「歯の字が入る慣用句」って日常でどう使う?歯科医師が教える「歯にまつわる」ことわざ&有名フレーズの意味と使い方

いよいよ子どもの受験シーズンになってきましたが、ことわざや慣用句は覚えたくてもなかなか頭に入らなくて…と悩むこともあると思います。実は“歯”が関係する言葉も、少なくないのをご存じでしょうか。
今回は、歯にまつわることわざや慣用句についてまとめてみました。

“歯”が入ることわざや慣用句

歯を用いた言葉の表現は非常にたくさんあり、日常的に口に出して使っているものも少なくありません。よく使われるものを挙げてみましょう。

・歯に衣(きぬ)着せぬ。

思ったことを遠慮せず、はっきりと口に出して言うこと。

・歯が立たない。

相手が強すぎて、まったく対処できないこと。または、食べ物などが非常に硬くて噛み砕けないこと。

・奥歯に物がはさまったよう。

言いたいことをはっきりと言わずに、曖昧にもごもごしている様子。

・歯を食いしばる。

苦痛や悔しさ、無念さなどの辛い状況を懸命に我慢すること。

・歯の抜けたよう。

まばらで不揃いな様子。または、あるべきものが欠けて寂しいこと。

・歯がゆい。

物事が思い通りに進まず、じれったく、もどかしい気持ち。

・歯が浮く。

軽薄な言動を見聞きして、不快な気持ちになること。

・歯止めをかける。

物事が進行するのを抑えること。

・歯牙にもかけない。

まったく問題にせず、気にしないこと。または、無視すること。

・歯の根が合わない。

強烈な寒さや恐怖のために、震えおののく様子。

・歯切れがいい。

言葉の発し方がはっきりとしていて、意味が伝わりやすいこと。

・歯を没す。

命が尽きる、死ぬこと。

このように歯に関する言葉は様々な状況で用い、感情や精神状態、人間関係を表すものが多く存在するため、日常的な状況に合わせて適切に使い分けるようにしましょう。

“歯”が入る四字熟語

四字熟語はわずか4つの漢字から成るシンプルな言葉ですが、深い意味や教えが込められた重要な表現です。

複雑な事柄を簡潔にまとめたり、文章に格調を与えたりする効果があるため、知っておきたい言葉でもあります。

・犬馬之歯(けんばのよわい)

自分の年齢を謙遜していう言葉。「歯」は年齢を表す。

・唇歯相依(しんしそうい)

互いに頼り合って、支え合うような深い関係にあること。

・切歯腐心(せっしふしん)

激しく怒って、思い悩む様子。

・馬歯徒増(ばしとぞう)

何かを成し遂げることもなく、ただ無意味に年齢を重ねること。

・歯牙春色

朗らかに大笑いすること。

・切歯扼腕(せっしやくわん)

怒りや悔しさ、無念さなどの気持ちから、歯を食いしばり、自分の腕を強く握りしめる様子。

・唇歯輔車(しんしほしゃ)

唇歯は唇(くちびる)と歯。「輔」は頬骨、「車」は歯ぐき。相互の利害が密接で、一方が滅びれば他方も成り立たなくなるような関係を指す。

・明眸皓歯(めいぼうこうし)

瞳が澄んでおり、歯が白いこと。主に美しい女性を形容する表現。

・共為唇歯(きょういしんし)

唇と歯のように、互いに支え合うことで成り立つ関係を指す。

・咬牙切歯(こうがせっし)

歯を食いしばり、歯ぎしりをするほどにひどく悔しがる様子。

・歯牙余論(しがのよろん)

ちょっとした励ましや何気ない褒め言葉のこと。

これらのように普段の会話では用いない言葉が多いイメージですが、四字熟語は中国の古典文学に書かれた逸話がもとになった故事成語が少なくありません(切歯扼腕、明眸皓歯などがそうです)。

受験には出題されない言葉であっても、知っておくとスピーチなどで使えて知識や教養が広がりますので、必要な時に活用できるようにしておきましょう。

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歯に関係する外国の言葉あれこれ

日本や中国だけでなく、世界の多くの国々で歯を用いた特別な表現がありますので、いくつか挙げてみましょう。

・目には目を、歯には歯を。

受けた被害と同等の報復をすること。古代バビロニアのハンムラビ法典に由来する言葉。

・歯に毛が生えている。

ドイツの慣用句で、自己主張が強い人のことをいいます。ちなみに、こちらの記事では、歯と毛が無関係ではないことについて、まとめています。

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歯にまつわる、英語の独特なフレーズ

次は、英語の独特なフレーズです。

・「tooth and nail」(歯と爪)

「力いっぱい」「必死に」という意味。

・「pull teeth」(歯を引き抜く)

「武器を奪う」から「骨抜きにしてしまう」という意味。

・「toothless」(歯がない)

「非力」「歯が立たない」に似た表現。

・「to the teeth」(歯に至るまで)

「完璧に」と訳されます。

ちなみに、子どもの歯である「乳歯」ですが、英語では「baby tooth」といい、特にイギリス英語では日本語の表現と同じく「milk tooth」を用いることもあるそうです。

また、「親知らず」の歯のことを英語では「wisdom tooth」といいますが、日本語では「智歯」「知恵歯」とも呼ばれます。

wisdomは「知恵、賢さ」を意味する言葉ですから、物事の分別がつく、知恵のついた年頃に生えてくる歯という意味で、「智歯」といった名前の由来にもなっています。

このように各国々や言語圏によって歯に対する表現が多彩なのは興味深いですが、歯に対するイメージとしては共通するものがあるのではないでしょうか。 

歯は力や美の象徴

歯は噛む、食べる、話す、表情を作る、などの機能面のほかに、見た目(特に前歯)を表す象徴としての存在でもあります。

ですから、多くの言葉の表現で使用されるように、歯は力や活力、美の象徴として、心身の健康にとって不可欠な存在であるといっても過言ではないでしょう。

今回は“歯”という言葉に限定して様々な表現を取り上げましたが、歯の近くにある“唇(くちびる)”や、それらを含む“口”についても数多くの慣用句や四字熟語などがありますので、辞書やインターネットで調べてみるとおもしろいと思います。

歯を実際にイメージして頭の中に思い浮かべながら、歯牙春色の風情で楽しく言葉を覚えるのもいいかもしれませんね。

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記事監修

島谷浩幸|歯科医師・歯学博士

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

【参考資料】
・故事・ことわざ・慣用句辞典オンライン.ほか.
・四字熟語辞典オンライン.ほか.
・岸野英治編:ウィズダム和英辞典 第3版.三省堂,2019.ほか.

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