きょうだい児に関する基礎知識
きょうだい児のことを理解するには、まず「きょうだい児とは何か」をしっかり把握しておく必要があります。「障がい者」「医療的ケア児」「介護」などの言葉にあまりなじみのない人にも知っておいてほしい、きょうだい児の基礎知識を解説します。
きょうだい児とは
きょうだい児とは、障がいや重い病気を持っている兄弟姉妹がいる子どもを指す言葉です。
きょうだい児の「きょうだい」の部分がひらがな表記なのは、きょうだいには兄弟以外にも姉妹・兄妹・姉弟とさまざまな形があるからです。「兄弟児」と表記すると、「障がいや病気を持つ兄もしくは弟がいる子ども」という意味に限定されてしまうため、ひらがな表記が使われています。
「きょうだい児」はまだまだ認知度が低い言葉です。実際に障がいや病気を持つ子どもを育てている親であっても、「きょうだい児」という言葉を知らない人もいるほどです。
きょうだい児とヤングケアラーの関係
ヤングケアラーとは、障がいや重い病気を抱えた家族の介護を日常的に行っている18歳未満の子どもを指します。要介護者が兄弟姉妹であっても親であっても、介護者が18歳未満であればヤングケアラーと見なされます。
きょうだい児とヤングケアラーは地続きの存在といえるでしょう。きょうだい児の中でも、兄弟姉妹のサポートを日常的に行っている子どもは、ヤングケアラーであると解釈できます。障がいや病気を抱える兄弟姉妹の世話をしている子どもは、きょうだい児でありヤングケアラーでもあるのです。
きょうだい児が抱える問題

きょうだい児はその境遇から、さまざまな苦悩や葛藤を抱えやすいといわれています。きょうだい児が抱えがちな課題を解説します。きょうだい児が直面する問題を理解して、彼ら彼女らに寄り添える人を目指しましょう。
情緒不安定に陥りやすい
きょうだい児は心が不安定になりやすいといわれています。きょうだい児が情緒不安定に陥りやすい背景には、日常的に強いられる我慢があります。
きょうだい児がいる家庭では、親は障がいや病気を持つ兄弟姉妹に付きっきりになりがちです。たとえきょうだい児が「自分もかまってほしい」と心の底で思っていたとしても、わがままを言えない状況も理解しているため、子どもらしい要求を口に出すのをぐっと我慢します。
毎日のように我慢を続けた結果、きょうだい児は知らぬ間にストレスを溜め込んでいき、結果的に精神的な不安定へと追いやられていくのです。
世間の偏見にさらされる
障がいや病気に無理解な人から向けられる偏見にさらされるのも、きょうだい児が抱える苦悩の1つです。
きょうだい児として毎日を過ごしていると、兄弟姉妹に障がいがあることを告白したら必要以上に驚かれたり、特別な支援を必要とする兄弟姉妹に対する悪口を言われたりすることがあります。こうした言動は悪意の有無にかかわらず、きょうだい児を深く傷つけるでしょう。
人々の無理解から生まれる偏見は、ただでさえ家庭内で孤独感を覚えているきょうだい児をさらに孤立させてしまいます。社会全体で偏見を解消していく必要があるといえるでしょう。
人間関係に支障をきたす
きょうだい児は、人間関係がうまく築けなくなるリスクも抱えています。
幼少期においては、兄弟や姉妹の障がいや病気について理解が得られず、クラスで孤立したり、自ら心を閉ざしたりすることがあります。最悪の場合、きょうだい児であることを理由にいじめを受けるケースもあるのです。
成人したきょうだい児の場合には、結婚を考える場面で兄弟姉妹の存在が影を落とすことがあります。婚約者には障がいや病気に対する理解があっても、婚約者の両親から兄弟姉妹の障がいや病気を理由に、婚約を破棄されるケースもあるのです。
将来の選択肢が制限される
望み通りの進学や就職を諦めざるを得ない状況に追い込まれるきょうだい児もいます。
進学を検討する場面では、「兄弟姉妹のケアにお金がかかるため進学自体を諦める」「兄弟姉妹の介護に生かせるように福祉系の学校に進む」などの選択を迫られるケースが見られます。
就職先を選ぶ場面では、「兄弟姉妹の介護をするため実家から通える場所に勤める」「実家に迷惑をかけないよう安定した職を選ぶ」などの選択を強いられるのです。
きょうだい児のためにできること

きょうだい児たちが抱える苦悩や葛藤を知って、「彼ら彼女らの役に立ちたい」と感じた人も多いでしょう。きょうだい児のために第三者ができることを解説します。できることから実践していきましょう。
きょうだい児の存在を認識する
きょうだい児に寄り添うには、障がいや重い病気を患う兄弟姉妹を持ち、さまざまな困難に直面している子どもがいる事実を知ることが大切です。
きょうだい児として生活している子どもたちの中には、「自分がきょうだい児と呼ばれること」を知らないまま苦悩している人もいます。
きょうだい児の存在が広く社会に認知されることで、きょうだい児本人が「自分はきょうだい児っていうんだ」と理解する機会が広がると考えられます。きょうだい児としての自覚が本人に生まれれば、きょうだい児自身が支援の存在を認知しやすくなるため、支援の手が届きやすくなるといえるでしょう。
良き理解者としてきょうだい児の話を聞く
きょうだい児本人からきょうだい児であることを告白された場合や、きょうだい児としての苦悩を打ち明けられた場合には、真摯に相手の言葉に耳を傾けることが大切です。
きょうだい児の話を聞く際には、安易に頑張っていることを褒めないように気を配りましょう。話を聞いている側は善意の気持ちしかなかったとしても、「若いうちから介護に参加していてえらいね」「〇〇さん(きょうだい児の名前)がしっかりしていて親御さんも安心だね」などと言われると、きょうだい児は自身の悩みやストレスを打ち明けづらくなります。あくまでも聞き役に徹する姿勢が重要といえるでしょう。
きょうだい児を支援する取り組み

苦難を強いられるきょうだい児を救おうと、世の中ではさまざまなきょうだい児支援が行われています。きょうだい児の現状を知りたいのであれば、展開されている支援の内容も併せて把握しておきましょう。きょうだい児支援の取り組みを紹介します。
きょうだい児同士の交流を促す取り組み
イベント・レクリエーション・座談会を通じて、きょうだい児同士が交流を持てるコミュニティが各地で展開されています。
当事者同士で交流を深めるメリットとして挙げられるのが、悩みを共有できることです。きょうだい児にしか分からない悩みを共有し合うことで、「自分は1人じゃない」と安心感を得られます。また、当事者同士で情報交換ができるのもコミュニティのメリットです。
厚生労働省でも自治体の任意事業として、2015年からきょうだい児を含む患者・家族の相互交流事業を展開しています。この取り組みは、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の一環として実施されています。
きょうだい児に対する相談支援
きょうだい児に対する支援には、きょうだい児やその家族を対象にした相談支援サービスもあります。
相談支援サービスでは個別に悩みを聞いてもらえるので、きょうだい児同士では共有しにくい個人的な悩みを抱えている人に向いているといえるでしょう。コミュニティのようにたくさんの当事者が集まる場が苦手な人でも、気軽に悩みを相談できるのが相談支援サービスのメリットです。
サービスによっては匿名で相談ができるところもあるため、家族に内緒で悩みを聞いてほしい人にもおすすめです。
きょうだい児を預かってくれる保育事業
病院の中には、きょうだい児を専門に預かってくれる保育施設を運営しているところがあります。
病院によっては、兄弟姉妹が入院や通院をするとき、きょうだい児の病室や診察室への入室を制限しているところがあります。祖父母の家が近くにない場合には、入院や通院のたびにきょうだい児を保育施設に預ける必要があるのです。
しかし、入院や通院が必要な兄弟姉妹を伴って保育施設を訪れるのは、骨の折れる作業といえるでしょう。そんなときに頼りになるのが、病院の建物内や病院から徒歩数分の建物内で運営されている「きょうだい児保育」です。きょうだい児保育であれば、病院に行くついでにきょうだい児を預けられるため、不要な移動の手間を省けます。
まずはきょうだい児について理解することが大切
きょうだい児に関する課題を解決へと導くには、当事者ではない人たちの間にも「きょうだい児に対する正しい理解」が広まることが大切です。
きょうだい児の存在が世間に認知されれば、現在進行形で苦しんでいるきょうだい児にも支援が行き渡る可能性が高まります。必要以上に憐れんだり特別視したりせず、等身大の彼ら彼女らを理解することが、きょうだい児への支援拡充につながるのです。きょうだい児の存在を知って、彼ら彼女らを助ける道を開きましょう。
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構成・文/HugKum編集部