日本の保育実践を研究する東洋大学ライフデザイン学部准教授の高山静子先生が案内する、豊かな保育環境の世界。
「乳幼児期の子どもは、環境に働きかけ、遊びという形で、何ども同じ行為を繰り返すことによって、環境の性質を理解し、環境に合わせて能力を獲得します。そのため、幼稚園・保育園・認定子ども園では、子どもたちが自発的に環境とかかわりをもち、豊かな学びを得ることができるように環境を構成します」(高山静子先生)
子供たちの学びを支える環境づくりに取り組む、先進的な保育園、幼稚園、こども園をご紹介します!
まちの保育園 六本木(東京・港区)
都心の園でも自然を豊かに
豊かな自然環境は、子供の育ちに欠かすことができません。
都市化が進み、地域や家庭から自然が失われつつある今だからこそ、保育室に、さまざまな形で「自然」を取り入れる必要があります。
まちの保育園 六本木は、都会の高層ビルの中にありながら、保育室に自然の素材を多く取り入れ、温かく居心地のよい空間をつくり出しています。
室内の飾りにも、子供が自然に関心を持ち、気づくことが意識された物が飾られています。
保育者が自然体験を意識することによって、子供の自然体験は変わります。
都心であっても、公園での自然体験、雨の日体験、ベランダや畑の体験、給食の野菜に触れるなど、自然を意識した実践が行われていました。
大都会のビルの中でも、自然環境を取り入れることは可能
高層ビル内の自然環境
大都会の高層ビルにあるとは思えないような保育環境。自然を取り入れる工夫と実践からは、多くのヒントが得られます。
植物を育てたり、観葉植物を置く
テラスでは、プランターでトマトやバジルなどを栽培していました。子供たちは「大きくなったかな?」と、その生長を楽しみにしています。収穫した野菜は、みんなで少しずつ「いただきます」。
自然素材のものを選ぶ
職員全員で柿渋を塗って作った手作りの棚。エントランスホールと保育室の仕切りにもなっています。人工素材では得られない質感と存在感はとても温か。
また、遊びの素材が十分に用意されていれば、子供は観葉植物にいたずらすることはありません。観葉植物がひとつあるだけで、子供だけでなく保護者の気持ちも和らぐものです。
玄関に設けられた「くつろぎのスペース」。木のベンチやいす、煉瓦の壁、美しい自然の写真集などに囲まれ、保護者もほっとひと息つくことができます。
子供たちのロッカーも自然素材を活用。これだけでも、保育室の雰囲気が柔らかくなります。
季節の野菜や果物に触れる
野菜や果物は、季節を感じることのできる最も身近な“自然”。トウモロコシの皮むきなど、旬の食材を子供たちと一緒に扱うこともあります。
野菜や果物なども自然物として空間を彩ります。
自然物の飾りもセンス良く
本物のセミの抜け殻も飾りになります。
保育室の飾りには自然物や自然素材のものを活用。これだけでも、保育空間が和やかな雰囲気になります。
自然をテーマにした写真集を玄関に飾るだけでも雰囲気が変わります。
自然を感じる保育空間
保育室の内装は、木や石、レンガなど自然に近い素材を選んでいます。
保育の空間のあちらこちらに、グリーンなどの自然物をレイアウト。
1歳児クラスの保育室。
2歳児クラスの保育室。
地域とのつながりも大切に
保育園の入り口にある小さなカフェ。保育の一環として地域交流を積極的に図っています。
※この記事は、2013年10月号の『新幼児と保育』に掲載されたもので、取材当時と現在では一部、保育環境等の変更がありますのでご了承ください。
より詳しい内容が知りたければ、こちらの書籍で!
『幼稚園・保育園・認定こども園の環境構成 学びを支える保育環境づくり』
高山静子(たかやましずこ)
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授
保育と子育て支援の現場を経験し、平成20年より保育者の養成と研究に専念。平成25年4月より現職。九州大学大学院人間環境学府単位取得満期退学。教育学(博士)。研究テーマは、保育者の専門性とその獲得過程。著書に『環境構成の理論と実践』(エイデル研究所)『子育て支援ひだまり通信』(チャイルド社)他。
撮影/丸橋ユキ 再構成/神﨑典子