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1年生のときは「漢字を覚えるのが楽しかった」のに…
――漢字を覚えるには、ひたすら何度も書くしかない、とばかりに、学校や塾から漢字を何度も書く宿題が出ます。子どもたちは「やらなければならないから」と書き写し、暗記するのですが、義務感でやっているようで……。
小原先生 漢字を機械的に何度も書き写していると、勉強する楽しさを感じられず、漢字を覚えることがイヤで、苦手になってしまう、というデメリットがあります。
国が決めた常用漢字表には2,136字の漢字があります。 小学校で1,026字、中学校から高等学校で1,110字が示されます。小学生の場合、それぞれの学年で覚える漢字の数は表のとおりです。

小原先生 小学校1年生のときは、きっと楽しく漢字を学んでいたと思うんです。なぜなら、覚える80の漢字は、象形文字(ものの形をかたどって描かれた文字)が多いからです。「山」の字は真ん中が高い山の形を表し、「川」の字は川の水が流れている様子を感じさせますから、覚えやすいですよね。訓読みのある漢字が多く、日頃よく使う言葉も多いため、漢字の意味もわかりやすいです。

小原先生 ところが、学年が上がるにつれて、「音読み」しか学習しない漢字の割合が増えます。小学校5・6年生では半分以上。音読みは、もとは中国音で、日本語としての意味はわかりません。したがって、意味がわからないままに漢字をひたすら書いて覚えて暗記する学び方となり、苦行となって、漢字嫌いが生まれがちです。
「画数が多くなってくる」とますます覚えるのが難しい…
――学年が上がるにつれて画数も多くなりますし、似たような漢字が学年をまたいで出てくるので、覚えにくくなる、というのもあるようです。
小原先生 「各(4年生)・客(3年生)」「義(5年生)・議(4年生)」「召・昭(3年生)・招(5年生)・沼・紹」などですよね。「召・昭・招」を一緒の時期に覚えたら、違いに注目しながら覚えられるということも、確かにありそうです。でも、小学校では学年別の教育漢字配当表に沿って漢字を教育することになっており、教育漢字配当表が大きく見直されない限り、学年ごとに学ぶ漢字の種類は変わりません。
――やはり丸暗記するしか方法はないのでしょうか。
小原先生 学年が上がるにつれ、画数の多い漢字の割合が増えますが、「形声文字」も圧倒的に多くなります。実は、80字を学習すればよい小学校1年生では、形声文字が2割にも満たないのですが、倍の160字を学習することになる小学校2年生の時点で「形声文字」がおよそ4割を超え、一気に増えます。

画数が多くても「形声文字」だと意味を考えれば覚えやすい
小原先生 「形声文字」とは意味を示す部首(意符)と音を示す部首(音符)を組み合わせて文字がつくられているものです。画数は多くなりますが、意符と音符のそれぞれの意味を考え合わせるとわかりやすくなるものもあるのです。小学校3年生以降も、「形声文字」はどんどん増えていきます。

小原先生 たとえば、2年生の配当表を見てみましょう。漢字の中で、「偏(へん)」が意符、「旁(つくり)」が音符となっているものとして、上から5段目の真ん中の少し右あたりに「晴」があります。小学校1年生で学習する「あお=青・セイ」を「旁(つくり)」に持ち、左側の偏が「日」ですね。

「青」は「セイ」という音を表すだけではなく、「あお」という色が持つ「澄み切った色合い」という意味も表しています。「青空」「青い海」の「あお」をイメージするとわかりやすいですね。そして、偏は「日」で太陽や時間、明るさを表しています。この2つを組み合わせて考えれば、「晴」という字は、澄み切った空で太陽が輝いている「はれ・はれる」という意味、すなわち「訓読み」への理解がスムーズになり、「晴」という漢字を覚えやすくなるわけです。
同じように「青」を「旁(つくり)」に持ち、これを「セイ」という音符で読ませる字として、「清(4年生)・精(5年生)」もあります。
「清」の偏の「さんずい」は、水や液体を表していますから、「清」の字は澄み切った水、あるいは澄み切った水のようにきれいでにごりのない状態で、「きよい・きよらか」という意味を持つことにつながります。

「精」の「こめへん」は、実った稲穂をかたどった象形文字だとする説があり、「こめ」や「穀物」という意味を持つ部首です。「精」は、「米」と澄み切った色合いを表す「青」で、「玄米をついて澄み切った白米にする」ことから「しらげる」という意味を持つのが、「精米」の「精」です。
これをもとにすれば「混じり気を取ってきれいにする」(精肉・精油)、「えりすぐる」(精鋭・精選)、また、余分なものを取り除いた核となるものを抽出していくことから「こまかい・くわしい」(精密・精読)といった具合に、意味が広がるわけです。
「澄み切った核となる部分」ということを、人間の心に広げたのが、「精神・精魂」や「もっぱらにする」(精一杯・精進)です。
どうですか、「精」のもつ多彩な意味が、「米」と「青」からつながっていることを理解していただけたのではないでしょうか。

偏と旁、意符と音符の関係から漢字の成り立ちを考えていくと、その漢字が表している意味がよくわかります。単なる丸暗記ではなく、漢字に親しみながら覚えていくには、「漢字の成り立ちに思いをはせる」ということに尽きるかと思います。
「貴」という字の意味を考えれば「遺」の使い方も理解できる
――なるほど! 意味を理解していれば、「せい読」という問題で「せい」に文字を入れるときに「生」とか「政」とかを入れることなく、「晴」でも「清」でもなく「精」だな、とヒントになるのですね。ほかにも例がありますか?
小原先生 「貴重品」の「貴」は、小学校6年生で「キ」の音読みとして習います。「貴」の上の部分は「両手で人に物を贈っているさま」をかたどったもので、下の「貝」ですが、「貨幣」のなかった昔は貝が「貨幣」や「宝物」の代わりを果たしていました。したがって、「貴」には、中学校で学習する「たっとい・とうとい・たっとぶ・とうとぶ」という訓読みが存在するわけです。

「貴」を音符に持つ「遺」という漢字を6年生で学習します。「貴(キ)」と「遺(イ)」とで音が異なっていますが、1,000年以上も前に中国から渡ってきた漢字音ですので、多少のズレはしょうがないのです。
さて、「遺」という漢字は「失う・なくす」と「残す・残る」という、真逆の意味を持ち合わせているのですが、どうしてでしょうか。
「⻌(しんにょう)」は「道を行く・歩く・道」という意味を持つ部首です。したがって、「遺」という漢字は、「貨幣や宝物といった貴重品を、道を使って運ぶ=贈り物を届ける⇒贈り物が自分の手元からなくなる=失う・なくす」という意味を持ち、そこから派生して「忘れる(遺失物)・すてる(遺棄)」という意味に広がりました。
一方で、「贈り物を届ける⇒相手に贈り物を残す・相手に贈り物が残る=残す・残る(遺産・遺族・遺品)」という意味も持つわけです。「遺」という漢字が、「失う・なくす」と「残す・残る」という、真逆の意味を持ち合わせている謎が、漢字の成り立ちから紐解けましたね。

「漢字の成り立ち」を書籍や辞典で知ると興味が深まる
――ひとつひとつ、漢字についての成り立ちを考えながら学ぶと、「へえ! 面白い」と思い、覚えやすいですね。
小原先生 ただし、漢字は3,000年以上も前、しかも外国である中国で生まれ、5万字を超えるまでの数に至っていますので、現代の私たちが「漢字の成り立ち」のすべてを理解できるはずはありません。また、語り継がれ、書き継がれている間に例外もたくさん生まれていますから、すべてがしっかりとした法則に則っているわけでもありません。
それでも、漢字の「成り立ち」がわかるものは、大人が教えてあげることで、子どもたちにとってその漢字がグッと身近になることは確かです。手前味噌ですが、私が書いた『漢字の教科書』は、そのような漢字の成り立ちにも注目し、「漢字の謎解き」に興味を持ってもらえるように工夫しました。親子で学ぶ「漢字学習の手ほどき」、「漢字を学習する際の視点」をアドバイスするという観点で書かせてもらったものです。
「成り立ち」がわかる漢字は、古代の人が漢字に託した思いを想像し、意味のある文字として頭に入りやすくなります。私の本を保護者の方が読んで、お子さんにわかりやすく伝えてあげると、お子さんの漢字に対する興味がわくと思います。「この漢字は、どうしてこういう意味なんだろう? 漢和辞典を引いてみよう!」という会話が親子で交わされると素敵だなと思います。
また、お子さんひとりでも読みやすい漢字辞典などがあると、漢字に興味を持つのではないでしょうか。漢字の書き方や意味がわからないときに見るのもいいですし、わかりやすくイラストがたくさん入っているものなどは、ひとりで読んでも楽しいかもしれません。
――丸暗記でなく、漢字の形や音に注目して、「この漢字って、こういうふうに生まれたんだね!」「だからこう使うんだね!」と、親子で漢字に親しめるといいですね!
お話を聞いたのは
1967年生まれ。千葉県出身。千葉大学で恩師と出会い、漢文の道に進むことを決意。千葉大学と早稲田大学の大学院を修了し、教育学と文学の2つの修士号を持つ。授業を受け持った駒場東邦の生徒たちからは、そのわかりやすさから「漢文ネイティブ」の異名を授けられる。2009年よりNHKラジオ「高校講座古典」の漢文を担当(現在は「古典探究」ラジオ第2・Eテレ)。2010年より東京書籍の国語教科書の編集委員。また、信州大学で年に2回、ゲストティーチャーとして「漢文学基礎」の特別授業を担当。漢字・漢文の魅力を広める伝道師となることを目指し、研鑽中。著書に『一度読んだら絶対忘れない 漢字の教科書』(SBクリエイティブ)
累計150万部突破シリーズ最新刊!4つのステップで読み解く新感覚の漢字の教科書!
漢字の勉強といえば、面倒臭く無味乾燥なつまらない学習というイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか? 実際、現在の小学校・中学校の漢字教育は、「ひたすら読み書きを覚える学習」が中心です。
「常用漢字表」をもとに行われている学校の漢字教育には、じつはいくつか問題点があります。それが、多くの人が漢字の勉強を「無味乾燥な丸暗記作業」だととらえてしまう原因になっているのです。
そこで本書では、屈指の進学校として知られる駒場東邦高校の国語教師が、面白くてためになる漢字の学び方を解説!小学生や中学生はもちろん、学び直しの大人まで必読の一冊です!
この記事を書いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)
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