新札は、いつから発行される?
2019(平成31)年4月9日、財務省は1000円・5000円・1万円の紙幣(日本銀行券)を一新すると発表しました。
現在の紙幣が発行されたのは2004(平成16)年で、およそ20年ぶりのデザイン変更となります。具体的には、いつごろの発行予定なのでしょうか。
発行予定は、2024年4月から9月ごろ
今回の財務省による発表から発行までは、約5年の期間があります。前回のデザイン変更時は約2年だったので、それに比べるとかなり早めの発表です。
2019年4月1日には、新元号「令和(れいわ)」が発表されたばかりでした(5月1日が改元日)。そのため「祝賀気分を高めて政権支持につなげる意図があったのでは」という人もいますが、実際のところは分かりません。
新紙幣発行とともに、500円硬貨の刷新も発表されています。発行にあたる国立印刷局や準備をする各企業にとっては、発表は早いほうがありがたいでしょう。
新札発行による経済効果
新札が発行されると、それに関連した仕事が増えるため、経済効果があるといわれています。新しく紙幣を発行する費用の試算は、各紙幣・500円硬貨合わせて約6114億円です。
また、それまで使用していたATMや自動販売機を改造したり、作り直したりする必要もあります。
ATM(現金自動預払機)・CD(現金自動支払い機)の新札・新硬貨への対応にかかる費用は推定3709億円です。自動販売機は、買い換え・改修合わせて6064億円かかるといわれています。
このような特殊な需要により、好景気になることが期待されているのです。
新札を発行する理由とは?
新札発行には、多額の費用がかかります。にもかかわらず、紙幣を一新するのには、どのような理由や目的があるのでしょうか。
偽造紙幣による被害防止のため
偽造紙幣が多く出回ってしまうと、偽札(にせさつ)被害に遭うだけでなく、手に取ったお金を信頼できなくなってしまいます。そのため、定期的に紙幣のデザインを新しくしたり、新たな偽造防止技術を施したりする工夫がされているのです。
偽造防止のための印刷技術も大幅な進歩を遂げています。前回発行から20年が経(た)つことから、新札導入で偽札被害を防ぎたい考えがあるのです。
3D肖像と回転ホログラムを新採用
「ホログラム」とは、レーザーを使って立体画像を記録したもののことです。
新札では、3Dの肖像が回転するホログラムを世界で初めて採用しました。肖像が浮き上がって見えるだけではなく、左右からのぞいても正面の顔が追いかけてくるように見えるのです。
従来のお札にも、金額部分などにホログラムが採用されていますが、それよりもさらにパワーアップした技術が使われることになりました。マネされにくい技術を導入することで、紙幣偽造などの犯罪防止が期待できます。
新札に描かれる人物
新札ではデザインも刷新され、描かれる人物も代わります。人物はどのような条件で選ばれたのでしょうか?
肖像が決まる条件や、今回の肖像の選定理由も含めて解説します。
肖像の決め手は認知度と貢献度
財務省は近年、下記の見地から肖像を選定しています。
- 偽造防止の観点から、なるべく精密な写真を入手できること
- 肖像彫刻の観点からみて、品格のある紙幣にふさわしい肖像であること
- 肖像の人物が国民各層に広く知られており、その業績が広く認められていること
なるべく精巧な写真を手に入れるために、明治時代以降の人物から選ばれています。
新紙幣の肖像に選ばれた北里柴三郎(きたざとしばさぶろう)・津田梅子(つだうめこ)・渋沢栄一(しぶさわえいいち)は、各分野で輝かしい功績を残しており、紙幣の肖像にふさわしい人物だといえるでしょう。
【1000円札】細菌学の父「北里柴三郎」
新1000円札に採用された北里柴三郎は、世界で初めて破傷風菌(はしょうふうきん)の純粋培養に成功した医学者・細菌学者です。
破傷風とは、傷口から体内に入りこんだ破傷風菌が筋肉をケイレンさせる病気で、以前は、治療法もなかったことから多くの人に恐れられていました。
1852(嘉永5)年に熊本県で生まれた北里柴三郎は、内務省から国の留学生としてドイツに渡ります。そこで結核菌の発見者であるローベルト・コッホに師事し、数々の貴重な研究結果を発表しました。
1889(明治22)年には破傷風菌の純粋培養に成功し、1890年には血清療法を発見します。これにより、破傷風の予防法・治療法が確立したのです。
数十年後に抗生物質が使用されるようになるまで、多くの感染症の治療に血清療法が使われ、大幅な死亡率減少に寄与しました。
参考:北里大学北里研究所病院
【5000円札】津田塾の創立者「津田梅子」
津田梅子は、日本初の女子留学生の一人で、近代的な女子高等教育に尽力した人物です。
1871(明治4)年に8歳で渡米して、初等・中等教育を受けて帰国しましたが、当時、日本では女子が高等教育を受けることが重視されていませんでした。また、女性のための働き口がほとんどないことにもカルチャーショックを受けます。
「女性の地位を高めなければ」との思いを募らせた津田梅子は、1889(明治22)年の再留学を経て、1900(明治33)年に津田塾(つだじゅく)大学の前身である「女子英学塾」を設立しました。
苦労を繰り返しながらも信念を貫いた姿は、現代の私たちにも勇気を与えてくれるのではないでしょうか。
参考:津田塾の歴史|津田塾大学
【1万円札】日本資本主義の父「渋沢栄一」
渋沢栄一は、日本で最初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)やキリンビール、東京ガスなど、生涯で500以上の企業立ち上げに関わった人物です。
明治新政府で民部大蔵両省の役人として働いていましたが、33歳のときに辞職して、民間実業家となります。1873(明治6)年に第一国立銀行の総監役に就任し、1878年には東京株式取引所を設立しました。
著書である「論語と算盤(そろばん)」は、道徳と経済を両立させる重要さを説いた名著です。コミック版も発行されているので、手に取って親子で楽しんでもよいでしょう。
20年ぶりの新札発行、2024年を待とう
新紙幣の発行まで、残り数年となりました。新札発行の理由や新たに肖像となる人物について、子どもと話してみてはいかがでしょうか。社会の仕組みについて学べるだけでなく、より興味を持ってお金を扱うきっかけになるかもしれません。
構成・文/HugKum編集部