特別な子の話じゃない。不登校は今や誰にでも起こり得る現実
──小・中学校で不登校となる子どもが過去最多という現状をどのように見ていらっしゃいますか。
浜野教授 子どもの数は減っているのにも関わらず、不登校は増えている。この流れはとても深刻だと感じています。不登校というと小・中学校が注目されがちですが、実は高校でも増えています。高校には「辞める」という選択肢がありますが、義務教育の小・中学校ではそれができません。そのため、小・中学校では問題が表に出やすいのだと思います。
文部科学省の不登校数は“報告された件数”に限られ、「病欠」は含まれません。ただし病気かどうかの判断には曖昧さがあり、実態としては不登校でも病欠として扱われていることもあるようです。こうした見えない部分を含めると、実際の不登校児は公表数より多い可能性があります。
──増えている背景には、どのような要因があるのでしょうか?
浜野教授 不登校の理由は、友だち関係の悩み、学業のつまずき、先生との相性など、本当に様々です。最近は家庭環境がとても快適になり、ゲームができたり好きなときに好きなものを食べられたりと、“家の居心地のよさ”から学校へ行かない選択をする子もいます。
また、自分でも理由が分からないまま行けなくなるケースもあります。複数の要因が絡み合うため、「これが原因」と特定するのは難しいのが現状です。
ただ、近年の不登校増加には、コロナ禍が大きな転機になったと感じています。休校は一時的で影響がなかったように見えても、その後「学校で人間関係を築きにくい子が増えた」という声が多く聞かれます。オンライン中心の生活で対面コミュニケーションが難しくなり、人との関わりにハードルを感じる子どもが増えたことも、不登校の一因と考えられるでしょう。
──我が子が不登校になったときに、まず親はどのような行動をとるべきでしょうか?
浜野教授 親御さんにお伝えしたいのは、決して自分を責めないでほしいということです。
不登校は、怠けでも育て方のせいでもありません。朝になると起き上がれない、急におなかが痛くなる…そんな身体反応は、子どもが「もう無理」と伝えているサインです。

浜野教授 まずはそのメッセージを受け止め、子どもの気持ちにそっと寄り添って耳を傾けること。それが大切な第一歩になります。
また親御さんは「原因を取り除けばいいんでしょう?」と考えがちですが、不登校は一つの理由で説明できるものではありません。学校・家庭・社会、そして本人の状態など、複数の要因が重なって起こるため、「これさえ解決すれば行ける」という単純な問題ではないことを理解しておきましょう。
──最近は、学校に行けなくなった子どもを“無理に戻さなくてもいい”という考え方が広がってきているように感じますが。
浜野教授 おっしゃる通りです。2017年には「教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)」が施行され、不登校の子どもにも、その子に合った学びの場を保障するという国の姿勢が明確になりました。
不登校は特別な子だけに起こるものではなく、どの子にも起こり得るという理解も広がっています。そのため、無理に登校を促すのではなく、子どもの気持ちに寄り添いながら、安心して過ごせる場所や学び方をいっしょに探そうとする家庭も増えてきています。
家庭の関わりで育つ“非認知能力”が、最終的に子どもが自立するためのカギ
──不登校への理解が広がってきたとはいえ、親としては「学校を楽しんでほしい」という思いが残る場合もあると思います。
浜野教授 そうですね。まず意識したいのは、「子育ての最終的な目標」に目を向けることです。私はそのゴールを「子どもの自立」に置いています。進学や内定は通過点であり、その先には長い社会生活が続きます。
自立して歩むためには、日々の小さな困難に向き合い、“つまずきを克服する力”が欠かせません。家庭でこうした力を少しずつ育てていくことが、今お子さんの不登校に悩んでいるご家庭にも、将来を心配するご家庭にも役立つ視点になると思います。
最近は耳にしたことがある方も多いと思いますが、いわゆる“非認知能力”のことです。非認知能力は、テストの点数やIQといった数値で測れる「認知能力」とは異なり、数値化しにくい子どもの内面の力を指します。
具体的には、目標に向かって粘り強く取り組む忍耐力や自制心、目標への情熱、自己効力感といった「目標を達成する力」。社会性や敬意、思いやり、共感性、信頼といった「他者と協働する力」。さらに、自尊心や楽観性、自信などの「感情をコントロールする力」も含まれます。
非認知能力があれば全てが解決するわけではありませんが、これらの力が育っていると、学校で嫌なことがあったり失敗したりしても、「自分は大丈夫」「次はうまくいく」と前向きに切り替えやすくなります。

浜野教授 また、海外の調査ではありますが、OECD(経済協力開発機構)の報告書でも社会情動的スキル(非認知能力)が高い子どもほど、いじめに遭う確率が下がると示されています。つまり、非認知能力を育むことは、子どもがいじめに巻き込まれにくくなるという点でも重要だと言えます。
──好奇心や意欲も非認知能力の一つとされていますよね。非認知能力は、子どもが無気力に陥るのを防ぎ、前へ進むためのエンジンにもなるのではと考えています。
浜野教授 まさにその通りだと思います。子どもがいろいろなことに興味を持ったり、「やってみたい」という気持ちを育てたりしていくことは、学校に向かう力にもつながっていきます。文部科学省も、非認知能力を“学びに向かう力”と呼んでいて、子どもが一歩を踏み出すための土台になるものだと考えています。
──非認知能力というと幼少期に育てるものというイメージがありますが、学童期からでも育てていけるのでしょうか?
浜野教授 はい。非認知能力は幼児期に大きく伸びる力ですが、学童期や思春期からでも充分に育てていくことができます。特別な教材やトレーニングで育つというより、日々の親子のやり取りの中でこそ大きく育っていく力です。
例えば、子どもの話を途中でさえぎらずに聞くこと。失敗しても責めず、「やってみたね」と挑戦そのものを認めること。気持ちを言葉にして伝える姿を大人が見せること。こうした小さなやり取りが、子どもに「安心して挑戦できる」「自分の気持ちを大切にしていい」という感覚を育てます。
さらに、非認知能力は大人になってからも伸ばせる力であり、その変化は研究でも確認されています。育つタイミングに“早い・遅い”はありません。親自身の非認知能力が高まることは、子どもの非認知能力にも良い影響をもたらすと考えています。
非認知能力を育てるのは、日常の“質の高い体験”
──子どもの非認知能力を伸ばすために、日々の生活で取り入れたい習慣はありますか?
浜野教授 取り入れたいのは、やはり「体験」でしょう。非認知能力は座学だけでは育たず、実際に行動し、思い通りにいかない場面に向き合いながら工夫して乗り越えていくプロセスの中で育つ力だからです。
──具体的には、どのような体験をさせるとよいのでしょうか。
浜野教授 非認知能力は、特別な体験を一度しただけで一気に伸びるものではなく、日々の積み重ねの中で育まれていきます。ですから、家庭で無理なく続けられる体験を取り入れることが大切だと考えています。そうした視点から、取り入れやすく、かつ質の高い体験を5つにまとめました。
【1】五感を刺激する“身体ぐるみ”の体験
外遊びや自然の中で過ごす時間は、身体全体で環境を感じ取る「身体ぐるみ」の体験です。

寒暖差や風、土の感触、森の香りといった五感への刺激は、“自分で感じて考える力”を育てます。机上では得られない生の情報に触れることで、状況を読み取り、自ら判断して動くプロセスが生まれ、非認知能力の土台が育っていきます。
【2】ゲームやネットの疑似体験ではなく、“本物”に触れる体験
今の子どもたちはゲームやネットを通して、様々なことを“体験”できます。でも、それはあくまで画面越しの間接体験に過ぎません。だからこそ、“本物”に向き合う時間が大切になります。

博物館や美術館で実物の存在感に触れたり、工房を訪ねて職人の手仕事を間近で見たり。画面では決して伝わらない迫力や空気感が、子どもの好奇心や探究心を揺さぶり、非認知能力の育ちにつながります。
【3】小さな失敗を乗り越えながら試行錯誤する体験
何かに挑戦すれば、うまくいかないことや失敗はつきものです。その小さな壁を乗り越える経験こそが大切です。

料理でいえば、最初はリンゴの皮がむけない、野菜がうまく切れないこともありますが、大人が手を添えたりコツを伝えたりすることで、「自分にもできた」という実感が生まれます。
こうした小さな失敗と成功を行き来しながら試行錯誤する体験は、「やればできる」という自己効力感を育て、非認知能力の土台になっていきます。
【4】 家族や友だちと楽しく挑戦して何かを成し遂げる体験
一人で取り組むだけでなく、家族や友だちといっしょに楽しみながら挑戦し、何かを成し遂げる経験には大きな価値があります。

非認知能力には、協力する力やコミュニケーション力といった対人関係のスキルも含まれているからです。誰かと関わり合いながら挑戦することで、思いやりや調整力、粘り強さなどが自然と育っていきます。
【5】自分のやったことが誰かのためになる体験
家のお手伝いで喜ばれたり、地域のお祭りや高齢者施設で誰かを支えたりするなど、自分の行動が誰かの役に立つ体験には大きな意味があります。その「誰かの役に立てた」という実感は、子どもの非認知能力を育てる大切なきっかけになります。

できることから気軽に参加してみるだけでも、子どもにとって貴重な体験になります。
──今まさに不登校の渦中にいるお子さんにも、こういった体験は力になるでしょうか?
浜野教授 そう思います。ただ、不登校の時期は心がとても疲れていることが多く、どんな体験でもよいわけではありません。そのときのそのお子さんにとって無理のない小さな体験から始めることが大切です。
例えば、外向的なお子さんにはにぎやかな公園遊びや軽い集団スポーツ、キャンプなどが合うかもしれません。内向的なお子さんには、静かな場所でのんびり過ごす時間や創作活動、気分転換になる外遊びが向いていることもあります。
重要なのは、子どもの様子を丁寧に見守り、そのときの状態に合った小さな体験から始めることです。
──最後に、保護者の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
浜野教授 学校はあくまで人生の一部であって、全てを決める場所ではありません。今は、国としても「必ずしも学校に戻ることだけが正解はない」という姿勢を示し、学び方や生き方の選択肢が広がりつつあります。
どんな道を選んだとしても、非認知能力が育っていれば、子どもたちは自分のペースで未来へ歩んでいけます。子どもが自分らしく成長していけるよう、周囲の大人が焦らず、長い目で見守ることが何よりの支えになると思います。
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お話を聞いたのは…
お茶の水女子大学基幹研究院教授。専門は教育社会学と教育研究開発論。学力調査や幼児教育、非認知能力など、子どもの学びに関わる幅広いテーマを研究している。国内外の教育現場にも足を運びながら、子どもたちの成長を支える仕組みづくりに取り組む。著書に『最高の子育て』(ソシム)など。
取材・文/あゆーや


