日本の保育実践を研究する東洋大学ライフデザイン学部准教授の高山静子先生が案内する、豊かな保育環境の世界。
「乳幼児期の子どもは、環境に働きかけ、遊びという形で、何ども同じ行為を繰り返すことによって、環境の性質を理解し、環境に合わせて能力を獲得します。そのため、幼稚園・保育園・認定子ども園では、子どもたちが自発的に環境とかかわりをもち、豊かな学びを得ることができるように環境を構成します」(高山静子先生)
子どもたちの学びを支える環境づくりに取り組む、先進的な保育園、幼稚園、こども園をご紹介します!
オルト保育園(東京・新宿区)
調和した色彩環境
東京のオルト保育園は、イタリアのレッジョ・エミリアの保育を学び、園舎設計やデザイン、家具、保育の内容に取り入れています。色彩と光を環境構成にうまく用いて、淡い緑や黄色、水色、オレンジ、クリーム色など、いわゆるニュアンスカラーがグラデーションで配色されています。そのため、明るく洗練され、なおかつ心地よい雰囲気をつくり出しています。
子どもの感性は、乳幼児期に多様な色と美しい色の組み合わせに出会うことで育ちます。
また、色彩のセンスは、8歳頃までに見ていた色彩に強い影響を受けるといいます。
原色ばかりを目にする子どもは、味の濃い限られた食品をくり返し食べるようなもの。わずか、ほのか、かすかに気づく豊かな感性を育てたいものです。
イタリア語で「菜園」を意味するオルト保育園では、その名前にちなんで、保育室も「ひ」「みず」「つち」と名付けられ、植物の育ちをテーマに繊細な色のグラデーションで家具などを配置しています。
そして、感性を育てる環境としてもうひとつ注目したいのが、アトリエと美術専門家の存在です。
アトリエに並ぶ素材と道具の充実度には目を見張るものがあり、子どもたちがいつでも創作活動に取り組める環境が整えられています。作品の展示手法にも工夫が見られ、作品が完成するまでのプロセスを追ったドキュメンテーションからは、子どもたちの発見や驚きが、伝わります。
芸術の専門家の力を借りることで、多様な経験を子どもたちに保障し、保育者も新たな視点やヒントを得ることができます。
オルト保育園の特徴は、多職種のコラボレーションによる環境構成ということができます。
子供の創造を引き立てる調和した色彩空間
窓ガラスに施された淡いカラーに注目
自然光がやさしく降り注ぐ、3・4歳児のためのランチルーム「トラットリア」。
色彩のグラデーションと曲線の流れが心地よい
園の中心にある広場(ホール)から玄関へ向かう廊下。
吹き抜けからの自然光とスロープの色が調和
広場を囲む螺旋のスロープは、3階までのすべての室内をつないでいます。
菜園に入るための長靴の色にもセンスあり
テラスの菜園入り口に並ぶ長靴。ちょっとしたことだけれど、色彩のセンスが光ります。
クラスのテーマで、空間の色彩をコーディネイト
「みず」がテーマの2歳児室。緑から水色へと微妙に変化する色合いが美しい!
子どもの造形〜子どもたちの作品が環境を彩る
いつでも誰でも使える造形用スモックを用意
子どもが造形活動に集中できるように、共有のスモックを準備。
アトリエの入り口には子どもたちの協同作品を展示
保護者のためにパネルやポートフォリオを展示し、製作のプロセスを伝えています。
専任のアトリエスタがいるアトリエ
専任の芸術保育士がいて、子どもたちの活動をサポート。年長クラスが協同製作をしている傍らで、年中さんが個人製作をすることができる環境です。
たっぷりの素材と使いやすい道具
十分な数の自然物や廃材などの素材、絵の具やペンなどの道具が棚に整えられ、子どもたちが使いやすいように工夫がされています。
子供たちの作品を調和的に飾る
3・4・5歳児が運動会のために作ったメダルを広場の壁に展示。小さい子どもが憧れのまなざしで眺めているのが印象的でした。
より詳しい内容が知りたければ、こちらの書籍で!
『幼稚園・保育園・認定こども園の環境構成 学びを支える保育環境づくり』
高山静子(たかやましずこ)
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授
保育と子育て支援の現場を経験し、平成20年より保育者の養成と研究に専念。平成25年4月より現職。九州大学大学院人間環境学府単位取得満期退学。教育学(博士)。研究テーマは、保育者の専門性とその獲得過程。著書に『環境構成の理論と実践』(エイデル研究所)『子育て支援ひだまり通信』(チャイルド社)他。
撮影/藤田修平 再構成/神﨑典子