【子どものためにとった行動が逆効果になることも】わが子が性被害に遭ってしまったとき…親にできること・してはいけないことは?専門家に聞いた

子どもの性被害は、交際相手や知人との間でも起こる可能性があります。もし子どもが被害に遭った場合、親はどのように受け止め、どのように行動すればよいのでしょうか。子どもの性被害、トラウマなどを研究している追手門学院大学心理学部教授の櫻井鼓先生に具体的な対応方法について伺いました。

「嫌だ」と言えない…身近な人間関係の延長線上に性被害が起きるケースも

ーー子どもたちの間で性的な画像や動画を送らせたり、拡散したりという事件を耳にすることがあります。気軽にやりとりできる時代だからこそ、子どもの頃からの教育が必要だと感じます。

櫻井先生 海外の研究では「同年代の知人の間で性的な画像をシェアするのが普通だと思う」と答えた子どもが全体の約3分の1にのぼるというデータがあり、日本でもそれに近い状況にあることが予想されます。ですから、とにかく「性的な画像は絶対に送らない」と伝えていくことが基本です。

令和5年の法改正によって盗撮についても厳しく罰せられるようになりましたが、性的な画像であろうとなかろうと、「本人の同意なく撮影することは許されない」と子どもの頃から教える必要があります。

ーー交際相手から、性的な画像や動画を要求されて断れないというケースもあるのではないでしょうか。

櫻井先生 そうですね。そのように「嫌だ」と言えないことの延長線上に、性的な被害が起きていると感じます。こちらが「送りたくない」「嫌だ」と言ったときに、「それなら別れる」というようなことを相手が言うなら、別れるべきだと私は思います。本当にお互いのことを大切に思う関係性であれば、嫌なことは嫌だと言えるはずです。

ーー最近は、生成AIを悪用してニセモノの画像を作る「性的ディープフェイク」も問題になっていますね。

櫻井先生 卒業アルバムの写真などから勝手に性的な画像を作成し、それを元に相手を脅すという事件もあります。そういった場合も絶対にお金を払ってはいけませんし、今後の被害を防ぐためにもすぐに警察などに相談していただきたいです。

誰にも画像を送っていないのに被害に遭う可能性も。

詳細に話を聞き出すのはNG! 子どもが性被害に遭ったとき親がすべきこと、してはいけないこと

ーーもしわが子から性被害を打ち明けられたら、親はどのように対応すればよいのでしょうか。

櫻井先生 まずは子どもを責めずに、冷静に話を聞きましょう。突然のことにショックを受けるかもしれませんが、親御さんが動揺したり、泣いたりすると、子どもが話しにくくなってしまいます。また、「自分のせいでママ(パパ)が悲しんでいる」とお子さんが自身を責めてしまうことにつながるので、避けた方がいいでしょう。

そしてもう一つ、 「誰に、何をされたか」が明らかになるように聞き、 詳細については聞き出さないようにしてください。

ーー警察に相談するためにも、詳しく聞く必要があるのかと思っていました。

櫻井先生 少し専門的な話になりますが、子どもが性犯罪や虐待に遭った場合、警察や検察、児童相談所が「司法面接」という方法で事実の聞き取りを行う場合があります。動画の撮影も行い、裁判のときに証拠として提出される可能性もあるほど重要なものです。ただ、子どもの記憶は繊細で、専門家以外の大人が話を聞きすぎると影響を受けてしまう場合があります。これを「記憶の汚染」と言います。

例えば、子どもがはじめは「右の胸を触られた」と言っていたのに、親御さんが「犯人が右手が利き手なら、左の胸なんじゃない?」と言ったことで、子どもの証言が変わってしまったことがありました。

ーー「記憶の汚染」を防ぐためにはどのように子どもの話を受け止めればよいのでしょうか。

櫻井先生 子どもが言った言葉を用いて受け止めてください。「昨日、被害に遭った」と言われたら、「昨日、被害に遭ったんだね」とそのまま受け止めてください。言い換えたり、根ほり葉ほり聞いたりするのはNGです。録音できればよいですが、難しければ子どもとのやりとりや、そのときの様子をそのまま書きとめておいていただきたいです。そして「よく打ち明けてくれたね」と伝えて、警察や関係機関に相談してください。

子どもの言葉をそのまま受け止めることが、子どもを守ることにつながる。

ーーほかにも気をつけることはありますか?

櫻井先生 性被害の場合、ときに被害者の体が証拠になります。親御さんが子どもの手を洗わせたり、うがいをさせたり、お風呂に入れさせたりということがありますが、そのようなことをすると証拠が消えてしまうため避けたほうがよいです。トイレに行く前に、下着を陰部に押し付け、そのまま紙袋に入れて捜査機関に持ち込むことも証拠となります。

ーーよかれと思った行動が証拠を消してしまうことにもつながるのですね。被害に遭った場合は、まずは警察に連絡するという形でよいのでしょうか?

櫻井先生 はい。あるいは、 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターや児童相談所など、なるべく早く専門機関に相談することが大切です。

テレビの内容や大きな音がフラッシュバックを招くことも 被害後に家庭で気をつけることは

ーーわが子が性被害に遭った後、家庭でどのように見守っていくのがよいでしょうか。

櫻井先生 性被害に遭ったお子さんの中には「夜中に急にわーっと叫ぶ」「テレビで性的な話題が流れると辛そうにしている」という変化があったと聞くことがあります。ほかにも頭痛や腹痛などの身体的な症状気持ちの落ち込みなどの心理的な症状学校に行きたがらない、遅刻が増えるなどの行動面の変化が表れる場合もあります。

親御さんにやっていただきたいのは、「家の中を安心できる場所にすること」です。気を紛らわせるために特別なことをするとか、どこかへ出かけることは、本人が希望した場合でよいと思います。

また、「トラウマリマインダー」という言葉がありますが、被害に遭った出来事を思い出しやすいものはできる限り生活から排除していくことが望ましいです。先ほどもお話ししたような事件のニュースやドラマ、大きな音、家族がお風呂上がりに裸でウロウロすることなど、リマインダーは子どもによってさまざまなので、よく子どもの様子を見て、配慮するようにしてください。

ーー声かけのポイントはありますか?

櫻井先生 子どもは被害に遭ったことについて「自分が悪い」と自身を責めたり、「世の中は危険だから、もう外を歩けない」と思い込んでしまったりすることがあります。ですから「あなたは決して悪くない」「危険なこともあるけれど、世の中には楽しいこともある」とじっくり時間をかけて話していくことも大切です。

親も傷ついている。一人で抱え込まずに相談を

ーー子どもの性被害は親にとってもショックが大きく、「この先、どうなってしまうのだろう」と不安を感じることもあると思います。親も相談できるような機関はあるのでしょうか。

櫻井先生 お子さんだけでなく親御さんも「あのとき、子どもを迎えに行っていれば被害は防げたはずだ」「私の育て方が悪かったからだ」などとご自分を責めてしまうケースもあります。でも決してそんなことはありません。

民間の被害者支援団体もあります。一人で抱え込まずに、そういったところで相談することをおすすめします。

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お話を伺ったのは

櫻井鼓先生 追手門学院大学心理学部教授

公認心理師、臨床心理士

 

警察庁長官官房給与厚生課犯罪被害者支援室、神奈川県警察本部警務部警務課被害者支援室及び生活安全部少年育成課少年相談・保護センターで常勤の心理職員として21年間勤務し、非行少年、犯罪被害者等への支援に従事した後、現職。

 

現在は、(公社)神奈川被害者支援センターの専門委員(心理)及び登録カウンセラーとして犯罪被害者等支援に携わり、横浜市学校課題解決支援事業専門家及び横浜思春期問題研究所副所長として思春期の問題に携わっている。また、性的虐待、性暴力などによる犯罪被害者等の心理鑑定、トラウマ研究に携わる。

 

日本トラウマティック・ストレス学会理事、法務省・こども家庭庁・警察庁の有識者委員。

 

著書に、『「だれにも言っちゃだめだよ」に従ってしまう子どもたち たくみに手なずける「ずるい言葉」』(WAVE出版)。共編著書に、『SNSと性被害 理解と効果的な支援のために』(誠信書房)、『性暴力被害者への支援 臨床実践の現場から』(誠信書房)がある。

この記事を書いたのは

平丸真梨子 ライター

音楽大学卒業後、出版社勤務を経て、現在はフリーライター・編集者として活動中。小学生2人の母。主に教育系、不登校への取り組み、著名人インタビューなどを執筆しています。子育ての中で感じた疑問や発見を活かしながら記事を作成することを心がけています。

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