▼イメージしたのは田舎の分校
サイエンス作家の竹内さんが、娘のために設立した「イエス インターナショナルスクール」。3年目となる今年は17人の子どもにアメリカ人3名、フィリピン人1名、日本人1名の講師がレギュラーで授業を行っている。
授業は英語の割合が多いため、生徒も幼稚園などで最低限の英語を学んできた子どもがほとんどだという。しかし、英語をほとんど話せないまま入学した子どもでも、半年で外国人講師が話していることを理解し、1年後には言いたいことを伝えられるようになるそうだ。日本にいながらにして、留学しているのと同じような環境と言えるかもしれない。
日本では当たり前の「学年」の区切りはなく、習熟度や個性に応じて授業が行われる。
「田舎の分校みたいなものですね。そもそも、社会に出れば異なる年齢の人と一緒に生活するのが当たり前じゃないですか。僕が教えている算数の授業だと、2年生がふたり、3年生が5人、5年生と6年生がひとりずつ一緒に勉強しています。どうして一緒にできるんですかと言われるんですけど、2年生は数学が好きで、好奇心があるので、教えればスポンジみたいに吸収していくんです。それでもわからないことは上級生に教えてもらっています。上級生も教えることで理解が深まりますしね」
▼バカな質問こそ、大歓迎
ひとつの授業で、生徒は10名以下。これは学校の開設から3年が経ち、ひとりの先生がアクティブラーニングで教えられる生徒の最大人数は10人までだと竹内さんが確信したからだ。もともと生徒が17人という状況もあるが、試行錯誤の末に10人以下の授業に限ったことで講師の目がひとりひとりに行き届くようになったと振り返る。
授業は、子どもたちの発言を促すように進められる。子どもたちが次々と口を開くと収拾がつかなくなる、というのは、大人の偏見だ。この学校では、どんなことでも自由に意見を述べることが奨励されている。
「日本では自由にモノを言うのは良くないこととされているし、間違ったことを言うと馬鹿にされて肩身が狭い。それがどんどん積み重なると、何も言わないほうがいいやということになる。それは良くないと思う。アメリカでは、疑問点があったら手を挙げて質問します。それが馬鹿な質問でもいいんですよ。意外とみんながわかってないこともあるんだから。アメリカも様々な問題を抱えていて良いことばかりじゃないけど、子どもたちがみんなで話をして解決に持っていこうという姿勢がある。大人に答えを与えられるんじゃなくて、自分で考えることを大切にしたいと思っています」
このスタイルも、子どもが1クラス10人以下だから可能なのだろう。日本のように20人、30人のクラスで子どもが好き勝手に喋っていたら手に負えないのは明白だ。
▼外部講師を招へいする理由
「イエス インターナショナルスクール」の授業のもうひとつの特色は、多彩な外部講師が顔を揃えていること。
「カポエイラ、ウクレレ、イラストレーターなどその道のプロの方に講師をお願いしています。プロとして活動しているということは、お金を稼げる際立ったスキルを持っているということ。それを教えてほしいんです。それに、プロは教え方も違います。だから、レギュラーの先生たちには、プロの外部講師のやり方を見て学んでもらっています」
外部講師に様々な分野のプロフェッショナルを呼ぶのは、プロにしか教えられないことを期待しているだけでなく、プロでしか見抜けない才能もあるからだ。個性的な絵を描く子どもがいたとして、大人は「もっとうまく」描くように指導しがち。しかし、プロのイラストレーターならその個性を伸ばそうと考えるかもしれない。
設立者であり、校長でもあり、自分で授業も受け持っている竹内さんの教育方針を振り返ると、日本の教育方法で「これは時代遅れ」「これはやめたほうがいい」ということの逆のアプローチをしていることがわかる。
もちろん、それが最適な方法かどうかはわからない。教育には答えがないからだ。判断材料があるとしたら、それは子どもたちの学ぶ姿勢や日々の様子だろう。取材の途中、竹内さんが小さなパソコンを見せてくれた。教育用パソコン「ラズベリーパイ」を組み立て、配線し、OSを入れて実際に使えるようにしたもので、なんと小学4年生が完成させたという。
「子どもの好奇心を先生や親が潰さないことが大切だと思います。過去に存在しなかった仕事がどんどん生まれているのだから、好きなことをとがらせて、それを武器に生きていくのがこれからの時代じゃないでしょうか」
竹内 薫
1960年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒。マギル大学大学院博士課程修了。理学博士。サイエンス作家。主な著書に『眺めて愛でる数式美術館』、『コマ大数学科特別集中講座』(ビートたけしとの共著)、『99.9%は仮説』など。現在YES INTERNATIONAL School(横浜、東京)の校長を務める。
「英語だけでなく、日本語にも重点を置くバイリンガル授業」「心技体の調和をもたらすバランスある教育」「既存の受験システムからの脱却」を理念に掲げるフリースクール。小学校の学習指導要領をベースとしつつ、当校独自のカリキュラムで授業を進める。横浜駅から徒歩7分。2018年夏には東京・渋谷に東京校も開校。
取材・文/川内イオ
1979年生まれ。大学卒業後の2002年、新卒で広告代理店に就職するも9ヶ月で退職し、03年よりフリーライターとして活動開始。06年にバルセロナに移住し、主にスペインサッカーを取材。10年に帰国後、デジタルサッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て、現在はジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動している。記事やイベントで稀人を取材することで仕事や生き方の多様性を世に伝えることをテーマとする。