保育者歴46年の柴田愛子先生に聞く「子どもの気持ちとおかあさんの気持ちは、なぜすれ違うの?」

今回は、保育者として46年も子どもの姿に寄り添い、子どもたちの集まる場「りんごの木」を主宰する柴田愛子先生の著書『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』より、先生なりの「しつけ」への思いを語っていただきました。

子どもの気持ちとおかあさんの気持ちは、なぜすれ違うの?

よくある「表裏のあるお母さん」の姿

銀行の窓口でのことです。いすに腰かけて、順番を待っていました。
私の前のいすに、母親と4歳ぐらいの男の子が腰かけ、まだ1歳未満の子がバギーに乗っていました。
おにいちゃんは、とっても行儀よく座っていました。が、なかなか順番がきません。
とうとう、「まだかなあ、まだかなあ」と、男の子が言うと、「黙っていなさい! こんど言ったら、ぶつよ!」と、小さな声ではあるけれど怖い返事が、おかあさんから返ってきました。
もう、じっと座っているつらさに耐えられなくなった子どもは、バギーの弟に向かって、
「もうすぐだからね」と、言いました。それは、弟に言うことでなんとか自分を制しているように見えます。
「あー、ほんとに遅いわ、この子よく静かに待っているわ。それにしても『ぶつよ!』のひとことはすごいなあ」と、ちょっとその子がかわいそうに思いました。この場が走り回っていいところではないし、おとなしくしていてほしいから「こういう言い方しかないのかなあ」と、ちょっと考えていました。
「あ! ○○ちゃんだあ」と、男の子が言いました。同じ幼稚園のお友だちを見つけたようです。おかあさんは、わざわざいすから立って「こんにちは」と挨拶をしました。
友だちとその妹がやってきました。元気なやんちゃ兄妹です。おかあさんはにこにこ顔で「なんていう名前なの?」と、妹に聞きました。さっきまでの声とは違う声で話します。友だちの男の子は、なんと、銀行のいすの前で横転をしはじめました。妹は、ぴょんぴょんと跳ねています。それを見た男の子は、一緒にやっても大丈夫かなあとおかあさんの顔色を見ながら体を動かしはじめました。
さぁ、どうするかと、私は興味しんしん。すると、おかあさんは、
「あのね、ここでは、そんなことしたら迷惑でしょ。だから、静かにしてね」と、ちゃんと言い聞かせたのです。
「言えるじゃない、普通に!」と、私は感心しました。
ATMの列に並んでいる友だちのおかあさんが「こっちにきなさい!」と、言うと「大丈夫よ。見ていますから」
なんと、模範的ないいおかあさんでした。でも、こういう光景はよくありますよね。みなさんは、どうでしょうか?

表の顔と裏の顔が違った親になっていませんか

やさしい、いいおかあさんの印象しかない人が、家の中では、すごいどなり声をあげているのはよくあることかもしれません。
でも、銀行で「ぶつよ!」と、脅迫されるようにして静かにしていた子どもの気持ちになってみると、なんだか、「親ってそんなものよ」とは言いにくいです。
表の顔と裏の顔がはっきりと違うんです。それを4歳の子どもはどんなふうに受け止めるのでしょう。
「おかあさんは、ぼくにはいうことをきかせようとするし、いいこにしていないとぶたれちゃう。けど、ほかのこにはやさしいんだ」
「ぼくのこと、きらいなのかなあ」


私は、親が自分のことを嫌いじゃないかとか、私を愛していないのではないかとかいう不安はもったことがありません。もちろん、兄姉がいっぱいいましたから、私より兄のほうがかわいいんだろうとか「おかあさん、おにいちゃんのことひいきしてる」なんて言って親を困らせたこともあります。でも、そのぐらいでした。今、思い出すと、遠足の前の日、夜遅くまで私のスカートを縫ってくれていたことや、学校に行く前になると必ずおなかが痛くなってしまう私の髪をだまってすいてくれていた母の姿が、私を愛してくれている証しとして伝わっていたように思います。

表と裏の差が少ないほど気楽に生きられます

この男の子も、「ぶつよ!」が、「きらいなのかなあ」にならないような、そんなの気にならないほどの日常の中での、母親の愛情が伝わることがあるといいなあと、思いました。
それと、どうして、こんなに表と裏がある子育てをする人たちが多くなったのかも、疑問を感じます。親が内と外で態度を変えるということは、子どもだってそうなるということです。
もちろん、これは、限度の問題で、まるっきり同じなんて人間はいないわけですし、家はリラックスできる場所として肩肘をはらないことが大事ではあります。ただ、外で立派にすればするほど、無理が生じて内では横暴になるということはあるでしょう。そして、犠牲になるのは子どもです。
表と裏の差が少ないほど気楽に生きられると、私は思っています。
みなさんも、ちょっと勇気を出して、どこでもまるだしの自分をやってみませんか?

 

 

柴田愛子
1948年、東京生まれ。私立幼稚園に5年勤務したが多様な教育方法に混乱して退職。OLを体験してみたが、子どもの魅力がすてられず再度別の私立幼稚園に5年勤務。1982年、「子どもの心により添う」を基本姿勢とした「りんごの木」を発足。子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えながら、‘子どもとおとなの気持ちのいい関係づくり’をめざしている。保育、講演、執筆、絵本作りと様々な子どもの分野で活動中。『それって、保育の常識ですか?』(鈴木出版)、『親と子のいい関係』(りんごの木出版)、絵本『けんかのきもち』(ポプラ社・第7回日本絵本大賞受賞)など著書多数。
りんごの木HP http://ringono-ki.org/index.html

 

もっと柴田愛子先生のことばを読みたい人はこちら

子育てに悩んでいるあなたへ あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます
著/柴田愛子(小学館)
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こうなって欲しい、こうあるべき、に縛られている苦しい子育てをしていませんか?
「どう育ってほしいか」の前に「目の前の子どもがどう育っているか」を見てほしい。子どもはちゃんと自分で育つ力を持っていることを確信できるはず。それは、お母さんが本来の自分を取り戻すことにつながっていくから。
保育者として、30年以上子どもたちと関わってきた柴田愛子さんが語る「子どもの心に寄り添うと、子どもの気持ちが見えてくる」を信条にした子育て論は、きっとお母さんの心を元気にします。

写真/繁延あづさ 再構成/HugKum編集部

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