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初潮が来る時期は、身長が伸び始める時期がわかると予測できます
男の子と女の子には、それぞれ発育の特徴があります。出生時の体重は男女で大きな差はなく、小学校に入って体重が30㎏になると、しだいに体の中身が違ってきます。
女の子を育てる親御さんが、特に気になるのは「初潮」がくる時期でしょう。初潮の時期は身長が伸び始める時期がわかると、だいたい予測できます。
9割の子が身長スパート→体重スパート→初潮の順で発育
もともと女の子は平均的に9歳を過ぎると、身長が伸びる「身長スパート」が始まります。同時に胸がほんの少しふくらみ、わき毛が生え始めたあとに、体重が増える「体重スパート」がスタートします。女性ホルモンの働きで脂肪がさらに増え、やがて身長の伸びがゆるやかになったかなと思うころに初潮が見られます。
通常、初潮後の身長の伸びは3~4㎝程度ですが、なかには10㎝から15㎝以上も伸びる子もいます。そういう子は、170㎝台と大きくなる可能性があります。
また体重スパートが先に来て、それから身長が伸びる子もいます。しかしながら、こういった例外は1割程度で、およそ9割は身長スパート→体重スパート→初潮という順に発育していきます。
近年は初潮が早まっているといわれます。実際、戦後は平均14歳でしたが、今は平均12歳と引き下がっています。これより早まることもなく、ここで止まっています。
しかしながら初潮がくる時期は、8~16歳と個人差が大きいものです。
中学生になっても、まだ初潮がこないと心配される親御さんもいらっしゃいますが、そのときは成長曲線をつけて身長スパートが始まっているかどうかチェックするとよいでしょう。
身長スパートが遅いと初潮までに4~5年かかるケースもありますが、基準の成長曲線に、ほぼ沿って発育していれば、必ず身長スパートがきて、初潮もくるので心配いりません。
「成長曲線」の下の線から大幅に外れてしまう場合は、小児内分泌科の受診を
成長曲線が低いところからどんどん下がり、下の線からはずれてしまう場合は、何らかの疾患の可能性があるので、小児内分泌科を受診してください。場合によっては、そこから産婦人科や、他の科を紹介されることもあります。
小児内科分泌科では、成長ホルモンが不足していないか、脳腫瘍や甲状腺ホルモンの病気がないかといったことを調べます。成長ホルモンが基準以下であれば保険適用で投薬されます。
「甲状腺肥大」で身長が止まった5年生女子のケース。親は気づかず養護教諭の助言で治療が間に合った
ある小学校の養護教諭に聞いた話です。小学校6年生の女の子が、4月の内科健診で学校医から「甲状腺肥大」と指摘されました。そこで親御さんに疾病通知を出して、病院に連れて行くように伝えたそうです。しかし、そのお母さん自身に甲状腺機能低下症があるため、「私に似たんでしょう、大丈夫よ」と片づけて病院に連れて行きませんでした。
しかし、9月に身長を測ったら、やはり伸びていない。当時、その子は小学校6年生で142~143㎝。これまで身長は順調に伸びていました。それが伸びていないのです。
そこで再度、養護教諭が「この成長期に甲状腺異常があると、このまま身長が止まってしまう。治療をすれば、まだなんとか伸びますから」と受診を強くすすめ、ようやく親御さんは病院に連れて行ったそうです。
医師からは、もし放っておいたらこのまま身長が止まってしまっただろう。投薬などで150㎝台まで伸ばせる可能性がある、と言われたそうで、その養護教諭は、親からとても感謝されたということです。
発育の土台を示す「スキャモン発達曲線」
子どもの身長スパートが起こる時期は、第二次性徴、いわゆる思春期と呼ばれる時期です。この時期は、体の変化と同時に、ずっと眠っていた「性ホルモン」が一気に出ます。これを見出したのは、アメリカの医学者で人類学者であったスキャモンです。
スキャモンは0歳からの人の成長発育を20歳を100%として考え、粘り強い調査結果から、ヒトの器官や機能の発育、発達は「リンパ型」「神経型」「一般型」「生殖型」の4つのパターンに分類されることを突き止め、1930年、20歳の状態を100%とした0歳からの変化について発表しました。その様子を図にしたのが「スキャモンの発達曲線」です。
【リンパ型】
扁桃やリンパ節など免疫に関するもの。図を見るとわかるように、12歳ごろ(現代の子どもではもう少し早い時期)に目覚ましく発達するので、この時期に乾布摩擦をしたり、薄着をしたりして、体を鍛えると、免疫力を上げるのにより効果的と言われています。
【神経型】
脳神経や視神経などの神経は、生まれた直後から6歳ごろまでに、成人の80~90%まで発達し、12歳ごろに100%近くなります。これが、かつて早期教育の支えになりましたが、90年代以降、詰め込み教育は大きく大きく、走る、蹴る、投げる、打つなど、いろいろな基本的動作を組み合わせてできるようになることが最大の課題であるとわかってきました。泳ぐ、自転車に乗るといった動作も12歳までにマスターしておかないと、あとから身につけようと思っても時間がかかり、なかなか難しいということです。
【一般型】
身長や体重、臓器、筋肉、骨、血液の発育、発達を追ったもの。生まれてすぐは急速に成長し、その後少しゆっくりになりますが、第二次性徴でまたぐんと伸びるという形です。体が大きくなる小学校時代に持久力をつける運動を積極的に行うことが大切とされています。
【生殖型】
性ホルモンに関連する曲線です。生まれてからは全くピークがなく、第二次性徴で一気に発達することがグラフからも見てとれます。
この性ホルモンとは嵐のようなもので、この時期の子どもたちは、その嵐に巻き込まれて、気持ちがとてもアンバランスになります。特に男の子のほうが、あらわれ方が顕著ですが、男の子でも女の子でも親としては、子どもにはそういう時期があるんだと心得て、ふだんから何でも話し合える関係性をつくっておくとよいでしょうね。
このスキャモンの発達曲線は、さまざまな発育、発達を考える上での土台になっていますので、知っておくとよいでしょうね。
脂肪が増えるのは大人の体になる準備。思春期のダイエットNGには理由があります
また、女の子の場合、性ホルモン機能が急激に発達すると、女性ホルモンの影響で、どうしても脂肪が増えます。この時期は体重が増えますが、その体重増加の中身のほとんどが脂肪なのです。
一方、男性のホルモンの影響を受ける男の子は、筋力が骨の重量が増えていきます。脂肪ではない部分が増えていく。この男女の違いは、歴然としています。
この時期の女の子は、体重が増えてふっくらしてくることを気にして、ダイエットを始めようとする子もいますが、親としては「大人の体になる準備だから、ちゃんと栄養をとらないとダメだよ」と、しっかり伝えてほしいと思います。子ども時代に栄養を取り込むスピードや効率性は、大人とはケタ違いです。発達しているときは、タンパク質やカルシウムなどの栄養をバランスよく取り込むことが何よりも大事なのです。
将来の骨の状態が決まるのは18歳から20歳くらいまで
特にカルシウムを最も取り込むのは、18歳から20歳くらいまで。この時期のカルシウム量で、将来の骨の状態が決まるといわれていますので、基本的に20歳まではダイエットは控えてほしいものです。20代台で骨粗しょう症が進み、正座しただけで足首の骨が折れたという、うそのような本当の話も聞きますから。
思春期の子どもであっても科学的な話には、耳を傾けてくれます。もしお子さんが体重を気にしているようなら、親御さんは、こういった栄養の大切さを、さらりと伝えられるとよいですね。
小林正子先生
お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)
子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。
子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。
取材・構成/池田純子 イラスト/まる