日本の保育実践を研究する東洋大学ライフデザイン学部准教授の高山静子先生が案内する、豊かな保育環境の世界。
「乳幼児期の子どもは、環境に働きかけ、遊びという形で、何ども同じ行為を繰り返すことによって、環境の性質を理解し、環境に合わせて能力を獲得します。そのため、幼稚園・保育園・認定子ども園では、子どもたちが自発的に環境とかかわりをもち、豊かな学びを得ることができるように環境を構成します」(高山静子先生)
子供たちの学びを支える環境づくりに取り組む、先進的な保育園、幼稚園、こども園をご紹介します!
子供、保護者、保育者。みんなが幸せになれる「こども園」
認定こども園こどものもり(埼玉・松伏町)
全国からの見学者が後を絶たない埼玉県の「認定こども園 こどものもり」。園内に一歩足を踏み入れた途端、誰もが「わあ、気持ちいい」と感じることでしょう。
「屋外だけでなく室内も含め季節を感じ取れる空間。そして、家庭的なぬくもりがある環境を目指しました」
若盛正城園長先生の言葉どおり、木材を多用した温かい雰囲気の室内、天窓からの自然光や間接照明による採光の工夫、天井が高くて開放的なランチルーム、窓から見える木々の緑……等々は、子どもだけでなく保育者や保護者までをも穏やかな気持ちにさせてくれます。
もちろん、このすばらしい環境の原点にあるのは「子供を中心とした保育」の理念。活動によってフレキシブルにレイアウトを変えることができる「絵のゾーン」、道具や素材が自由に使える「造形のゾーン」、夏場は窓を開放にしてオープンキッチンになる「クッキングゾーン」など至るところに、子供たちの「やりたい」という気持ちを育てる工夫が見られます。
園の中心にあるランチルームに3・4・5歳児の異年齢グループが集まってきました。ビュッフェスタイルのお昼ご飯の始まりです。BGMに流れるのは、オルゴールの美しいメロディー。保育者が指示することなく、子供たちは自分が食べられる量を調整し、ランチを食べています。
「子どもたちが、ゆっくりゆっくり、やってみたくなる環境を実践していると、子どもたちの”居方・在り方“が変わってきます」(若盛先生)
子供自身がゆっくりとやってみたくなる環境
BGMが流れるランチルーム
通称“森のレストラン”。調理室はオープンキッチンで、カウンターの前には可動式のステージ(台)が設置されています。
自然がいっぱいの園庭
気持ちのいい木陰に集まって、子供たちは虫の観察やシャボン玉など、遊びながら興味・関心を深めていきます。
造形、工作のゾーン
子供たちの気持ちが動いたとき、すぐ製作にとりかかれるよう、造形の道具や素材が豊富に準備されています。
虫と出会うしかけ
虫めがね、昆虫採集の道具、ダンゴムシの巣、セミの抜け殻ケースなど、虫にまつわるあれこれが、子供たちの興味・関心を刺激します。
子供が選びやすく工夫された絵本のゾーン
窓から木漏れ日が差し込む落ち着いた空間。静かに絵本を読みたいという気持ちにさせられます。
デッキに広がるクッキングゾーン
畑で採れた野菜を洗ったり、料理をしたり、片づけをしたり。開放的なキッチンで多くのことを学びます。
整理整頓された、園庭用の玩具
園庭でのごっこ遊びの道具は、原色の玩具ではなく、インテリアや雑貨のお店で本物をセレクト。遊びが広がります。
子どもや保育者がくつろぐための和室
食事の後に園児が「畳でゴロゴロ」することもできるとか!日本の伝統文化やスタイルも大切にして、子供たちに伝えています。
保育者が穏やかな笑顔になる環境づくりの工夫
さくらルーム(会議室)
子供は立ち入り禁止の大人のための空間。窓からは桜の木が顔をのぞかせています。まるで軽井沢の別荘のような雰囲気!
ランチルーム内に大人用のテーブル
ランチルームには大人用の大きなテーブルといすも用意されています。保育者はローテーションを組んで、ここでランチをとることも。
くつろぎ時間をつくる、木陰のベンチ
大きな栗の木の下に置かれたベンチ。ここで絵本の読み聞かせをすることも。
オープンテラス
クッキングコーナーから続く園庭カフェ。トウモロコシの皮むきなどクッキングの準備も。
センスのいい美しい飾り
子供だましではない、センスのいいインテリアや飾りがそこかしこに。美しさと調和を大事にした空間づくりがされています。
保護者も子育てが楽しくなる環境
玄関へのアプローチ
表門をくぐって園内に足を踏み入れると、そこには穏やかな“気”が流れている。ベンチで小休止して、保護者も気分転換できます。
玄関
木のぬくもりがやさしく包み込んでくれる玄関。子供たちの姿を映したデジタルフォトフレームも保護者にとってありがたいアイテム。
玄関ホール
子供を待ったり、保育者とやりとりをしたりする玄関ホール。随所に、保護者と保育者とのかかわりの生まれるしかけが、埋め込まれています。
光が差し込む廊下
忙しい保護者も、ふっと気持ちが穏やかになる廊下には、自然光がさんさんと。質の高い保育環境をつくれば、それはそのまま保護者の支援につながります。
より詳しい内容が知りたければ、こちらの書籍で!
『幼稚園・保育園・認定こども園の環境構成 学びを支える保育環境づくり』
高山静子(たかやましずこ)
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授
保育と子育て支援の現場を経験し、平成20年より保育者の養成と研究に専念。平成25年4月より現職。九州大学大学院人間環境学府単位取得満期退学。教育学(博士)。研究テーマは、保育者の専門性とその獲得過程。著書に『環境構成の理論と実践』(エイデル研究所)『子育て支援ひだまり通信』(チャイルド社)他。
撮影/藤田修平、丸橋ユキ、山本まりこ 構成/神崎典子