パパ目線で語る不妊症治療のリアル。男性は泌尿器科を受診、多目的トイレで精子を紙コップに採取

デリケートな問題である「不妊症」についての体験談をパパ目線で語ってもらうHugKumの連載シリーズです。授かる・授からないにかかわらず、不妊症の治療を体験した男性たちの生の声を男性筆者が取り上げます。

初回の今回は、HugKumの男性育休連載にも以前登場した北陸在住のキヨさん。不妊症の治療を経て授かったお子さんを育てている方ですが、不妊症の治療にはどのような話があったのでしょうか。あらためて聞かせてもらいました。

キヨさんの男性育休記事はこちら≪

不妊症治療のステップとは

そもそも論としてキヨさんいわく、不妊症の治療にはステップがあるそうです。

そのステップの「入口」の部分で待望のお子さんを授かったので、キヨさん夫婦の場合は、同じく不妊症治療を頑張る人たちと比べて、苦労が少ないほうではないかとご自身たちの体験を振り返ります。

不妊症の治療には、

通院治療

人工授精

体外受精

顕微授精

といった段階があるらしく、キヨさんご夫妻は人工授精の段階で授かったため、体外受精や顕微授精については何も語れないといいます。

また、今回の治療を振り返ってみると、「これが原因」と特定できる問題がご夫婦どちらの側にも結局見つからないまま、人工授精の3回目で授かったと言います。

それでも参考になるのであればと断りを入れた上で、キヨさんは体験を話してくれました。

泌尿器科で男性は診てもらう

小学館『家庭医学書 医学館』によると、子どもを希望した夫婦の8割が1年以内に子どもを授かり、2年以内に1割が授かるといいます。2年たっても授からなかった残りの1割の夫婦について不妊症を医師は疑うとの話。

しかし、キヨさん夫婦の場合は、新婚旅行から帰ってきた結婚後数カ月の段階でご夫婦そろって早々に受診をスタートしました。

その行動の早さの理由を聞くと次のような答えがありました。

「年齢や仕事を考えて、なるべく早く子どもを授かりたいと思っていました。しかし、妊娠についてはちょっと心配な部分もあったので、念のため早く受診しました」

素朴な疑問として、男性の側は何科の病院へ行って受診するのでしょうか。

「泌尿器科です。もっと都会の場合は夫婦一緒に見てもらえる場所もあるのかもしれませんが、僕たちのように地方に暮らしている場合、男性は泌尿器科、女性は婦人科で診てもらう形が一般的だと思います」

不妊症治療の経験がない筆者(男性)にとってはいきなり意外でした。不妊症の診察は男女別々で行うケースが地方では一般的なのですね。

多目的トイレに連れて行かれる

泌尿器科へ男性は行くと分かりました。では、具体的に診察では何をするのでしょうか。

「予約の段階でまず、診察日までの4日間、禁欲を求められました。

診察日には、尿検査・精液検査があります。精液採取の段階では、個室にソファがあり、テレビやDVD、サポートグラビアなどがあって、精液を射出すると勝手に想像していました。予習の段階で、そのような情報をたくさん見たからです。

しかし、僕の行った地方の大きな泌尿器科の病院では、何もありませんでした。多目的トイレに連れて行かれて、年配の看護師から紙コップを受け取り、採取するように求められるだけです。

採取後は、先生の触診があります。先生の前でズボンを下げて性器を露出させると、男性の医師が視線を外したまま、ビニール製の手袋越しに睾丸を触診してくれました。

精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)が『ちょっとあるね』と指摘されましたが、不妊症の原因になるほどではなかったみたいです。

結果として、問題らしき問題が他に見られなかったので、1年たっても授からなかったら、また来てと言われました」

精索静脈瘤とは難しい言葉です。小学館『家庭医学書 医学館』によると、

<睾丸(精巣)を栄養する静脈(精巣静脈)が怒張し、青黒く蛇行して見える病気>(小学館『家庭医学書 医学館』より引用)

とあります。同じく『家庭医学書 医学館』によると、不妊男性の約30%にこの病気が見られるものの、正常な男性にもあるのだとか。

症状が重かったり不妊症があったりする場合は手術もあり得るそうですが、キヨさんは手術も必要ないと言われたみたいです。

市販キットではなく泌尿器科へ

問題も特に見つからず、「来年まで待て」と言われた男性の側には、不妊治療においてできる対策は何もないのでしょうか。

「生活習慣を整え、禁煙し、飲酒を控え、ストレスをためないようにと言われました。激しすぎる運動も控えるように言われました。全ては、精子の質を上げるためですね。

1年たって再診する結果に結局はなるのですが、その間はずっと、生活習慣の改善と並行して、いろいろな検査や仕事終わりの通院を繰り返す妻のケアを強く意識していました。

出産適齢期で、周りがどんどん妊娠・出産する情報に、彼女はどうしても振り回されてしまいます。

そのうえ、通院の負担が僕以上に大きいので、暗い顔をしていれば『何があった?』と聞き、『そのうち何とかなる』と励まし続けました」

泌尿器科での初診から翌年の再診まで、キヨさんの奥様は、漢方を試したり、婦人科を切り替えたり、仕事後に通院&検査を繰り返したりと、キヨさん以上の負担があったようです。

「泌尿器科の診察に関係して、ちょっとお伝えしたい話もあります。市販の精液検査キットについてです。4,000円くらいする市販の精液検査キットで、自分の精液の運動率と濃度を、診察の前に最初に自分で調べました。

スマホにアプリをダウンロードして、採取した精子の写真を撮れば、精子の状態を調べられる便利なキットなのですが、その検査キットで僕の精子の運動率は最初40%と出ました。この数字は、妊娠できるかどうかのギリギリな線上でした。

しかし、病院で診察してもらうと、運動率も濃度も問題ありませんでした。市販の検査キットで40%と言われた僕の精子の運動率は80%に達した時もありました。

しかも診察は、健康保険が適用されます。3割負担で1,500円くらいでした。

検査キットについては、信ぴょう性の低さも指摘されています。コスト的にも病院のほうが安く済みますので、妊娠について不安を覚えたら、泌尿器科へすぐに行ったほうがいいと思います」

小学館『家庭医学書 医学館』によると、男性の精子は一般に、平均3ミリリットルが1回の射精で射出するそうです。1ミリリットル当たりには8000万程度の精子が含まれているのだとか。

この精子の数が3000万以下(WHOの基準では2000万以下)になると、妊娠の確率が低下するとされています。精子に十分な数があっても、運動性が見られない・弱い場合は、結果として妊娠に至りません。その意味で、運動率と濃度が調べられるのですね。

*  *  *

▼1年後、再受診したキヨさんが決断した「人工授精」のエピソードは、次の記事でくわしくお伝えしています。

3回目の人工授精で「出た、出た!」と妻が歓喜!不妊症治療の末、妊娠が分かった瞬間の声かけは
前回の記事では、人工授精に至るまでの通院での治療について教えてもらいました。1年間以上の通院を経てどのような形で人工授精を決断したのか、あら...

【キヨさんのブログ】
取材に登場したキヨさんは、育休や不妊治療についてブログでも情報を発信されています。併せて参考にしてください。『まわれブログ

文・坂本正敬 写真・荻矢陸央
参考: 『家庭医学書 医学館』(小学館)

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