まるで罰?「チャイルドペナルティー」とは何か。ノーベル賞受賞学者が指摘する原因、現状と対策を解説

出生数がいよいよ70万人を下回り、出生率も過去最低と報じられたばかりですが、そんな昨今、注目が集まっているのが「チャイルドペナルティー」という言葉です。具体的にどのような状況をチャイルドペナルティーとよぶのでしょうか? チャイルドペナルティーが発生する原因を明確にした上で、影響を避けるために個人ができることもチェックしましょう。国内と海外のそれぞれの状況も確認します。

チャイルドペナルティーとは

子どもを持つことで発生する、社会的・経済的に不利な状況のことをチャイルドペナルティーといいます。

親になれば、男女問わずチャイルドペナルティーが発生する可能性があります。ただし現状では、女性への影響が大きいことから、マザーフッドペナルティーともよばれています。

ここでは、チャイルドペナルティーの特徴や注目されるようになったきっかけについて見ていきましょう。

ジェンダーギャップの要因の一つ

ジェンダーとは社会的・文化的に作られた性別のことです。ジェンダーギャップというと、ジェンダーの違いから生じる社会的な格差のことをさします。性別の違いによる不当な扱いを示す「男女差別」に近い意味を持つ言葉です。

チャイルドペナルティーが発生すると、子どもを持つ女性は、キャリアが途絶える・所得が減るなど社会的・経済的に不利な状況に陥ることから、ジェンダーギャップにつながる要因の一つといわれています。

ノーベル経済学賞受賞で注目され始めた

チャイルドペナルティーが注目され始めたきっかけは、クラウディア・ゴールディンが2023年に女性単独で初めてノーベル経済学賞を受賞したことです。

クラウディア・ゴールディンは、男女の賃金格差を分析し、その主な要因が子どもの誕生であることを明らかにしました。先進国に共通して見られるこの現象をチャイルドペナルティーとして紹介したことから、広く知られるようになりました。

クラウディア・ゴールディン Photo by Editing1088, CC 表示-継承 4.0, Wikimedia Commons

日本では子育て罰といわれることもある

日本ではチャイルドペナルティーを「子育て罰」と訳すこともあります。子どもを持つことで生じる男女の賃金格差に加えて、子育て世代への罰と感じられるような政策・制度・価値観なども意味する言葉です。

例えば、保育園の待機児童問題や長時間労働、夫婦間の家事・育児負担の偏りなども、子育て罰に含まれることがあります。チャイルドペナルティーよりも幅広い内容をさす言葉です。

日本のチャイルドペナルティーの現状

日本の産前産後の所得を男女で比較すると、男性に大きな変化が見られないのに対して、女性は60%ほどマイナスになっています。

加えて、女性は出産前から所得が減り始めているのも特徴です。これは、結婚を機に仕事を控えたり辞めたりするケースがあることを示しているといえるでしょう。

国内ではチャイルドペナルティーが女性に大きく影響しており、子どもが生まれて育児が始まる前から影響が生じていることが分かります。

参考:財務総合政策研究所|「仕事・働き方・賃金に関する研究会―一人ひとりが能力を発揮できる社会の実現に向けて」報告書|第3章 チャイルドペナルティとジェンダーギャップ

海外と日本のチャイルドペナルティーを比較

デンマークやアメリカでもチャイルドペナルティーは発生しています。日本より減少幅が小さく、産前から所得が減少する様子は見られませんが、女性の所得が産後に減少している点は日本と同様です。

日本よりジェンダーギャップが小さいといわれている国でも、チャイルドペナルティーという現象が起きていると分かります。

チャイルドペナルティーの原因

チャイルドペナルティーはなぜ発生するのでしょうか? 子どもを持つことで、社会的・経済的に不利な状況が発生する原因を解説します。

男女の賃金格差

女性より男性の方が賃金が高い傾向にあるため、世帯年収を最大化するには、男性が働いて女性が家事育児を担当する方が効率的になりやすい傾向があります。

賃金構造基本統計調査で国内の男女の賃金を比較すると、男性の全年齢の平均賃金は月36万3,100円、女性は月27万5,300円です。

平均賃金を年齢別に比較しても、女性が男性より高くなっている年齢はありません。さらに平均賃金の差は20代後半から広がっていきます。

この賃金格差から、出産を機に女性が仕事を控えたり辞めたりするケースが起こりやすいため、チャイルドペナルティーにつながっていると考えられます。

参考:厚生労働省|令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況|性別

長時間労働や休日出勤が求められる環境

働き方改革が進み、残業時間や休暇についての見直しが広がっています。ただし、全ての企業で長時間労働や休日出勤の状況が改善しているわけではありません。

長時間労働や休日出勤のある職場で働いている場合には、子どもの行事や病気などで休まなければいけないときに、賃金の低い女性が時短勤務を選ぶ・退職する、といったケースがあります。

育児は女性の仕事という価値観

「育児は母親が担うもの」という固定観念を持っている人は少なくありません。

全国家庭動向調査では、「結婚後は、夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」に賛成する人が29.5%であるのに対し、「子どもが3歳くらいまでは、母親は仕事を持たず育児に専念したほうがよい」に賛成する人は61.0%と半数を超えています。

実際に育児を担っている割合が高いのも女性です。子どもの年齢・雇用形態・仕事の有無にかかわらず、男性より女性の方が育児時間が長いことが分かっています。

家庭の家事育児を女性が担っている場合、男性と同様の働き方をするのは難しく、チャイルドペナルティーを受けやすくなるでしょう。

参考:国立社会保障・人口問題研究所|第7回全国家庭動向調査結果の概要

チャイルドペナルティーと少子化の関係

チャイルドペナルティーと少子化に明白な関連性があるかは、2025年5月時点では分かっていません。ただしチャイルドペナルティーが大きい社会では、産前産後で所得が減少することから、子どもを持つことをリスクと捉えるようになる可能性はあります。

リスクを避けて収入を最大化するために、子どもを持たない選択をする夫婦やカップルが増えている可能性があります。

チャイルドペナルティー対策としてできること

男女の賃金格差や働き方・価値観などの影響で起こるチャイルドペナルティーを避けるために、私たちは何ができるのでしょうか? チャイルドペナルティーを受けることなく働き続けるために、職場選びで確認すべきポイントをチェックしましょう。

男女の賃金の差異をチェックする

チャイルドペナルティーを受けることなく働き続けるには、男女の賃金格差が小さい企業へ就職・転職するとよいでしょう。

労働者数が301人以上の事業所では、男女の賃金の差異について情報を公表しなければいけません。この情報をチェックすることで、男女の賃金格差ができるだけ小さい企業を選びやすくなります。

チャイルドペナルティーの原因の一つである賃金格差が小さな企業に勤務すれば、チャイルドペナルティーを避けやすいでしょう。

チャイルドペナルティー解消の取り組みをチェックする

企業によっては、チャイルドペナルティーの解消に向けた取り組みを行っているケースもあります。就職や転職をするときには、企業がどのような取り組みを実施しているかも確認するとよいでしょう。

例えば、若手のうちから業務の経験値を高められる制度や、育児・介護中の転勤を回避できる制度、育休後の一定期間は人事評価が下がらないようにする制度などの有無をチェックします。

まずはチャイルドペナルティーに気づくことから

チャイルドペナルティーという言葉を知ったことで、初めてその存在に気づいた人もいるかもしれません。これまで当たり前だと考えていた背景を知ることで、自分にとってより良い選択ができるようになります。

まずはチャイルドペナルティーの現状を理解した上で、チャイルドペナルティーの影響を受けることなく、社会ぐるみで健全な育児を叶える方法を模索していきたいものです。

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構成・文/HugKum編集部

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