小説「彼⼥が好きなものはホモであって僕ではない」が神尾楓珠主演で映画化
浅原ナオトの小説「彼⼥が好きなものはホモであって僕ではない」を、神尾楓珠主演で映画化した『彼女が好きなものは』が12月3日(金)より公開されました。本作は、LGBTQについて描く青春映画ですが、いわゆるマイノリティーの息苦しさをリアルに綴った秀作であることはもちろん、子を持つ親からの視点も丁寧に織り込まれた映画なので、多くの人に観ていただきたいと思いました。
現在放送中の連ドラ「顔だけ先生」でも熱い視線を浴びている新進若手俳優の神尾さんにとっては、初の主演映画となりました。ヒロインは『樹海村』(20)や『ひらいて』(20)など映画主演作が相次ぐ山田杏奈が務めています。
神尾さんが演じているのは、ゲイである主人公、安藤純役で、BL好きを隠しているクラスメイト、三浦紗枝(山田杏奈)と出会い、交流していきます。純には年上の恋人、佐々木誠(今井翼)がいますが、彼は妻子持ちのよう。ある日、紗枝から好きだと告白された純は、自分も普通の幸せをつかみたいと思い、彼女とつきあうことにします。
2019年にはNHKでは「腐⼥⼦、うっかりゲイに告る。」のタイトルでドラマ化もされた本作ですが、映画は敢えて『彼女が好きなものは』としたことで、間口が広がった気がします。また、その余白が観終わったあと、清々しい感動と余韻を広げたのではないかと。
ゲイである息子の心の叫びを受け止める母親に涙
純はゲイだとカミングアウトしてないので、クラスメイトはもちろん、母であるみづき(山口紗弥加)もそのことを知りません。心のよりどころは、恋人の誠とSNSでのみつながっている同じゲイのファーレンハイトのみ。
ところがあるきっかけで、純がゲイであることが学校の友人やみづきにバレてしまうことに。みづきは、思春期の息子をおおらかに見つめてきた良き母ですが、さすがに息子の告白には戸惑ったようです。
みづきは自分も同性の先輩に憧れたことがあるという経験を口にしますが、純が聞きたかったのは、そんなにライトな言葉ではなかったようです。そして、純から「ずっと悩んできたんだよ。女の子を好きなふりをして必死に周りに合わせて生きてきたんだよ」と涙ながらに訴えられたことで、みづきは改めて息子がこれまで抱えてきた心の葛藤に気づきます。
ずっと隠し続けてきた本音をみづきに告白することで、親を傷つけてしまうこともわかっている純の胸中が痛いほど伝わってきたし、息子が吐露する切実な思いを懸命に受け止めようとする母の涙を見ても、胸がしめ付けられる思いでした。
もしも同じ状況に自分が置かれたとしたら、どんな言葉を返せるでしょうか。きっとママやパパたちが観たら、突きつけられた課題について、大いに考えさせられると思います。
マイノリティーを社会がどう受けとめていくべきか
原作者の浅原さんは同性愛者だとカミングアウトされていますが、生々しい苦しみや魂の叫びが、原作にはリアルに綴られていました。ちなみに浅原さんは完成した映画について、こんなコメントを寄せていますが、実に納得。
「好きな相手が同性でもいいと思うよ」では片づかない複雑な内面を書いた物語は、多くの方の共感と好評を得て、映画化にまで至りました。その複雑さはこの映画にもしっかり残っていると思います。
確かに、この映画はいい意味で“複雑”で、純たちマイノリティーの苦悩を他人事として逃げずに、きちんと覚悟をもって描いています。純が劇中で紗枝に、物理の授業で習ったことを引き合いに出し「“ただし、摩擦はゼロとする”ってあるでしょ。“空気抵抗は無視できる”とか」と、まさに“見て見ぬ振りをする”という人間関係におけるメタファーを口にしたあと「複雑なことを無視して世界を簡単にしたくないんだ」と自分の意志を伝えるシーンが印象的です。
実際、これだけLGBTQについて声高に討論されるようになっても、私たちのなかにある“普通”という価値観はある意味、かたくなで、社会がマイノリティーをどう受け止めていくのか、という問題は非常に複雑です。だからこそ、純の真実を知った紗枝たちが決してひるまず、しっかりとこの問題について考えていこうとする姿に、希望を見出せるのではないかと。
神尾さん、山田さんら役者陣のアンサンブル演技も秀逸だし、非常に見応えのある映画になっているので、ぜひ親子で観ていただき、アフタートークに花を咲かせていただけたら幸いです。
監督・脚本:草野翔吾 原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」(角川文庫刊)
出演:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、三浦獠太、池田朱那、渡辺大知、三浦透子/磯村勇斗、山口紗弥加/今井翼…ほか
公式HP:https://kanosuki.jp
文/山崎伸子
©2021「彼女が好きなものは」製作委員会