AI時代にサバイバルできる力を!サイエンス作家・竹内 薫さんが娘のために作った学校

▼子どもたちが主役の、ユニークな授業

横浜駅から徒歩数分。何の変哲もないオフィスビルの1フロアから、子どもたちの賑やかな声が響く。こんにちは、と声をかけると、こんにちは! と元気に返ってきた。この人たちは誰? という子どもたちの興味津々の視線を浴びながら教室に足を踏み入れると、壁に貼られた絵と文章が目に留まった。どうやら、『スイミー  小さなかしこいさかなのはなし』(レオ・レオニ/作 谷川俊太郎/訳)をベースに子どもたちが創作した物語のようだ。

 

にじ色のゼリーのようなくらげ。

水中ブルドーザーみたいないせえび。

見たこともない魚たち。見えない糸で引っ張られている……

 

よくよく見ると、前の子が作った話に合わせて、次の子が話を展開させるという連作になっている。だから、結末はスイミーとはまるで違うところに着地、いや着水する。

もうひとつの教室では、外国人の講師が英語の授業をしていた。と言っても、子どもたちが手にしているテキストのタイトルは、『CLEOPATRA IN SPACE』。クレオパトラが宇宙に行くというSFモノで、イラストも満載。いわゆる教科書とは雰囲気が違う。

講師が「クレオパトラってどんな人?」と英語で問いかけると、子どもたちが思い思いの考えを英語で口にしていた。

▼財産ではなく稼げる能力を娘に残したい

ここは「イエス インターナショナルスクール」。サイエンス作家の竹内薫さんが2016年に開いた最先端教育をうたうフリースクールだ。子供と保護者から主体的に立ち上がったプロジェクトを中心に、各界で活躍する専門家がサポートする学びを提供しており、在校生は17名。補習校ではなく、子どもたちの親は地元の小学校に通う代わりに、この学校を選択した。

アメリカ人3名、フィリピン人1名、日本人1名のレギュラー講師のほかにたくさんの外部講師がいて、公立小学校の指導要領とは全く異なる授業が行われている。17名の生徒の顔ぶれは多彩だ。1年生からこの学校に通っている子、通っていた公立校になじめなくて転校してきた子、帰国子女、外国籍の子などなど。

なぜ作家が学校を? と誰もが疑問に思うだろう。その答えはいたってシンプルだった。

「娘が英語を使う保育園に通っていたんですけどね。さて小学校はどうしようかと調べ始めたら、今の日本の教育システムはかなりヤバいと気付いたんです。それで、娘のために学校を作りました」

もちろん、学校を作ろうと思っても簡単に作れるものではない。学校開設にいたるまでの孤軍奮闘は著書『子どもが主役の学校、作りました。』に詳しく記されているが、読んでいるだけでも心が折れそうになる瞬間の連続だ。それでも投げ出さなかったのは、娘の存在があったから。

「娘は私が50歳の時の子どもなので、成人する前に私が死ぬ可能性もありますよね。では何を残せばいいのかと真剣に考えました。財産という考えもありますが、日銀で勤めた後に大和証券で副社長をしていた大叔父のことを思い出したんです。とてもたくさんお金を稼いでいたのに、大叔父が亡くなって10年でその財産がなくなりました。それを見て、財産ではなくて、お金を稼げる能力こそ必要だなと思ったんです。娘には次の時代を生きていく力を与えなきゃいけないって」

 

▼想像力をつぶす暗記型教育

この言葉の裏を返せば、一般的な小学校では次の時代を生き抜く力を育てられないと切実に感じたということだ。ではなにが問題なのか。サイエンスを専門にする竹内さんの答えは明快だ。

「これからは、AIがどんどん『みんなができる単純な仕事』を代替していきます。AI時代に仕事を失わないためには、クリエティブであることが必須条件です。この最も大切なクリエイティビティをつぶす方法があるんですよ。それは、日本でずっとやってきた暗記型学習です。教科書通りに進める先生の言うことを黙って聞いて、黒板を写して、解き方を憶えて問題をこなす。これを繰り返していくと、自分で考える能力が失われます」

竹内さんによると、現在の教育システムは明治時代にプロシア(現ドイツ)から輸入された。それから現代にいたるまで効率化が進められて、ある意味、洗練された。

問題は、そのシステムがクリエイティビティの根幹である「自分で考えること」の真逆に位置する「指示通りに頑張る」能力を育むことに最適化されていることだ。これは一昔前までは必要とされた能力だったから、日本の経済力は世界トップクラスになった。

しかし、AIと共生する第4次産業革命はこれまでの社会や価値観をがらりと変えてしまうインパクトを持っている。考えなくていい単純な仕事はAIがやるようになる。それに合わせて教育も進化させなければならいのに、日本の学校教育はいまだに既存の暗記型の学力評価システムに依存している。竹内さんはそのことに危機感を持ったのだ。

それでは、新時代に求められる教育とは何なのか? 次回に続く。

 

 

竹内 薫

1960年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒。マギル大学大学院博士課程修了。理学博士。サイエンス作家。主な著書に『眺めて愛でる数式美術館』、『コマ大数学科特別集中講座』(ビートたけしとの共著)、『99.9%は仮説』など。現在YES INTERNATIONAL School(横浜、東京)の校長を務める。

 

 

YES INTERNATIONAL
「英語だけでなく、日本語にも重点を置くバイリンガル授業」「心技体の調和をもたらすバランスある教育」「既存の受験システムからの脱却」を理念に掲げるフリースクール。小学校の学習指導要領をベースとしつつ、当校独自のカリキュラムで授業を進める。横浜駅から徒歩7分。2018年夏には東京・渋谷に東京校も開校。

 

取材・文/川内イオ
1979年生まれ。大学卒業後の2002年、新卒で広告代理店に就職するも9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターとして活動開始。06年にバルセロナに移住し、主にスペインサッカーを取材。10年に帰国後、デジタルサッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て、現在はジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動している。記事やイベントで稀人を取材することで仕事や生き方の多様性を世に伝えることをテーマとする。

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