【不登校の悩みをAIへ相談】兵庫県三田市で不登校児向けに「対話AI」を実証研究。子どもがAIに話したこと、“AI依存”のリスクなど大阪教育大学の研究者に訊いた

ChatGPTなどの生成AIが身近になり、子どもたちがAIに質問をしたり、悩みを打ち明けたりする機会が増えてきています。兵庫県三田市では、子どもたちがAIキャラクターと対話する「MIRAIノートプロジェクト」を実施しました。子どもたちはAIになにを語り、どのような反応を見せたのでしょうか。

プロジェクトに携わった大阪教育大学・産官学イノベーション共創センター理数情報系の仲矢教授に、子どもたちの様子と、AIを相談相手にするメリットや注意点について伺いました。

「子ども向け対話AI」キャラクターモデルは元不登校の先輩たち

――兵庫県三田市で実施された子どものAI対話アプリ「MIRAIノートプロジェクト」は、どのような経緯から生まれたのでしょうか?

仲矢先生:もともとは「ICTを活用して、不登校の子どもたちを支援できないか」というところから始まったプロジェクトです。最初からAIの活用を考えていたわけではありませんでした。

当初構想していたのは、VRを使った仮想空間です。家にいながら参加でき、だれかと話したり交流したりできる。そんな「新しい居場所」をつくれないかと考えていたんです。
ただ、仮想空間自体をつくることは簡単にできても、そこに24時間、人が常駐するのは現実的ではありません。

そのような中で、生成AIが急速に普及し始めました。AIであれば、時間を問わず子どもの話を聞く対話相手になれるのではないか――。その発想から、AIを活用した対話アプリ「MIRAIノート」が生まれたのです。

兵庫県三田市の子ども向け対話AI「MIRAIノート」

――そこからAIキャラクターが生まれたのですね。

仲矢先生:はい。ただ、実際に子どもと対話するAI自体にどのような人格を持たせるのかが重要でした。そこで不登校支援の先生方に話を聞くと、少し年上の先輩の実体験を聞くことが、子どもたちの変化につながると教えてくれたのです。

たとえば、「私も不登校だったけれど、なんとかなるよ」「卒業後もいろいろな道があるよ」とちょっと上の先輩から聞くことで、自分の将来にもさまざまな選択肢があると気づくことができる。年齢の近いロールモデルの存在が、前を向くきっかけになるんですよね。

「自由を愛するお兄さん」や「いつもニッコリな小学校の優しい保健の先生」など、8人のキャラクターから好きな相手を選んで会話が可能

――実際に不登校を経験した方が、AIキャラクターのモデルになっているとは驚きます!

仲矢先生:そうなんです。不登校を経験した方たちにインタビューを行い、個人情報を取り除いたうえで、その内容を生成AIのシステムに取り入れました。こうして、実際の不登校経験をもとに、それぞれ異なる人格を持つAIキャラクターを作ったんです。子どもたちは8人の中から話したい相手を選び、いつでも対話できるようになりました。

「いじめ」「学校がつらい」だけじゃない。AIに話していた驚くほど“他愛のないこと”とは

――子どもがAIに相談すると聞くと、いじめや学校生活など、人には言いにくい深刻な悩みを打ち明けるイメージがあります。実際には、どのようなことを話していたのでしょうか?

仲矢先生:じつは、他愛のない話が多いんです。「勉強ってどうやったらいい?」「友達にこう伝えたいんだけど、もっといい言い方はない?」といった質問もあれば、テレビ番組や漫画、お菓子の話もする。なかには、「みんなはこのキャラクターが好きだけど、私はこれが好きなんだよね」といった、ちょっとマニアックな話にも付き合ってくれます。

――「人に話せないこと」というと、深刻な悩みを想像しがちですが、そうとはかぎらないのですね。

仲矢先生:そうなんです。悩みが深刻だから話せないのではなく、好きなものについて話が合う相手が周りにいないから、話せないこともあります。生成AIなら、どんな話にも付き合える。それがひとつの強みだと思います。

――AIとの対話を通して、子どもたちにどのような変化がありましたか?

仲矢先生:自分が面白いと思うものをだれかと共有したり、感想を伝え合ったりする。そんな何気ない会話が、子どもたちの気持ちを明るくしていきました。実際に、心の状態を調べたところ、事前・事後の質問紙では、レジリエンス(心の回復力)や楽観性に関する一部の指標に変化が見られています。

子どもにAIを使わせて大丈夫? 「人間とAIの区別」と「時間のルール」

――AIには子どもの相談相手になれる可能性がある一方で、家庭で使わせることに不安を感じる保護者もいるでしょう。わが子が生成AIを使ってもよいか、どう判断すればいいのでしょうか。

仲矢先生:今回の実践では、年齢や学年よりも、話している相手が人間なのか、AIなのかを区別できるかどうかが重要なポイントだと感じました。人間のように会話するAIを、本当に人間だと思ってしまう段階では、まだ慎重になったほうがよいですが、一方で「どうせ機械でしょ」と言えるような子なら、AIが人間ではないことが理解できているんです。

――「人間とAIを区別できるか」は、そのほか日常の中でどのようなところからわかりますか?

仲矢先生:たとえば、テーマパークのキャラクターを見て、「着ぐるみの中には人が入っている」と理解できるかどうかです。テレビやアニメのキャラクターも、本当にその人物が存在しているように捉える時期がありますよね。そうした現実とフィクションの境界がまだ曖昧なうちは、生成AIとの対話には慎重になる必要があると今回感じました。

AI依存のサインは? MIRAIノートでは「1日40分以内」に

――AIを使いすぎたり、依存したりすることも心配です。AIとの対話は、依存につながる可能性もあるのでしょうか。

仲矢先生AIへの過度な依存につながる可能性があります。その理由のひとつが、いつでも、どれだけでも会話を続けられてしまうためです。人間なら、疲れたら「今日はもう寝よう」と会話を終えますよね。でもAIは、基本的に24時間いつでも応答してくれる。こうした際限なく対話できる特性には注意が必要です。

――わが子が依存しているかもしれない…と気づくためのサインはありますか?

仲矢先生:依存に共通する特徴のひとつは、それに触れられない時間ができたときに、強いストレスを感じることです。AIが使えないとイライラする、もやもやする、不安そうになる。そのような様子が見られたら、注意したほうがいいですね。

――AIの利用時間を決めておくことも大切になりそうですね。

仲矢先生:そうですね。長すぎると集中が続きませんし、短すぎても物足りなくなります。MIRAIノートプロジェクトでは、学校の授業時間と同じくらいの30〜40分程度をひとつの区切りとしていました。

これからは言わば“沼らせるAI”にも要注意!育てていきたい「見極める力」

――AIを使ったサービスがこれからさらに増えていく中で、保護者が知っておいたほうがよいことはありますか?

仲矢先生:これからは、ユーザーを夢中にさせ、長時間使わせることを目的としたAIが出てくる可能性にも注意が必要だと思います。

AIそのものを作るハードルは、以前よりずっと下がっています。たとえば恋愛ゲーム型のAIなら、ひとりひとりの好みに合わせて楽しませ、離れそうになったら絶妙なタイミングで引き戻すような応答をする。そんなふうに、ユーザーが離れにくくなる仕組みを持ったAIも技術的には作れます。まさに、いわば「人を沼らせるAI」ですね。

――そうしたAIから子どもを守るために、保護者はどのようにかかわっていけばよいのでしょうか。

仲矢先生:大切なのは、子ども自身が「これはちょっと危ない」と気づき、見極める力を育てていくことです。ただし、大人が「危ないからやめなさい」と禁止するだけでは、子どもも納得できませんよね。

なぜ危ないのか、生成AIでどのような恐れがあるのか。便利さだけでなく、その裏にあるリスクも伝えていくことが大切です。これからは、AIを使いこなすだけでなく、「これは安全なのか」と立ち止まって考えられる力も、あわせて育てていく必要があるのではないでしょうか。

AI時代だからこそまずは大人も「知る」ことから

――最後に、これからAIと共に生きる子どもたちと、その保護者へメッセージをお願いします。

仲矢先生:AIは、すでに子どもたちにも身近なものになりつつあります。だからこそ、ぜひ親御さん自身も一度使ってみてください。そして、子どもにどう使わせればいいのか迷ったときには、「子どもがAIを使うとき、なにに気をつければいい?」と、AIに聞いてみるのもいいでしょう。内容が難しければ、「高校生にもわかるように教えて」と頼めば、かみ砕いて説明してくれます。

大切なのは、大人も実際に使いながら、AIになにができて、どんなリスクがあるのかを知ることです。子どもたちは、これからAIと共に生きていきます。AIに振り回されず、必要なときに上手に活用する力を、親子で一緒に育てていってもらえたらと思います。

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お話を伺ったのは

仲矢 史雄先生 大阪教育大学 産官学イノベーション共創センター 理数情報系教授

大阪教育大学・産官学イノベーション共創センター理数情報系教授。博士(理学)。科学教育を専門とし、ICTを活用した教育や教材・教育システムの研究開発に取り組む。兵庫県三田市と大阪教育大学による「MIRAIノートプロジェクト」では、生成AIを活用した子どもたちとの対話について実証研究に携わる。

この記事を書いたのは

牧野未衣菜 ライター

子育てや教育分野を中心に取材・執筆。また、認定NPO法人で、不登校やさまざまな困難を抱える子どもたちと関わっています。2児の母としての子育ての実感も重ねながら、日々の悩みや、子育てのリアルな声を丁寧にすくい上げ、やさしく伝える記事づくりを心がけています。

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