子どもに励ましの言葉をかけるメリット
(以下、井上顕滋さん談:)親から「がんばったね」「工夫したんだね」などの励ましの言葉をもらうと、子どもは「自分を見てくれている」や「努力を認めてくれている」という感覚を持ち、「わたしは大切な存在」というようなポジティブなアイデンティティビリーフ(信念)へとつながります。
こうしたポジティブなビリーフがあると、心が安定しやすく、失敗しても「もう一度チャレンジしてみよう」と前向きになれるのです。
逆に自分の存在に対してネガティブなビリーフがつくられてしまうと、自己肯定感が下がり、心の病気になる可能性さえ出てきてしまいます。
ぜひ効果的な励ましの言葉をかけてあげてください。
効果的な励まし方の基本
(井上さん:)子どもを励ますとき、どんな言葉をかけてあげたらよいか、迷うこともあるのではないでしょうか。基本を押さえておきましょう。
1.子どもががんばったことを具体的に伝える
まず、子どもがどんなことをがんばったかを具体的に伝えると効果的です。
例えば「計算のやり方を工夫したんだね」「最後まであきらめなかったね」といった声かけです。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の研究でも、結果より「努力」や「工夫」をほめることで、子どもが挑戦し続ける意欲を育てられるとされています。
2.子どもの気持ちに寄り添ってから励ます
次に、子どもの気持ちをくり返して確認しましょう。
「そう思ったんだね」「くやしかったね」と言葉にし、寄りそってから励ますと、子どもは「理解されている」と感じ、安心して前向きに行動しやすくなります。
シーン別の励ます言葉を添削!
(井上さん:)子どもに励ます言葉をかけるシーン別に、よく使われる言葉を集めました。奨励される言葉もあれば避けるべき言葉もありますので、ぜひ確認してみてください。
1. テストの点数がふるわなかったとき(努力したのにも関わらず)

×「たまたまテストの山が外れただけだよ。気にしなくていい」
この言い方では、子どもに望ましくない結果の原因を運のせいにする癖がついてしまうかもしれません。「気にしなくていい」という言葉も、子どもが本当に努力をしたのであれば、どうしても気にしてしまい、まっすぐ受け止められない可能性が高いといえます。
「今回のテストでよかったところはどんなところ?」という質問で前向きな状態をつくった後に「どこでつまずいたか一緒に見直してみよう」といった具体的なフォローが望ましいでしょう。
×「次、がんばりなさい」
一見前向きな言葉ですが、子どもにとっては結果のみを評価されていると感じてしまう言葉です。
具体的な過程や努力を認めた上で「この問題をどう解いたのか、一緒に振り返ろう」「どこでつまずいたかな?」など、子ども自身が考えられる問いかけが望ましいでしょう。
△「よくがんばったね。点数なんて関係ないよ」
努力を認めている点ではポジティブですが、テストが評価の指標になる事実を子どもに軽視させてしまう可能性があります。
大切なのは、結果だけを絶対視するのではなく、努力やプロセスを尊重しつつ、次に生かすためにしっかり分析することです。
×「お兄ちゃんはいい点数とれていたよ。だからあなたもがんばりなさい」
これはまったく励ましにはなりません。兄弟間の比較や他の子との比較は、自己肯定感を下げたり、嫉妬や劣等感を生むリスクが高くなったりするので気をつけてください。
子どもは比較されると自分を否定されたように感じ、結果として「ぼくはできない」や「わたしはダメ」などのネガティブなアイデンティティビリーフが形成されやすくなります。絶対に避けていただきたい表現です。
2. 運動会の演技が失敗してしまって落ち込んでいるとき

△「誰にでも失敗はあるよ」
「失敗を肯定的に捉える」姿勢を示している点が素晴らしいです。
これに加えて、失敗した子どもの気持ちに寄り添った上で、「失敗から学べるよ」「来年のために学べたことは何?」と未来へつながる声かけをするとより効果的です。
△「他のところは完璧だったよ」
子どものいい部分を認めようとする姿勢は評価できますが、リスクがあります。失敗より成功ばかりに目を向けると、子どもが「失敗は受け止めなくていい」と誤解する恐れがあるということです。
失敗を適切に認めつつ、成功面にも目を向けるバランスが大切です。
×「失敗したなんて誰も気づいてなかったよ」
子どもの失敗を小さく見せようという意図は分かりますが、この場合、本人は「失敗した」と強く認識しています。
「今どんな気持ち?」という質問で、まずは本音を聞き、寄り添ったその後で「ママ(パパ)はすごいと思ったし、一緒に見てた人たちもすごいって言ってたよ」のような言葉を伝えるほうが子どもの心に響きやすいでしょう。
△「○○ちゃんの毎日の努力をパパ(ママ)は見てたよ。だから失敗なんて関係ないよ」
努力をしっかり認める言葉が含まれている点、特に「見てたよ」という言葉は子どもにとって重要なので非常に素晴らしいです。
ただ「失敗なんて関係ない」と断じてしまうと、子どもが感じている悔しさを否定してしまう恐れがあります。失敗を経験したときこそ、子どもの感情を受け止め、「それでもあなたのがんばりはとてもすてきだった」「今回の経験からどんな学びがあった?」「次の目標にどういかそうか」といった声かけがあるとさらに効果的です。
3. むずかしい課題を目の前にして「できるかな?」と自信をなくしているとき

△「失敗してもいい。取り組むことが大事なんだよ」
失敗への恐れを和らげ、挑戦を応援する姿勢は評価できます。取り組むことが重要であること、失敗は問題ではないことを刷り込むことは非常に価値があります。
さらによい声かけをするとすれば、「本当はうまくやりたい」という気持ちに寄り添うために「うまくやるためにどう工夫できるか」「どんな準備すれば大丈夫だと思えるか」を一緒に考える言葉を追加するのが効果的です。
×「これができたらおこづかいアップしてあげる」
一時的なモチベーションを高める効果はあるものの、子どもが課題そのものの価値ではなく「ごほうび」だけを目的にがんばる状態に陥りやすい点が課題です。
心理学でも、外発的動機づけに頼りすぎると、自分で課題を好きになったり意義を見出したりする力が育ちにくいとされます。
×「これができなくても他のことができればいいのよ」
子どもの視点では、「本当はそれをできるようになりたい」という思いを軽視されたように感じる場合があります。
課題を回避せず「できるようになるまで試行錯誤する」態度が大切なので「できないところを一緒に考えようか」「どう工夫したらうまくいくかな?」と声をかけ、本人の挑戦心を尊重したサポートをすると、長期的な自信にもつながりやすいでしょう。
×「そんな簡単なこと、あなたならできるはずよ」
子どもに対して必要以上にプレッシャーを与えることはもちろん、もし思うような結果にならなかった場合、この言葉は子どもがもつ自己効力感や自尊心を大きく傷つける可能性があります。
心理学者のアルバート・バンデューラ博士の自己効力感理論では、「自分はできない」と信じるようになると、子どもが次の挑戦を恐れ、成長の機会を避けるようになることが指摘されています。子どもが失敗を恐れて挑戦を回避する傾向が強まるという点で、特に問題が大きいと言えます。
×「あなたは○○が苦手だから(他の)□□をがんばれば?」
「好きなこと」「得意なこと」をやることで、子どもは集中力を発揮し、能力が伸びやすいという側面は間違いなくあります。しかしこの声かけは、幼い子どもに早い段階で「苦手」という観念を植え付け、「(◯◯について)自分は努力しても伸びない」というネガティブなビリーフを形成してしまうことで、可能性を最初から制限してしまうことにつながります。
最初は苦手だったけれど、努力しているうちに上手になって、得意になったり大好きになったりするということは、私たち大人は経験上知っています。現在の能力がこれ以上伸びないと錯覚させるような表現は使用せず、「まだうまくできないだけ」という感覚で関わってあげることが大切です。
[まとめ]励ます言葉はよく選んで伝えよう
よかれと思って発した励ます言葉が、逆効果になってしまうのは避けたいものです。まずは基本の励まし方を実践しつつ、今回のNG例をヒントに改善すべき点は改善しましょう。
お話を伺ったのは

最先端の心理学や脳科学を融合させることで、人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。講座などを通じてこれまで指導した小学生の保護者は5万人を超える。
構成・文/石原亜香利