教育と訳されるeducation の語源はeduce。「能力や可能性を引き出す」という意味です。本来の意味を知る福沢諭吉はeducation を「発育」とすべきと主張したそう。この連載では、教える側ではなく学ぶ側を主体とした「発育」をコンセプトに最先端の教育事情を紹介します。
「長女に通わせたい学校がない」と、「YES インターナショナルスクール」を自身の手で開校した竹内薫さん。小学校以外の学びの選択肢とは?
多様性の時代に知っておきたい「小学校以外」の学びの選択肢
2016年、英語やプログラミングなど先端教育を行う「YESインターナショナルスクール横浜校」を開校した竹内薫さん。
18年には、不登校の子どもたちの居場所となる東京校の運営もスタート。どちらも私立小学校ではなくフリースクールという位置付けです。日本では不登校の小学校児童が5万人を超えますが、竹内さんは日本にはフリースクールといった多様な学びの場が必要と語ります。
「日本の公教育において多様性が失われています。僕が小さい頃は、さまざまな人材が学校にいましたが、現在は同じ教育課程を経た人だけ。教職課程が悪いと言いたいのではなく、学校組織が同じ思考パターンの人だけで構成され均一になりすぎたことに問題があると思います。授業や受験も相変わらず暗記型で、結果的に勉強や学校が楽しくないと感じる子を生み出しています。不登校の理由はさまざまですが、辛いことがあるだけでなく単純におもしろくないと感じている子も多い。そのケースは、日本の遅れたシステムに原因があるのではないでしょうか」
「子どもが楽しいなら、どこにいても大丈夫」
海外では小学校以外にフリースクール、ホームスクールなど学びが多様で、合わなかったら別の学校を試すという前向きな選択ができます。ところが日本では、1つの小学校に通えないと「不登校」のレッテルを貼られるのが現状。小学校以外の居場所を選択しても中学や高校受験に不利になることはないにもかかわらず(国立附属校受験には小学校在籍が必要)、親は元の学校に戻すことだけが正解と考えがちです。竹内さんは、選択肢を知って子どもに提案してあげることも大切だといいます。
「子どもが学校に合わないと意思表示をすることは、ある意味ラッキーです。言えずに心を壊してしまうくらいなら、絶対に行かないほうがいい。学校は本来、生きる力を身につける場所であり、命を絶つ場所ではありません。親が学校だけにこだわらず、やりたいことをさせる、好きなことを伸ばすという方向にシフトチェンジできれば、子どもも自分の頭で考え楽しく学ぶ感覚を取り戻していきます」
学校に行けないのではなく、その学校が合わないだけ。学びの場の選択肢が増え、認知が広がることで「不登校」という言葉がなくなるといいですね。
「YES インターナショナルとは?」
竹内さんが校長を務めるフリースクール「YES インターナショナル 横浜校」に通うのは年長から中学生まで40名。普段の授業がどのようなものか、様子を覗いてみましょう。
学びの柱は日本語、英語、プログラミング
世界の共通語である英語、母国語である日本語、これからの必須スキルであるプログラミングという「3つの言語」を重視したカリキュラムを採用。少人数単位のクラスで「探究型授業」「アクティブラーニング」を実施し、楽しみながら自ら探究し、答えを求めるプロセスを大切にしています。
一方の東京校はカリキュラムが異なり、不登校やホームスクールの子の居場所として実践的な学びを提供。毎日通学するだけでなくつど利用も可能です。
個性あふれるカリキュラム
バレエは表現力を養い、広く体育に役立つという理由から、プロのダンサーによるバレエは必修。ダンスや音楽などの授業では、自分が好きなことを仕事にし、プロとして活躍している表現者を講師陣に迎えています。
プログラミングの実技は小1からスタート。英語で「左折」「5歩進め」などの命令が出され、その通りに動くといった体を使った授業も。高学年になると自分でプログラムを書けるようになるそう。
数学や科学の案内人として活動する竹内さんは、数学の授業でルービックキューブを活用。ルービックキューブ攻略のアルゴリズム(計算方法、手順の意味)を用いて教えています。なかには30秒で完成させる子も!
ある日の時間割り
横浜校は学年ごとではなく進度別の授業編成。算数は上級クラス、国語は一般など、ひとりひとりの進度に合わせて時間割りがカスタムされます。この日は日本文化を学ぶ百人一首のクラスもありました。
こんな選択肢もあります
離島留学制度
学校に籍を残したまま、豊かな自然環境や文化が残る日本各地の離島の公立学校に通える制度。期間は1~2年で、親子留学や里親留学など島によって受け入れ体制は異なります。国土交通省のホームページなどから募集地域のリストを閲覧可能。
公設民営フリースクール
子どもが自分にあった学習法を見つけるフリースクールの手法に着目した施設。行政が設立し、民間で運営する公民連携のもので、世田谷区のほっとスクール「希望丘」など、学校に戻ることを前提としていない施設も増えています。
ホームスクール
地域で交流をはかりながら、通学せずに自宅で学習し、学校教育に代えるシステム。多くの国では法律で認められ、補助金や税金控除のある地域も。日本ではネットの普及もあり、各地のホームスクール実践者が連携する動きが広がっています。
多様性が重視される時代、学校教育についても以前とはちがう視点や動きが出てきていることは興味深いですね。
お話を伺ったのは…
竹内 薫 さん
1960年、東京都生まれ。サイエンスライター、作家。東京大学卒、McGill大学院修了、専攻は科学史・科学哲学、理論物理学。理学博士。数学や物理、宇宙などの分野で多く執筆。著書に『「プログラミングができる子」の育て方』(日本実業出版社)など多数。 https://yesinternationalschool.com/
「発育のススメ」は『小学一年生』別冊HugKumにて連載中です。
記事監修
1925年の創刊以来、豊かな世の中の実現を目指し、子どもの健やかな成長をサポートしてきた児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターに関わっていただき、子ども達各々が自身の無限の可能性に気づき、各々の才能を伸ばすきっかけとなる誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。
『小学一年生』2021年7月号 別冊『HugKum』 構成・文/山本章子 写真/中村力也