今回取材に応じてくれた2人のパパは、お互い北陸に暮らし、異なる企業の経理部門と管理部門で勤務するキヨさんとリクさん。
キヨさんは不妊治療を経て第一子を授かりほぼ1年の「育休」に入ったばかり、リクさんは双子を授かり1年の「育休」に入って、2カ月を残す段階まで来ています。
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現状として、男性で「育休」を利用する人は右肩上がりながらも全体の1割ちょっとが現実。制度利用者であっても2週間以内で「育休」を終える男性がまだまだ多数派です。
なかなか長期にならない理由は、本人が望まないケースもあれば、認めてくれる雰囲気や環境が職場にない可能性もありますよね。1年という長期の休業を迎えるにあたって、おふたりはどのように準備してきたのでしょうか。
まずは、上司への報告・相談と根回しの部分を聞いてみました。
「異端児キャラ」の押し出しと、周到な根回しと
リクさんの場合:「異端児」のキャラ勝負で
「私の場合は、長期間の休みを取りやすい状況でした。最初は半年を取得しようと思っていて、双子と分かった段階で1年にしたいと会社に伝えました。
この時期に、ちょうど異動のタイミングが重なったので、引き継ぎ業務も多くなく、新しい部署に異動したばかりの私が抜けても、それほど迷惑が掛かるわけでもありませんでした。
とはいえ1年は長いと思います。しかし、『あいつには何を言っても仕方ない』という社内での異端児キャラも功を奏したのかと思います(笑)」
キヨさんの場合:「これは戦いなんだ」
「僕の場合は、経理の仕事で、専門性の高い部署に所属しています。なので、極力迷惑が掛からないように用意周到に準備を進めました。
上司に伝えたタイミングは取得の2カ月前でしたが、伝えるタイミングをまず慎重に選びました。僕の所属する部署は40人くらい、課で言えば5人です。仕事のルーティーンとしては、月次決算に加えて、3カ月に一度、大きな期末決算がやってきます。
それらの業務の谷間にあたる、ちょっとほっこりしたタイミングを見計らって、直属の上司にメールで連絡し、5分くらい話をさせてもらえないかと相談しました。
面談の当日には、育休の申請書を全部用意して、必要事項を全て記入し終え、上司のはんこをもらうだけの状態で、妻が妊娠したと報告し、育休を取りたいと書類を差し出しました。
なかなか授からなかった状況を上司も知っているので、『育休いいんじゃない』と最初はおめでたいムードでした。しかし、書類の上から3行目に書かれている育休の取得期間を見て、上司の顔が凍りました。僕の会社では、男性で育休を取る人が珍しい上に、1年は恐らく異例中の異例だからです」
「育休は分かったけれど、期間についてはちょっと相談させてくれ」と、キヨさんは直属の上司にまず言われます。
しかし、家族を優先したい、念願の第一子の育児を優先したいキヨさんは「これは戦いなんだ」と考え、自分から折れるような態度はとりませんでした。
部長とは、4日間 会話がなかった
その日のうちに管理職の間で話し合いがあり、室長などの承認を経て、最終的には部長の承認も得られました。
しかし、いつもはキヨさんの席の近くに来て、気軽に話し掛けてくれる部長とは、その後の4日間、会話がありませんでした。
仕事をばりばりやってきて部長まで上り詰めた立場の方であり、キヨさんの成長をさまざまな形で後押ししてくれた人だけに、優先順位の付け方が異なるキヨさんの生き方に、思うところもあったのではないかと、キヨさんは感じます。
2人の「雪解け」のきっかけは最終的になんとコピー機だったとか。コピー機の不具合で部長に呼ばれ、サポートに入ると、久々の会話がありました。
その直後に、財務と人事の間でやりとりされていた(と思われる)育休の申請書類が、必要なはんこを全てもらった状態で、ちょうどキヨさんのデスクに回ってきます。
「いつもどおりの関係に戻った状態で育休に入れたので良かった」とキヨさんは語ってくれました。
キャリアも人生も長い目で見つめる
これだけ周到に準備して休みを取ろうとしたキヨさんと、「異端児キャラ」と笑って開き直るリクさんには、ぜひ聞いてみたい質問がありました。
HugKumの過去の取材において、長期の育休取得は、同期の社員に差をつけられる、スキルアップの機会を失うなどと、敬遠する人も存在すると知りました。
キャリア形成について、おふたりはどう考えているのでしょうか。
リクさんの場合:本当に「一年」でダメになるのがキャリアか
「キャリアに関して言うと、育休を長く取ったから出世できなくなるなんて話は、ないと思います。
社外の友達にも確かに『戻る椅子あるの?』と心配されました。
しかし、長い目で見れば、何十年と続く会社員生活において育休の1年なんて、ほんのわずかな期間だと思います。「駄目になるんじゃないか」という不安は、根拠のない思い込みのような気もします」
キヨさんの場合:人生観のマインドリセットをすべき時代
「やはり、何を優先するかだと思います。仕事も大事ですが、子どもも家庭もやはり大事です。地域とのつながりやボランティア活動、趣味のコミュニティづくりも幸せに生きるためには大切です。
もちろん、仕事人として、何かを犠牲にしてでも仕事に全てを捧げたい、仕事を通じて自己実現したいと思う人もいるはずです。しかし、家族との時間や地域とのつながりを何よりも大事にしたいと思う人もいていいのではないでしょうか。
会社に全てを捧げて出世し、お金を稼いでも、足元の家庭がめちゃくちゃ、温かい近所付き合いも皆無の状態なら、きっと幸せは感じられません。しかし、幸せに暮らすには最低限のお金も必要です。
そのバランスの中で、何を大切にして生きるのか、日本人それぞれが自分の価値観に沿ってマインドをリセットし、『とりあえずみんなと一緒』という姿勢を見直すタイミングが来ているのかもしれません」
以上、1年の「育休」を取得したパパたちの育休対談、いかがでしたか? 今回は、会社名と実名は伏せながら(写真での顔出しはOK)、本音を語ってくれたおふたり、なかなか突っ込んだ話が聞けたように思います。
かといっておふたりは、自分たちの選択を他の男性に無理強いしたいわけでもないと言います。あくまでも「育休」を選べる環境にあり、家庭や育児を優先順位の上位に据える選択が視野にあるなら、長期の育児休暇は有意義、との話。ぜひ、参考にしてみてください。
【キヨさんのブログ】
取材に登場したキヨさんは、育休や不妊治療についてブログでも情報を発信されています。併せて参考にしてください。『まわれブログ』
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文/坂本正敬 写真/坂上翔太・荻矢陸央
参考: 育児・介護休業法の改正について – 厚生労働省