毎日子どもに接する中で、どんなふうにほめたり叱ったりすればいいのか、迷ってしまう人も多いのではないでしょうか? 1・2・3歳の時期に大切な子どもへの声のかけ方を、親子コミュニケーションの専門家に聞きました。
日ごろの言葉が自己肯定感を育てる
日ごろ、何気なくかけている子どもへの言葉が、実は子ども自身の自己肯定感につながっています。人は、受ける言葉によって自分の人格を形成していきます。
「ダメだよ」など否定的な言葉ばかりかけられていると、自分に自信をもつことはできません。一方で、「すごいね」「上手」とほめられてばかりでも、「上手にできる自分」にしか自信をもてなくなります。
「自分は自分だから大丈夫」と思える自己肯定感を育てるためには、「自分はありのままで受け入れられている」と実感できる言葉を、身近な大人から日常的に受け取ることが大切なのです。
非認知能力は、自己肯定感を育む過程でできあがる
AI(人工知能)時代は、「勉強ができる」「運動が得意」などの数値化できる力よりも、「目標に向かってがんばれる」「人とうまく関われる」など、数値化できない「非認知能力」のほうが重要だといわれています。
この非認知能力を身につけるためには、「自分ならできる」という自分を信じる力が欠かせません。子どもが急速に言葉を習得している今こそ、自己肯定感を育む声かけをぜひ心がけてみてほしいのです。
年齢別「声かけ」の基本
目まぐるしい成長を見せる1~3歳の時期は、年齢によって、声のかけ方を変えていく必要があります。それぞれの時期で大事な点をおさえておきましょう。
1歳 言葉を聞き取れるよう音源はひとつに絞って
身近な大人から言葉を吸収している時期です。子どもが興味をもったものを言葉にすることは、まだ話せない子どもの思いを受け止めることでもあります。
音が複数あると聞き分けられない時期なので、話すときは音楽やテレビは消して、おうちの人の声だけが聞こえる環境を。
2歳 自我が芽生える時期。感情を受け止める声かけを
自我が芽生え、感情を爆発させて自己主張する時期です。まずはその感情を受け止めて、「自分でできなくて悔しかったの?」など子どもの感情を言葉にする声かけを。感情と言葉が結びつき、感情をコントロールできるようになっていきます
3歳 一方的な指示をしないで態度で見せて
言葉でのコミュニケーションができるようになる時期ですが、「ありがとうは?」など一方的に指示しないこと。自分の中で「伝えたい」という気持ちが芽生えるよう、おうちの人が実際に言葉で伝える様子を、態度で示すといいでしょう。
3歳までの声かけ4つのポイント
自己肯定感を育むためには、幼少期に身近な大人からありのままの自分を認めてもらう体験を積み重ねることが大切です。そのためには、日ごろの声かけで次の4つのポイントをおさえておきましょう。
ポイント1 まずは子どもの感情を受け止める
自分の感情を否定されることなく受け止めてもらうことで、「感情を出していいんだ」と感じることができて、自己肯定感が育まれていきます。
「イヤイヤも受け止めるの?」と難しく感じるかもしれませんが、やり方は簡単。子どもの言葉を繰り返すといいでしょう。「イヤ!」と言われたら、「イヤなんだね」、「ダメ!」と言われたら「ダメなんだね」。まずそう伝えることで、子どもは自分の感情を受け止めてもらえたと感じるのです。
ポイント2 ほめるときも叱るときも主語を「I」にして伝える
何かを伝えるとき、「走らないで!」「小さな声で話して!」と相手(=You)を主語にして伝えていませんか。人はYouが主語になった言葉を受け取ると、支配や強要をされている印象を受けます。子どもに伝えるときは、「(ママは)ここでは走ってほしくないな」など、私(I)が主語になった言葉で伝えるよう意識してみましょう。
これは叱るときだけでなくほめるときも同じです。Youが主語の言葉でほめられると、人は「評価されている」という印象を受けてしまいます。
ポイント3 ほめるときも叱るときも表情と感情を一致させる
子どもは、言葉ではなく、表情やしぐさ、態度から情報の80%を受け取っています。「その言葉にどんな意味があるのか」を、話す人の表情を見ながら判断し、理解していくのです。
ニコニコしながら叱ったり、無表情でほめられたりしても、子どもはその言葉のもつ意味合いを理解することができません。真剣さや喜びを子どもに伝えるために、表情と感情を一致させるよう心がけましょう。
ポイント4 できてあたりまえのことをほめる
何か特別なことができたときだけほめるのではなく、「朝起きた」「ごはんを食べた」など、大人からすると「できてあたりまえ」だと思うことができたときこそ、日ごろから積極的にほめるといいでしょう。
また、できないときに叱るのではなく、できたときにほめることが大切です。身近な大人から「できたこと」について日ごろから声をかけられると、「私は朝起きるのが得意」など、自分に自信をもてるようになっていきます。
思わず叱りたくなるこんなとき…シーン別OK&NG声かけ
この時期の子どもには、子ども自身の命に関わるようなことをしたときか、他の人の命を脅かすようなことをしたとき以外は、叱る必要はありません。でも、つい叱ってしまいそうになるときもありますよね。そんなときはどう対応するといいのか、よくあるシーンごとに見てみましょう。
シーン1 「買って、買って!」 とせがむ
NG 「買わないって約束したよね?」
OK「どこがそんなに気に入ったのかな?」
これは「子どものプレゼン力をつけるチャンス!」と思って、「これのどんなところがいいの?」「こっちとどう違うの?」など質問してみましょう。
買ってとせがむときは、本当に欲しい場合もありますが、買い物に飽きた、おうちの人に注目されたいなど、別の要因が隠されていることも多いのです。子どもの顔を見ながら話を聞くなど、子どもの気持ちに向き合ってコミュニケーションをとることで、解決することもあります。
シーン2 「遊び食べ」をして、なかなか食事が終わらない
NG 「ダメでしょ!遊んでないで食べなさい!」
OK 「おもしろさに気付いちゃったんだね!でも、うどんで遊んでほしくないな。おもちゃじゃなくて食べるものだからね。ごちそうさまして、粘土で遊ぼうか!」
最初に「ダメ!」と否定の言葉を言われると、その後に続く言葉は頭に入らず、「否定された」という体験だけが残ってしまいます。まず子どもの「遊びたい」という気持ちを受け止めてから、こちらの気持ちを伝え、その次にルールを伝えましょう。
また、「遊び食べ」が始まった時点で、子どもにとって食事は終了しています。伝え方を工夫するなどして無理に食べさせようとしないほうがいいでしょう。
シーン3 お友だちが遊んでいるものを取ってしまう
NG 「お友だちのものを取ったらダメだよ!」
OK 「それで遊びたかったんだね」
ここでも否定から入るのではなく、まず子どもの気持ちを認める言葉をかけましょう。その上で、相手の子に対して「取っちゃってごめんね。ちゃんと返すね」とおうちの人が謝ります。
次に、「それはお友だちのだから返そうか」と子どもに伝えましょう。子どもは、おうちの人が謝っている姿を見て、「自分はいけないことをしたんだ」と気づき、ルールを学んでいくのです。
記事監修
上智大学卒業後、テレビ局アナウンサーを6年務めフリーに。NHK Eテレ『すくすく子育て』キャスターとしての経験を生かし、全国の親子に寄り添いながら、親子コミュニケーションアドバイザーとして講演会、企業セミナー講師などを務める。著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)など。
『ベビーブック』2020年12月号別冊
文/洪 愛舜 構成/童夢 イラスト/今井久恵 画像/PhotoAC