ハーバード大が抵抗する「反DEI」とは? DEIの概要やアメリカでの現状、企業の対応を紹介【親子で学ぶ現代社会】

「反DEI」は、アメリカで推し進められている施策です。アメリカでは、一体何が起きているのでしょうか? DEIの定義も含めて、反DEIの概要や企業の反応について解説します。また、併せてDEIを推進していく上でのメリットや課題も確認しましょう。

DEIとは何?

「DEI」は、「Diversity, Equity & Inclusion」の略称です。「DE&I」や「EDI」と表記されることもあります。まずは、それぞれの英単語の意味を確認しましょう。

「D」は「Diversity」を意味する

DEIの「D」は、多様性を意味する「Diversity」の頭文字を取ったものです。つまり、多様性を重視するという考え方を表します。

人種・性別・価値観・出身地・民族・学歴・職歴など、人間はさまざまな基準で分類されますが、カテゴリーにとらわれず評価しようとすることがDEIのポイントです。

企業の場合は、多様な人材を確保するという意味合いが込められています。

「E」は「Equity」を意味する

DEIの「E」は、公平性を意味する「Equity」の頭文字を取ったものです。公平性とは、本人の背景や個々の違いを考慮して配慮やサポートを行い、全員が公平になるようにすることを表します。

一方で「平等(Equality)」は「公平」と似た言葉ですが、平等に扱う場合、個々の違いに配慮したサポートはありません。どのような人にも、同じだけの配慮が行われます。公平性を意味するEquityとは質が違うと考えておきましょう。

対してDEIの「Equity」を重視して公平性を守る場合、ハンデがある人のほうが配慮は多くなります。公平性を意識することで、さまざまな人が活躍する機会を得られるのです。

上図の「平等」はEquality、対して「公平」がDEIのEquityにあたる。ハンデの度合いによってサポートを増すことで誰もが「山の景色を楽しむ」という結果を得られる

「I」は「Inclusion」を意味する

DEIの「I」は、包括性を意味する「Inclusion」の頭文字を取ったものです。障害のある人と一般の人が同じ教室で学ぶことを「インクルーシブ教育」と呼ぶように、Inclusionはどのような人でも同じように学びや仕事に参加できる状態を表します。

ビジネス面では、全ての従業員が公平に機会を与えられ、さまざまな取り組みに参加できる状態がInclusionです。企業が多様性・公平性を重視する上では、Inclusionの考え方も重要になってくるでしょう。

アメリカで起きている「反DEI」とは

DEIは、多くの人に機会を与え、活躍する人材を増やすには欠かせない考え方です。しかし、アメリカでは現在、「反DEI」の動きが出ています。DEIに反する考え方とはどのようなものか、確認しましょう。

企業のDEIプログラムに反対する意見が出始める

アメリカでは、バイデン政権がDEIプログラムを推進していたこともあり、多くの企業がDEIプログラムを導入しています。DEIプログラムとは、多様性・公平性・包括性を意識して採用や雇用に生かす考え方や指針のことです。

特に、2020年に起きた白人警察官による黒人男性暴行死事件をきっかけに、DEIプログラムを推進する機運が高まりました。

しかし、DEIプログラムによって必ずしも多様な人材が活躍するとはいえず、疑問や反対の声もあったようです。2024年ごろには、DEIプログラムの推進によって企業経営に悪影響があるとする批判的な意見も出始めました。結果、一部の企業ではDEIプログラムの撤回や縮小が検討されています。

参考:多様性・包摂性重視、なぜ米政財界で批判が広がったのか-QuickTake – Bloomberg

トランプ大統領によりDEIプログラムの廃止が指示される

DEIプログラムに対する批判的な意見や、企業の撤回・縮小に伴って、政府からもDEIプログラムの廃止が指示されました。トランプ大統領は、2025年1月20日に企業や行政機関に対してDEIプログラムを終了するよう指示しています。

大統領からの指示があるとはいっても、全ての企業がDEIプログラムを終了する方向で動いているとはいえません。現状では、企業によって対応はさまざまです。

しかし、公的な助成金や補助などは打ち切る方向となっており、DEIプログラムを継続していくには企業独自の自主的なサポートが必要になります。

出典:Ending Radical And Wasteful Government DEI Programs And Preferencing – The White House

アメリカ企業の「反DEI」に対する動き

アメリカでは政府も含めて反DEIを進めようとしていますが、企業の反応はどうなっているのでしょうか? DEIプログラムを縮小した企業だけでなく、終了に反対している企業もあります。それぞれ、主な企業の例や状況を確認しましょう。

DEIプログラムを縮小した企業

DEIプログラムを撤回・縮小している企業にはAmazon・McDonald・Meta・Google・Walmart・Microsoftなどがあります。

政府の指示を受けた結果だけでなく、それ以前に縮小傾向であった企業もあり、これまでの施策を見直す企業は多いようです。

ただし、DEIの考え方自体を否定するのではなく、効果が得られなかったプログラムを見直し、現在よりも良い施策にしようとする動きもあります。

参考:米メタやアマゾン、社内の多様性対応を縮小へ 企業で同様の動き広がる – BBCニュース

DEIプログラムの終了に反対している企業

アメリカの企業の中でも、DEIプログラムの終了に対する反応はさまざまです。政府の指示によって取締役会や株主総会で見直しが検討されたものの、否決された企業もあります。

Apple・Disney・Costcoなどは、取締役会や株主総会で政府の提案を否決し、今後もDEIプログラムを継続していく見込みです。

参考:アップル取締役会が「反DEI提案」に反発、多様性ポリシー継続を宣言 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

大学では反DEIに対抗する動きも

ハーバード大学(アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ)

アメリカの大学では、保守的な政治的背景を持つ州や団体からの圧力によって反DEIが進行しています。同時に、一部の大学では反DEIに対抗する動きもあります。

ハーバード大学は反DEIに反発

トランプ政権は、ハーバード大学に、DEIプログラムの廃止や入試改革、能力主義に基づく採用の徹底を求め、これに従わない場合は連邦資金の凍結を示唆しました。

ハーバード大学はこれに対し、学問の自由と大学の自治を守る立場を強調し、要求を拒否しました。

反DEIへの抵抗は他大学にも

ハーバード大学の反DEIへの抵抗は、他の大学にも波及しています。

当初、トランプ政権の要求を受け入れる姿勢を示していたコロンビア大学は、教育の内容、研究テーマ、採用人材への政府の介入を拒否する旨の声明を発表しました。

スタンフォード大学も、合衆国憲法修正第一条が保護する「大学の自由」を認めた最高裁判所の判例を挙げ、ハーバード大学の決定を支持する意向を示しました。続いてプリンストン大学も「ハーバードを支持する」と表明しました。

一部の国民や政府が反DEIを推し進めているとはいえ、このように対の声を上げる大学や団体もあります。今後どのような動きを見せるのかは、政府の方針や国民の反応なども関係してくるでしょう。

参考:トランプ政権、ハーバード大学に謝罪要求 連邦資金の凍結に再言及|CNNニュース

DEIの推進によって生まれるメリット

アメリカでは反DEIの動きが進んでいるものの、日本の場合はこれからDEIを取り入れていこうとする動きが多数派です。DEIの推進によって生まれるメリットを把握し、必要性を判断していくことが望まれるでしょう。

企業の人材確保が進みやすくなる

DEIを取り入れている企業は多様性や公平性を重視していることから、従業員にとって魅力的です。

背景や価値観を問わず評価され、さまざまな機会を与えられるとなれば、多くの人が就職を検討することになるでしょう。結果、優秀な人材が集まりやすくなります。

企業にとっては、DEIを推進することで人材が確保しやすくなるメリットがあるといえるでしょう。

価値観の違いからアイデアが出やすくなる

DEIを推進し、多様な人材を採用すると価値観にも多様性が生まれます。考え方の違う人たちが議論を進めることで、魅力的なアイデアが出る可能性も高くなるでしょう。

同じ背景の人だけを集めると、似たような考え方になりがちです。新しいアイデアや、これまでにない企画を進めようとしている場合、多様性がある方が有利です。

DEIの推進は、異なる立場からのアイデアを集めたい企業にとって大きなメリットがあります。

DEIの推進によって発生する課題

DEIの推進は多様性を受け入れ、公平な対応につながる施策です。しかし、DEIの推進によって発生する課題もあり、反DEIの動きにつながっています。主な課題についても、把握しておきましょう。

「公平性」を理解する環境整備が必要

公平性を重視する場合、全員が平等になる仕組みにはなりません。ハンデの有無や個々の違いによって対応が変わるため、場合によっては不満が出る可能性があります。

公平性を重視する取り組みがなぜ必要なのか理解するための教育を含め、周知できる環境を整備しなければなりません。

従業員や経営層がDEIの必要性を理解できていない場合、魅力的な取り組みであってもうまく使いこなせない可能性があります。

組織内で対立が起きる可能性がある

DEIを推進することで、背景の異なる多様な人材が集まります。しかし、背景が異なるということは、価値観も異なる可能性が高いでしょう。

価値観の違いから、組織内で対立が起きる可能性も考えられます。特に、考え方の違いを受け入れることに抵抗がある従業員が多いほど、高リスクです。

DEIを推進する場合は、組織内の対立や不和を予防するために、何らかの対策を考えておく必要があるでしょう。

アメリカでは「反DEI」が起こっている

DEIとは、多様性・公平性・包括性を意味する英単語の頭文字を組み合わせた言葉です。これまではアメリカを含め、DEIを推進する動きを見せている国が増えていました。

しかし、現在アメリカではDEIプログラムを廃止しようとする反DEIの動きが出てきています。トランプ大統領もDEIプログラムを終了するよう企業に指示を出しており、今後の動きが気になるところです。

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構成・文/HugKum編集部

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