そもそも天使とは?
そもそも「天使」とはどのような存在なのでしょうか? クリスマスに見かけるモチーフや西洋美術に出てくる天使の姿が何を意味するのか、役割やキューピッドとの違いを説明します。
キリスト教における天使は「神の使い」
天使と訳されたギリシャ語は「アンゲロス(angelos)」で、「使者」または「神の使い」という意味になります。天使は聖書に出てくる霊的な存在で、神に従ってその言葉や意志を伝える天の使いです。ちなみに、天使はキリスト教だけでなく、ユダヤ教・イスラム教などにも見られます。
西洋絵画において、天使はよく翼を持った中性的な姿で描かれますが、原典である聖書にそういった説明はありません。
翼は「地上に縛られない」ことを、中性的な姿は「性別にとらわれない」ことを示すとされ、人間を超えた存在であることを表すイメージだと考えられます。
幼子のイメージはギリシャ・ローマ神話の影響

ルネサンス以降の西洋絵画において、天使は翼の生えた幼子のイメージでも描かれます。この幼子のイメージは、ローマ神話の愛の神クピド(キューピッド)、ギリシャ神話におけるエロスに影響を受けたという説があります。
「恋の仲を取り持つキューピッド」という表現があるように、クピドは恋する心を持たせたり奪ったりする能力を持つ、天使とは別の存在です。
しかし、翼の生えた幼い子どもとして表現されるキューピッドの姿は、現在の天使イメージに大きな影響を与えたようです。
天使の種類と階級
キリスト教のカトリックでは、天使に9階級あるといわれています。中には一般的なイメージとかけ離れた天使もいて驚くかもしれません。それぞれの階級について、特徴や役割を紹介します。

【上級天使】セラフィム・ケルビム・スローンズ
天使の9階級のうち、上の3種類は上級天使と呼ばれ、上からセラフィム・ケルビム・スローンズに分かれます。
1番上に位置するセラフィム(Seraphim、熾天使)は、神の側で「聖なる万軍の主~」と褒めたたえるのが役目です。6枚の翼があり、2枚で顔を、もう2枚で足を覆いながら残りの2枚で飛んでいます。
2番目のケルビム(Cherubim、智天使)は、最初の人間アダムとイブが追放された後の「エデンの園」を守る門番です。智をつかさどり、4つの顔と4枚の翼を持ち、翼の下に人の手があるとされ、炎の剣を携えます。
スローンズ(Thrones、座天使)は、人ではなく車輪のような姿とされ、神の玉座を支える役目です。上級天使は神の側に仕え、直接言葉を聞いて下位の中級天使に伝えます。
【中級天使】ドミニオンズ・ヴァーチュズ・パワーズ
中間の3種類は中級天使で、上からドミニオンズ・ヴァーチュズ・パワーズといいます。ドミニオンズ(Dominions、主天使)は、世界が神に統治されることを切望する存在で、神の言葉を広めるために下の階級にいる天使たちを指揮します。
ヴァーチュズ(Virtues、力天使)は地上で起こる奇跡を担当し、英雄や正しい行いをする人を励ます役目です。イエス・キリストが天に昇ったときに一緒にいたともいわれます。
パワーズ(Powers、能天使)は、悪魔(堕天使)の軍勢と戦い、神の秩序を守るのが役目です。悪魔と接触する機会が多いので最も堕天しやすいとされます。
【下級天使】プリンシパリティーズ・アークエンジェルス・エンジェルス
下3種類は下級天使で、上からプリンシパリティーズ・アークエンジェルス・エンジェルスです。プリンシパリティーズ(Principalities、権天使)は、地上の権力者を悪から遠ざけ、正義に従って判断できるよう導くことで、都市や国を統治する役割を持ちます。
アークエンジェルズ(Archangels、大天使)は、神のメッセージを直接人間に伝えます。階級は低いものの、天使の中で1番強い権力・能力を与えられた存在です。
エンジェルズ(Angels、天使)は、人間にとって最も身近な存在であり、悪から守り善へ導く役割を担います。大天使の配下として、さまざまな仕事を行います。下位の天使は人間に近い姿を持ち、一般的にイメージされる天使像に近づきます。
キリスト教の三大天使

多くの天使の中でもとりわけ有名なのは、ミカエル・ガブリエル・ラファエルでしょう。キリスト教では三大天使と呼ばれ、さまざまな美術作品にも登場します。見分けるためのポイントは、よく引用される聖書のエピソードや一緒に描かれるシンボルです。
戦う天使ミカエル
ミカエルは最もよく知られた天使の一人で、ユダヤ教やイスラム教にも登場します。「戦う教会」の守護者であり、『ヨハネの黙示録』の悪魔との戦いといった戦うエピソードが多いため、シンボルとして剣を持った姿でよく描かれます。
また、天上世界と人間の内面のバランスをつかさどる者として、天秤も象徴とされます。ミカエルは英語でマイケル、フランス語ではミシェルとなり、人名や教会名などにも使われています。
メッセンジャーのガブリエル
ガブリエルは受胎告知で有名な天使です。受胎告知とは、聖母マリアが神の子イエスを身ごもったとメッセージを受けたことをいいます。
洗礼者ヨハネや聖母の誕生、キリストの死と復活を告げるエピソードもあり、メッセンジャー的性格の強い天使です。世界の終わりである「最後の審判」のとき、ラッパを吹き死者をよみがえらせる役目も持っています。
シンボルは、受胎告知を象徴する白いユリや、天国を象徴するヤシの枝です。「天使ジブリール」という名前でイスラム教の聖典・コーランにも出てきます。
癒しの天使ラファエル
天使ラファエルが登場する有名なエピソードは、旧約聖書外典の『トビト記』です。ユダヤ人の青年トビア(トビトの子)が家族の問題解決のために旅立つ話で、ラファエルは同行して助け、父親トビトの目を癒やします。
他にも、悪霊に汚された土地を浄化するなどの癒しのエピソードがあり、巡礼者や旅人、若者、医療や薬に関わる人々を守護するといわれています。
天使にはさまざまな種類がある
天使といえば、「背中に翼を生やし、頭に光の輪を付けた幼子」や「柔和な微笑みを浮かべ、白い服を着た中性的な青年」といったイメージを持つ人が多いでしょう。
実際には、天使の種類はもっと幅広く、中には人の姿をしていない場合もあります。西洋美術などを通して特定の天使を探したり、天使イメージの移り変わりを調べたりすると、西洋文化の違った一面が見えてきて面白いかもしれません。
こちらの記事もおすすめ
文・構成/HugKum編集部