろめたさ・罪悪感と言うか、なかなか言葉にできない感情があります。『ごめんなさい』もあります。
ただ、われわれ夫婦の大きな希望として存在してくれていたのだから『ありがとう』という気持ちも大きくあります。『ありがとう』と『さようなら』が入り混じった感覚でしょうか」(gentaさん)
万が一の事態を考えて、第二子の娘さんが生まれるまでは保存の更新手続きをしていたそうです。無事に出産を迎えたタイミングでは、覚悟というか、気持ちの整理もついた状態で廃棄の手続きをしたとの話でした。それでも、なかなか言葉にできない感情があったみたいですね。
不妊治療に自覚が芽生えてから「検索魔」になるくらい情報収集したというgentaさん。その学びの過程で「病院の側に連絡がなければ凍結した受精卵は自動的に廃棄されるシステム」があると、ネット上でデマを見つけたそう。
「一部の都市伝説で、凍結していた受精卵(凍結胚)は、延長を申し出ないと、勝手に廃棄されると言われていました。その背景には『もう不要になったので破棄してください』とは言いづらい親心を考えた、病院側の親切心があるとインターネット上に書かれていました。
その情報は全くのデマです。実際は、延長期間が切れそうになると、病院の側から必ず連絡が入るようになっています。
とはいえ結局は、うわさ話だった話も、今から振り返ると、あってもおかしくない、悪くない配慮だと感じます。そのくらい、複雑な思いが廃棄にはありました」(gentaさん)
体外受精した人にしか与えられない「ご褒美」
ここまで、gentaさんの不妊治療を振り返ってきました。最後に、同じような境遇にある男性たちに何か伝えたいメッセージはあるかと聞くと、次のような言葉が返ってきました。
「不妊治療は、体外受精まで行くと、やはりしんどいですし、お金もかかります。
われわれがお世話になったクリニックは全体的に費用が高かったという事情もありましたが、わが家の不妊治療では、凍結卵保存料を含めると最終的に150万円以上かかりました(※現在は、保険適用となり、費用体系も大きく異なる)。
しかし、体外受精した人にしか与えられない『ご褒美』もあると思います。それが、この写真です」(gentaさん)
「上の画像は、受精卵の状態のわが子です。自然に妊娠した方々では、決して手に入らない写真です。将来、子どもが分かる年齢になったら『これがきみだったんだよ』と伝えてあげたいなと思っています。
他人にとっては何の意味もない写真かもしれませんが、私にとっては価値のある写真です。大変な思いをしたからこそ、普通なら絶対に手に入らないわが子の写真が、ご褒美にもらえたのかなと思っています。
今、治療の最中で大変な思いをしている方々も、大変な思いをした人にしか与えられない何かのご褒美が待っているはずです。明るい未来がきっと待っていると思って、ご夫婦で協力して、皆さんなりの結果をつかんでいただければと思います」(gentaさん)
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gentaさんはご自身のブログで、不妊治療とその後の育児について情報発信しています。併せて、チェックしてみてくださいね。
この記事シリーズが、新たな命の誕生を待ち望む人たちの道しるべや心の支えに少しでもなればと、心から祈ります。
▼gentaさんの初めての体外受精エピソードはこちら
パパ目線の不妊治療、別ケースの記事はこちら
【gentaさんのブログ】
取材・文/坂本正敬
参考:『家庭医学書 医学館』(小学館)