中等部はあえて10歳から。子どもが主役のオルタナティブスクール「ヒロック」が重視する、社会とつながる学びとは?

東京を拠点に、2022年に開校したオルタナティブスクール「ヒロック」。子どもが主役となり「育ち」や「学び」を主体的に勝ちとる“自由を広げる学校”です。2025年には10歳以上を対象とした中等部がスタート。独自の学びに業界からの注目が集まっています。今回、ヒロック初等中等部 創設・運営の蓑手章吾さんと、ヒロック中等部ディレクターでシェルパ小野寺明彦さんにお話をお聞きしました。

自由を広げるオルタナティブスクール「ヒロック」

「最近、家で政治の話をするようになったんです」
「自分の考えを、以前よりしっかり伝えてくるようになりました」

そんな保護者の声が、自然と集まってくる場所があります。東京・世田谷区、渋谷区、武蔵野市を拠点とするオルタナティブスクール、ヒロック中等部です。

オルタナティブスクールとは、従来の公立・私立学校とは異なるスタイルで運営される学びの場のこと。一斉授業やテスト中心ではなく、子ども自身が「何を学ぶか」「どう過ごすか」を考えながら学んでいくことを大切にしています。

また、オルタナティブスクールでは、大人を勉強や知識を教える「教師」としてではなく、子どもの学びや育ちを支えるスタッフとして捉えることが多くあります。ヒロックでもそうした考え方を大切にしており、スタッフは「シェルパ」、子どもたちは「コゥ・ラーナー(共同学習者)」という名前で呼び合っています。

自己や社会を意識し始める10歳

「10歳くらいから、子どもたちの学び方が変わってくるんです」
そう話すのは、ヒロック初等中等部 創設・運営の蓑手章吾さんと、ヒロック中等部ディレクター・シェルパの小野寺明彦さんです。

写真右:ヒロック初等中等部 創設・運営の蓑手章吾さん 写真左:ヒロック中等部ディレクター・シェルパ小野寺明彦さん

一般的には13歳頃から中学校へ進学しますが、ヒロック では、あえて10歳からを「中等部」と位置づけています。単に知識を吸収するだけではなく、「自分はどう考えるか」「社会とどう関わるか」を意識し始める年齢。それが、ヒロックのいう“10歳”です。

実際、現場ではこんな変化が起きているといいます。小野寺さんによれば、「子どもたちの作文を見ていると、低学年の頃は『自分が何をできるようになったか』を書く子が多いんです。

でも10歳頃になると、『誰かに何かを教えた』とか、『誰かとどう関わったか』のような振り返りが増えてくるんですよね。自分と周りの関係を、少しずつ客観的に見られるようになってきていると感じています」

「割を食いやすい」3・4年生に、リーダー経験を

ヒロックが10歳で初等部と中等部を分けた背景には、異学年コミュニティならではの課題意識がありました。以前、公立学校の教師として縦割り活動にも関わっていた蓑手さんは、「高学年ほど低学年に合わせる構造」があると感じていたといいます。

公立小学校で14年間教師をしていた蓑手さん。

「異学年って、どうしても1年生が楽しめることが優先になるんですよね。でも本当は5、6年生になると世界のことを話したり、いろんな意見をぶつけ合ったりしたい年齢でもあるんです。

また、他方では、3〜4年生は『リーダーにはなれないけれど、遊びは低学年優先』という立場になりやすい。4年生くらいが、実はいちばん割を食いやすいんですよね」
そこでヒロックでは、あえて10歳で区切ることで、初等部のリーダーを4年生が担えるようにしました。

「3年生や4年生でも、リーダーシップって全然取れるんですよ。単に『まだ早い』と思われているだけで」
だからこそ、「一度リーダー経験をしてから、次の世界へ進む」ことを大切にしたい。そんな思いも、中等部設立には込められていました。

さらに、こんな言葉も口にします。「ポケモンのサトシって、10歳で冒険に出るじゃないですか」
10歳は、“小さな共同体”から、“広い世界”へ踏み出していく時期。そんな子ども観が、ヒロックの中等部には込められていました。

「正解」より、「まず作ってみる」

この日、ヒロック中等部では、探究型プログラムを手がけるタクトピア株式会社と連携したクラスが行われていました。テーマは、「君たちはどう生きるか?」。家族の困りごとを出発点に、課題解決につながるプロトタイプ(試作品)を作っていきます。

家族へのインタビューを行い「誰が、何に困っているのか」を掘り下げながら、それぞれの形で「誰かのため」を考えていきます。そこで大切にされていたのが、「最初から完璧を目指さない」ことでした。まずは作ってみる。実際に形にしながら改善していく。そんな“試しながら考える”姿勢が、クラス全体を通して共有されていました。

そしてこの日は、各自が作成したプロトタイプを、保護者や外部の教育関係者を招いて発表する最終発表会でした。

睡眠に悩みを抱える家族のために、耳がすっぽり隠れる防音枕を提案。資料は大人顔負けの仕上がり。

「今日の目的は、プロトタイプ第1号について発表し、フィードバックを集めることです」
そんな声かけとともに始まった最終発表会は、“お祭りの屋台”のような雰囲気。教室には11のブースが並び、子どもたちは来場者に向けて、自作のプロトタイプを説明していきます。来場者は付箋に「いいね」と「もっと良くなりそうな点」を書き込み、子どもたちはその反応を受け取りながら、さらにアイデアを深めていました。

印象的だったのは、子どもたちが「答えのない問い」に真正面から向き合っていたことです。掃除ロボットを考案した子は、「台所を通るなら、このサイズでいいのか」「持ち運べる重さにした方がいいのか」と悩みながら説明したり、眠くなる飲み物を考案した子は、自宅で実際に調合した試作品を来場者に振る舞って感想を聞いたり。完成品ではないからこそ、子どもたちの“考えている途中”が見えてくる。そんな時間でした。

こちらは渋滞に困る家族のために、渋滞情報をキャッチする機械のプロトタイプ。

発表後には、一連の学びを振り返る時間も設けられました。子どもたちは、「誰の困りごとに向き合ったのか」「なぜそれを作ろうと思ったのか」を言葉にしながら、自分自身の興味や価値観を見つめ直していきます。

単に作品を作って終わるのではなく、学びを「自分はどう生きたいか」という問いへつなげていく。そこにも、ヒロック中等部らしい探究の姿勢が表れていました。

「学校独自ルール」を減らす

ヒロック中等部の特徴をひとことで言うなら、「学校を社会から切り離さないこと」かもしれません。蓑手さんは、「学校独自のルールって結構あるじゃないですか。でもヒロックは、“社会の中の一つの場”という感覚なんです」と話します。

そのため、ヒロックでは「学校だからこうする」という決まりをできるだけ増やさず、子どもたち自身が考えて行動できる環境づくりを意識しているといいます。

たとえば、固定の休み時間はありません。各自が休みたいときに休み、お菓子を食べる時間も自分で考える。必要なのは、「今どう行動するか」を自分で判断することです。

子どもたちの工夫が見られる部員募集の張り紙。

週に一度ある「自在」の時間にも、ヒロック中等部らしい考え方が表れています。初等部では「自由」と呼んでいた時間を、中等部ではあえて「自在」という名前に変更しました。

小野寺さんは、「“自由”だと、どうしても自由奔放になりやすい部分もある」と話します。「何でもあり、好き勝手、ということではなく、“自由自在”の“自在”という感覚です」

どこへ行くのか、何をするのかを、自分たちで考え、選び、行動する。ただ自由に過ごすだけではなく、自分自身をコントロールしながら社会の中で動いていく感覚を育てていく——。そんな思いが、「自在」という言葉には込められています。

「世界と自己」の視点で新聞を読む

中等部独自のプログラムに、「世界と自己」という時間があります。毎日、子ども新聞を読みながら、「なぜ戦争は起きるんだろう」「どうして意見が分かれるんだろう」と、気になったニュースについて考え、話し合い、調べ、共有していきます。

小野寺さんは、子どもたちに一つの正解を教えるのではなく「違う視点があることに触れる」ことを大切にしていると話します。

「私たち大人側も、できるだけ複数の意見を持ちながら関わるようにしています。『自分は今こう思っているけれど、別の考え方もあるよね』ということに触れてほしいんです」

大人が正解を押し付けず、違う視点があることを伝えている。

蓑手さんは、「哲学者の苫野一徳さんがおっしゃっている“自由の相互承認”がベースになっている」と話します。
「嫌なことは『嫌だ』って言っていいし、それは尊重されるべきなんですよね。でも同時に、自分の自由だけを通せばいいわけでもない。相手にも自由があるので」

だからこそヒロックでは、「こうするべき」「こう考えるべき」と、大人が一つの正解へ導くような関わり方を、できるだけ避けているといいます。

「好き」が社会につながる瞬間

子どもたちの探究は、ときに思いがけない形で社会とつながっていきます。ヒロックには、子どもたちが自らの興味・関心のあるテーマを設定し、とことん探究してアウトプットにつなげる「マイプロジェクト」という時間があります。以前、ある子が取り組んだのは、駄菓子の「蒲焼さん太郎」を自分で作るというものでした。

小野寺さんは、「『蒲焼さん太郎っておいしいから、自分で作れないかな』というところから始まったんです」と振り返ります。

その子は試行錯誤を重ねながら、自分なりに味を再現。完成したものを発表会で保護者たちに試食してもらうと、会場から思わぬ反応が起きたといいます。

「『え、すごい』『ちゃんと蒲焼さん太郎だ!』って、保護者の方たちがすごく盛り上がって」
さらに、「もっと作ってほしい」と、その場で自然と寄付が集まり始めました。

その後、その子はオンライン発表なども行いながら活動を継続。最終的には1万円ほどの収益につながり、そのお金でノンフライヤーを購入。さらに探究を続けているといいます。

「問いを持ち続けられる子」に

もちろん、ヒロック中等部にも、「その先の進路をどうするのか」という問いはあります。中等部ができて2年。小野寺さんは、「未開拓な部分も多く、今は走りながら考えている段階です」と率直に語ります。

実際、中学受験を選ぶ家庭もあり、それぞれの価値観に合わせて進路を模索している最中だといいます。蓑手さんは、「東京の一部では、“中学受験をしないの? ”という空気が当たり前になっている」と、受験を前提とした教育環境への違和感も口にします。

だからこそヒロックでは、「どの進路を選ぶか」だけではなく、「自分はどう生きたいのか」を考え続けることを大切にしています

今子どもたちは、「正解を早く出せる力」を求められがちです。けれどヒロックが大切にしているのは、すぐに答えを出すことではありません。「なぜそう思うのか」を考え続けること。社会と関わりながら、「自分はどう生きたいのか」を問い続けること。ヒロック中等部の学びには、そんな願いが込められていました。

この記事を書いたのは

長島ともこ フリーライター・エディター

フリーライター・エディター、認定子育てアドバイザー。教育、子育て、PTAなどの分野で取材・執筆、企画編集を行う。著書に『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』(厚有出版)など。All About「子育て・PTA情報」ガイド。2025年7月、PTAを取り巻く環境をより良くすることを目的に「PTA・保護者組織を考える会」を共同代表として立ち上げ。対話の場の創出や、PTAオンライン相談窓口の運営を通じ、保護者が無理なく楽しく関われる「これからのPTA」の形を模索・発信している。

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